世界各国でSTEM(Science、Technology、Engineering、Math)教育に対する関心が高まりを見せ、学校現場での取り組みやカリキュラムの積極採用が進む中、日本でも2020年の小学校プログラミング教育必修化に向けて産学官を挙げた取り組みが広がっています。
2018年11月、私たちは国際的なロボットコンテストWRO 2018 タイ※1を視察しました。世界60を超える国と地域から20,000を超えるチーム(小学生から大学生まで)が参加するWROには、代表チームの子どもたちの他、各国から公教育の関係者、学校の教職員、民間教育の指導者や関係者が多数訪れます。今回、世界のSTEM教育の最新事情を間近で目にし、肌で感じることのできる貴重な機会を活かし、会場で六カ国の教育関係者へインタビューを試みました。本日は、ネパールとタイの方へのインタビューを中心にお届けします。
ネパール連邦民主共和国
STEM Foundation Nepal 代表
Surgeon BC 氏
世界最高峰エベレストを有するネパールの教育制度
ネパール連邦民主共和国(以下、ネパール)は、インドと中国チベット自治区と接する南アジアにある国です。北海道の1.8倍ほどの大きさがあり、人口は約2,900万人に上ります。世界最高峰であるエベレストが含まれるヒマラヤ山脈が国の南半分を占めています。
ネパールの教育の特色として、5歳から25歳までを義務教育期間と設定している点が挙げられます。5歳から12歳までを「基礎教育」に区分けし、無償で教育を受けることができます。「基礎教育」の後、13歳から16歳を「中等教育」とし、「中等教育」の最終学年時に学校教育修了試験が実施されています。2016年時点での就学状況は5-9歳で97.2%、10-12歳で92.3%となっています。
今回インタビューに答えてくださったSurgeon BC氏が代表を務める「STEM Foundation Nepal」は、ネパールの科学技術力向上のために国内の青少年に対してSTEM教育に関する活動を促し、先導していくために設立された団体です。ネパールのSTEM教育を先導する立場として、同国のSTEM教育の現状についてお話を伺いました。
新しい取り組み、STEM教育とその魅力
ネパールでは、2017年からSTEM教育の導入が始まりました。学校ではワークショップを通じて地域問題を考えるプロジェクト(特にロボット工学に関する教育)に注力しています。そうした活動の結果WRO2018 タイでは、ネパールとして初めて代表チームを派遣したそうです。Surgeon BC 氏は、「STEM教育は従来の座学の勉強とは異なり、手を使って勉強に取り組むので、生徒たちにとっても非常に魅力的かつ集中して取り組んでいる。生徒にとってSTEM教育は素晴らしい学びの機会となっている」と語っていました。
ネパールにおける今後のロボットコンテストへの取り組みについて
WRO2018 タイには、オープンカテゴリー(※2)にネパールから2チーム(中学生チーム:Team Nepal1、高校生チーム:Team Nepal2)が出場しました。WRO2019 ハンガリーには、小学生から大学生の中から最低4チーム出場することを目指しているとSurgeon BC 氏はお話しくださいました。
参考リンク
- 国・地域の詳細情報 (平成29年12月更新情報)ネパール 外務省
- ネパール基礎データ(外務省)
- ネパール(コトバンク)
- Vision & Mission (STEM Foundation Nepal)
タイ
タイ国立科学博物館(National Science Museum Thailand)館長
Vivan Varvivong氏
タイでは日本と同様の教育制度「6・3・3・4年制」を採用しており、中学校までが義務教育とされています。2013年から学校教育の中で本格的にSTEM教育の取り組みが始まりました。それから5年が経ち、WROをタイで開催するに至った経緯について、タイ国立科学博物館の館長を務めるVivan Varvivong氏にお話を伺いました。
日常生活のあらゆる場面にSTEM教育があふれている?
館長を務めるタイ国立科学博物館の役割として、学校以外の場所でSTEM教育に触れる機会を提供することが求められていると語ります。日常生活のあらゆる部分で科学技術が活用されており、そうした技術を子どもたちに気づいてもらえるような学びの機会を提供されています。具体的には、理科実験教室や理科実験ショーの開催、ロボットやパソコンを使ったプログラミング体験の場を設けているそうです。
上記のような活動を通じて、子どもだけでなく親や先生たちにも科学技術について理解を深め、身近に感じてもらいたいと期待されていました。
ロボットコンテストを通じて、実現したい想いとは
Vivan Varvivong氏の言葉を引用します。
「学校教育の中でSTEM教育を完結させてはいけない。なぜならタイの学校教育の中では公式や概念を学んでいるだけなのです。学んだ知識をロボット大会などの競技会などを活用し、実践する場を提供することが大事なのです。そうした想いからタイでWROを開催するに至りました。WROだけでなく様々なロボットコンテストは子どもたちが科学技術への興味関心を持つきっかけになるだけでなく、職業として科学者やエンジニアを目指すきっかけとなるかもしれません。そうした機会を提供することが、より良い世界を作る上で非常に大切な取り組みなのです。」
参考リンク
- 日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 30 No. 9(2016)
大隅 紀和 OES 研究所代表,京都教育大学名誉教授
STEM 教育の動向と検討 ―タイ国状況とアユタヤ地域総合大学 ARU における現地協力活動から― - 諸外国・地域の学校情報 タイ(外務省)
- Science Lab-Science Museum Activities(National Science Museum Thailand)
- Activities- INFORMATION TECHNOLOGY MUSEUM(National Science Museum Thailand)
WRO(World Robot Olympiad)
WRO(World Robot Olympiad)は、世界の60を超える国と地域から参加チームが集まる国際的なロボットコンテストで、小学生から大学生までの子どもたち(児童、生徒、学生)が参加します。ロボットを組み立てプログラムで制御する自律型ロボットによる競技が行われます。国際大会は、そこに集結する各国代表チームのコーチや関係者、国際委員らとの情報交換やインタビューを通して、世界のSTEM教育について知ることのできる貴重な機会です。
オープンカテゴリー
WROでは競技部門が4つに分かれています。オープンカテゴリーは、事前に与えられたテーマに沿った設計・デザインしたロボットを使ってプレゼンテーションを行う部門です。国際大会では、審査員に対して英語によるプレゼンテーションを行います。
参考リンク
- WRO Japan
- WRO2018 Thailand
シリーズ記事一覧
- [インタビュー動画] WRO 2018 タイで聞く、各国STEM/プログラミング教育の最新事情(カナダ/コスタリカ)
- 心にも体にも優しい食事介助ロボット「もぐもぐくん」にかける想い
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- WRO 2018 タイ国際大会入賞チームの指導者に聞くこれまでの道のり
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- 「目指すは世界一位!」国際ロボコン参加を通じた高校生チームの学び、コーチの関わり方