日本では全国各地でたくさんのロボットコンテストが開催されています。その中でも国際大会を目指すことのできる大会があることをご存知でしょうか。WRO(World Robot Oliympiad)と呼ばれる自律型ロボットによるコンテストは、2004年に第1回シンガポール大会が開催され、今年タイ チェンマイで開催された大会が15回目となりました。
WRO(World Robot Oliympiad)
レギュラーカテゴリー
最も参加チームの多いレギュラーカテゴリーは、指定される競技コース・課題をできるだけ速くかつ正確にクリアすることが求められます。小学生、中学生、高校生部門があり、指定される市販ロボットキットのみを用いてロボットを制作します。
他にも、Advanced Robotics Challenge(ARC)とオープンカテゴリーがあります。
Advanced Robotics Challenge(ARC)
17~25歳の学生対象。非常に高度な制御と複雑な機構にトライするため、ロボットの深い理解と工夫、より高い技術力による解決が必要とされます。
オープンカテゴリー
社会問題を解決するロボットの制作がテーマ。2018年のテーマは「FOODMATTERS」=「食糧問題」。当日はチームごとにブースを設置し、ロボットやポスターなどの展示物、審査員に向けてのデモンストレーションやプレゼンテーション(国際大会では英語による)等によって審査されます。
本記事では、WRO 2018 タイにおいてレギュラーカテゴリー、シニア(高校生)部門の自国代表として参加した「台湾」と「ロシア」の2チームへのインタビューを元にお伝えします。彼らがWROへのチャレンジを決めたきっかけ、そこから得た学び、大会を通じて感じた思いを語ってくれました。
台湾代表、世界一位に輝いた「Taiwan Golden Sun」
国内の予選会、決勝大会を経て挑むWRO 2018 タイでは、言うまでもなくレベルの高い競技が繰り広げられます。今回レギュラーカテゴリー、シニア(高校生)部門では台湾のチーム「Taiwan Golden Sun」が世界一に輝きました。スコアの合計は2位のチームと同点でしたが、タイムで13.72秒の差で勝利しました。このチームの特徴は、コーチ(大学生)とチームメンバー(高校生)の年齢が近いことです。年齢が近いこともありコーチとチームメンバーの距離が近く、和気あいあいとした雰囲気が印象的でした。
高校での学び、大会出場のきっかけについて
Q:高校では何を学んでいますか?
チームメンバーAさん:高校では主に科学を学んでいます。
Q:台湾では高校生全員がプログラミング教育を受けているのですか?
チームメンバーAさん:いいえ、そんなことはないです。
Q:では、なにがきっかけでプログラミングを始め、このチームでWROにチャレンジすることになったのですか?
チームメンバーBさん:僕たちはプログラミングを学ぶ塾に通っていて、そこで知り合ってチームを組みました。プログラム歴は約5年です。コーチは現在大学生で、同じ塾に通っていたのでもともと知り合いでした。
台湾のプログラミング教育事情
台湾と日本の教育制度はよく似ています。日本と同じく、小学校6年間・中学校3年間の9年間が義務教育で、台湾教育部(日本の文部科学省に相当)が交付したカリキュラム(日本の学習指導要領に相当)に従って教育が行われます。「プログラミング教育」は、中学での「情報」のカリキュラム内に記載があります。しかしながら、必須内容ではないため教育現場である各学校にて実施が決められているのが現状のようです。[1]
大会に参加して学んだこと、将来の夢
Q:WROに参加したことで、チームとしてどういった学びがありましたか?
チームメンバーBさん:たくさんの強いチームが世界中から集まって一緒に競技をするので、国内で戦うより大変ですが、新しい友人がたくさんできますし、多くのロボットや動きを実際に見ることでとても勉強になります。
Q:将来どういった進路を考えていますか?
チームメンバーCさん:僕は、将来は医師になるのが夢です。
Q:WROではプログラミングのスキルも身につくと思います。医師という職業は、プログラマーほどスキルと仕事内容が直結していないように思いますが、医師になってもこの経験は活かせると思いますか?
チームメンバーCさん:はい、思います。この大会に出るためには準備や勉強が必要ですし、一緒に頑張る仲間とのチームワークの大切さも学びました。医師は人を助ける仕事なので、その点で活かせるかなと思っています。
コーチとしての関わり方を聞く
元々同じ塾に通っていた仲間だったという大学生のコーチにも、チームメンバーとの関わり方を聞きました。
Q:チームが力を発揮できるようコーチとしてどういったアドバイスをしてきましたか。
コーチ:自分がアドバイスするというより、メンバーが考えながら取り組んでいます。
Q:メンバーに対して、普段コーチとして心がけていたことなどがあれば教えてください。
コーチ:自主性ですね。練習ではロボットの組み立てやプログラミングをやってみて、うまくいかなかったら考えて修正する過程を繰り返します。私自身はあまり口を出さずに、チームメンバー同士で意見を出し合って前に進めるようサポートするよう心がけました。
まとめ
日本では、2020年に小学校で「プログラミング教育」が必修となり、さらに高等学校でも2022年に新学習指導要領の全面実施が予定され、全ての生徒がプログラミングを学習する流れにあります。プログラミングの知識だけでなく、学習の中で目標達成への工夫や意欲、周囲の人達との連携を身に着けていくことが大事なのかもしれません。自主性と挑戦を重んじている台湾チーム。将来の活躍が楽しみです。
ロシア代表、「毎年参加が楽しみ!」~親子で挑む「絆」と「経験」の世界大会~
4年連続でロシア代表としてWROに参加しているチーム「RVD-Robolen’」からお話を聞くことができました。どういったきっかけでプログラミングに出会い、大会を通してどういった学びを体験しているのでしょうか。今回インタビューに応じてくださった「RVD-Robolen’」のコーチは、チームメンバーの1人のお父様です。4年間に渡って彼らを間近で見守り、チームとして関係を築き上げ、サポートを続けるコーチ兼お父様は、何を感じているのでしょうか。
大会出場のきっかけ、プログラミング経験について
Q:WROに参加したきっかけとプログラミング歴を教えてください。
チームメンバー:4年前だったかな。街のイベントでEV3を触る機会があり、その時に触ってみてとても興味を持ったのが始まりです。その年にWROロシアが開かれたので出場し、それからは、インド、コスタリカと連続で参加して、今年のタイで4回目の出場になります。参加できるのがとても楽しみになっています。
Q:普段はどこでプログラミングを学んでいますか?
チームメンバー:学校と家ですね。ただ、学校では他の授業もあってあまり時間は取れないので、基本的には学校が終わった放課後に家(学校外)で取り組む時間が多いです。コーチは、僕の父が務めてくれています。
Q:ロボットコンテストに参加したことで、チームとしてどういった学びがありましたか?
チームメンバー:WROに参加した際にいつも思うことは、世界中の人々が各地から集まって競うので、自分たちとは違った形のロボットを見たり、同年代の子達とお互いに文化を教え合って新しいことを吸収できたりすることが、普段できないことなのでとても楽しいです。
Q:将来どういった進路を考えていますか?
チームメンバー:まだはっきりと決めてはいません。ただ、このWROを通じて世界に出ること、プログラミングの楽しさを感じたので、ロボット関連の研究が有名なロシアの大学に行って、できたらプログラマーになりたいと思います。
Q:チームが力を発揮できるよう、コーチとしてどういったアドバイスをしてきましたか、またWROに参加することで得られるものは何だと思いますか。
コーチ:得られたものとして一番大きいのは、経験ですね。この大会を通じて、子供たちは自分たちで考えてロボットを作成したりプログラムを試行錯誤したりしているので、参加した後では自分たちで考える癖がついていると思います。指導という面では、基本的には子供たちが自分たちで試行錯誤しているのであまり細かく指導しているという感じでなく、子供たちの意思に任せています。
まとめ
今回ご紹介した二カ国は、自国の代表チームとして国際大会に参加することでトレーニングの成果を発揮し成果を残しています。国や地域を問わず、同じルールのもとで競技することは、時にとても難しい壁となることがあります。それでも、同じ目標をもった仲間と共に「世界」を目指して試行錯誤を続けることは、短期間で飛躍的な成長を遂げる機会となるでしょう。ロボット制作やプログラミングといった技術面はもちろんのこと、仲間と協力する中で培ったチームビルディングやコミュニケーション、競技を時間内に終わらせるために頑張る中で身につくタイムマネジメントなど、社会に出てからも役立つ要素を並行して身に着けることができるのではないでしょうか。
参考リンク
- [1]諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究
(文部科学省平成26年度・情報教育指導力向上支援事業) - WRO 2018 タイ国際大会 公式WEBサイト 国際大会 競技結果