日本では全国各地でたくさんのロボットコンテストが開催されています。その中でも国際大会を目指すことのできる大会があることをご存知でしょうか。WRO(World Robot Oliympiad)と呼ばれる自律型ロボットによるコンテストは、2004年に第1回シンガポール大会が開催され、今年タイ・チェンマイで開催された2018年の大会が15回目の開催となりました。
競技の一つであるオープンカテゴリーは社会問題を解決するロボットの制作と発表が課題で、2018年のテーマは「FOODMATTERS」=「食糧問題」です。今日、8億1,500万人(世界人口の9人に1人)が飢餓に苦しみ、さらに3人に1人が何らかの栄養不良に苦しんでいるといわれています[1]。世界人口の増加に伴い、毎年より多くの食糧を生産する必要が出ています。また、栄養価の高い食糧を育て、食物の無駄を減らすことも同時に重要になってきています。そのため、今年のテーマは【食糧の栽培、共有、消費の仕方に焦点】を当てています。大会当日は、2m×2m×2m(幅×奥行×高さ)のブースに設置するロボットやポスターなどの展示物、審査員に向けてのデモンストレーションやプレゼンテーション(国際大会では英語による)等によって審査されます。
今回、日本代表チームとしてWRO 2018タイに参加し、5位入賞を果たした中学生チーム「OTEMON QUEST(追手門学院大手前中学校)」に現地でインタビューを試みました。彼らが開発したロボットは、「食事」をキーに私たちの将来の暮らしをより豊かにする介護ロボットです。栄養摂取だけではなく、楽しみや生きがいといった心にも配慮した未来のロボットとそこにかける想いを紹介します。
OTEMON QUESTのメンバー紹介
WRO 2018 タイ国際大会には3名のメンバーが参加しました。
- 3年生
倉冨さん:リーダー、デザイン(資料やポスター、原稿など)
櫻井さん:ビルダー(ロボット制作)
- 2年生
南方さん:プログラム
心にも体にも優しい食事介助ロボット「もぐもぐくん」
OTEMON QUESTが開発したロボットは、AR(Augmented Reality=拡張現実)とVR(Virtual Reality=仮想現実)、ロボットアームを使った食事介助によっていつでも好きな人との食事が可能になり、心と体に栄養を届けることができるといいます。 (ロボットの詳細記事:大切なのは「伝える力」、中学生チームが食事介助ロボットを世界へ発信)
チームの櫻井さんは、WRO Japan 2018決勝大会が終わった後、国際大会に向けて介助ロボットをレベルアップさせるために次の三点を改善したと話しました。
- ロボットアームが重いことで動きが遅く食事に時間がかかってしまう点を、ロボットアームの素材をレゴ(r)ブロックからプラスチック段ボールに変え、重量を軽減することで改善
- 赤外線センサーを二つ使用していたため、互いに干渉して上手く動作しない場合があった。そこで、センサーではなくカメラを使った画像処理に変更し、認識対象(要介護者)にボールを取り付け、ボールの面を読み取ることで、どこを向いていても感知できるように改善
- ARマーカーをロボットアームにつけていたため、動きによって見えない時があったたが、取り付け位置を変えることで読めるように改善
最後まであきらめずに改善を重ねて理想のロボットを作り上げた結果、WRO 2018 タイ5位入賞という素晴らしい成果につながりました。そんな彼らに大会を終えた感想を聞いてみました。
WRO 2018 タイを終えて
櫻井さん「自分の力を出し切った、3回ともプレゼンは上手くできた、質疑応答で少し上手くいかなかったがプレゼンで見せたいことは全部見せた、コーチにも100点をもらったので思い残すことはない」
倉冨さん「去年の方が元気に発表できていたけど、今回疲れが残っていて元気をだしきれなかったので次は元気なOTEMON QUESTをみせたい」
南方さん「大人になっても世界に向けて発表する場はあるはず、将来に活かしたい」
より良くできたのではという思いもあったようですが、3人のメンバーはとてもすっきりした表情で語っていました。
南方さんは、ロボットの要であるARとVRシステムを担当しました。倉冨さんは、「中学2年生で、ARとVRのプログラムを作れる人は見たことがないので、本当にすごいと思う。」と感心した様子で話しました。それぞれが活躍し、互いを認め合える関係性が、最後までやり抜く団結力の理由かもしれません。
彼らがタイの地で発表をするまでには、様々な試練や思いがあったといいます。
大会出場は生徒たっての希望、OTEMON QUESTが乗り越えた試練
WROへの出場は先生からの提案ではなく、生徒たっての希望だったそうです。そこで、チームが所属する部活の顧問である福田先生は、生徒たちのWRO出場に対して二つの条件を提示したと話しました。
- 一つ目は、新しい技術を取り入れること
福田先生は新しい技術が無いとオープンカテゴリーに参加する意味が無いと話し、今回はARとVRを取り入れることでクリアしました。 - 二つ目は、生徒たちが資金調達すること
福田先生は、「WRO国際大会に出場するためには20~30万円程度必要ですが、部員50人の部費を、3人で使いきるわけにはいかない」と話します。今回は、TEPIAチャレンジ助成事業[2]に応募し採択されることでクリアしました。
チームでは、部活動の中のタスク出しや進捗確認もすべて自分達行うと櫻井さんは話しました。使うパーツや機材も自分達で調べて調達しているそうです。生徒主体で取り組むことで、自ら問題を解決する力が身につくのではないかと思います。
さらに櫻井さんは、「一週間前がきついです。」と話しました。
チームメンバーは、本番前の一週間で集中的に質疑応答を練習します。WRO 2018 タイのプレゼンテーションはすべて英語なので、普段日本語で生活する彼らが「審査員からの英語による質疑」にとっさに対応するためには、事前の準備や練習が必須になります。「本番の緊張した中でも喋れるようにかなり集中して練習しました。」「自分達で伝えられるように、伝えたいポイントを英語に訳して、それを練習しました。」と話しました。
様々な試練や困難がある中で、なぜ彼らは大会に挑み続けるのでしょうか。
大切な人のために、自分達にできることを
「活動の中でつらくなったり、辞めたくなったりしませんか?」という質問に対して、「そもそもロボットが好きだから、そのためなら他の作業も苦に感じない」「中学1年から参加していて、大変なこともあるけど国際大会に参加することはとても楽しい、もう一回国際大会に出たいという思いがある」「将来の夢はゲームプログラマー、大会が将来の夢に役に立つと思った。プログラムを作る立場で参加できることがとても楽しい」とそれぞれの想いを語りました。
その中でも倉冨さんは、ロボットを自身の母親に使ってほしいと話しました。看護師である母親から「日々の仕事で患者さん一人に対して、食事介助に40分程度の時間がかかる」と聞いたそうです。一般に看護師は残業が多くなりがちな実状が問題視される過酷な職業と言われます。彼らは、「自分達のロボットが実用化されたら介護の現場が少しでも楽になるのではないか。」と話しました。
介助ロボットに対しては「無機質なロボットは不気味で、人の温かさを感じない」という声もあります。チームがロボットを開発しているときにも「ロボットによる介護はむずかしいよね、鉄の塊が急に迫ってきたら怖いでしょ?」と話す先生がいたそうです。今回のテーマである「VRで好きな人を見ながら介助を受ける」というアイデアは、介助ロボットに対する無機質なイメージを変えるきっかけになるかもしれません。
日本の将来を担う「やり抜く力」
福田先生は「生徒たちに将来どういった人になってほしいですか」という質問に対して、とことんやる力、やり抜く力を身につけてほしいと話しました。
何かを達成する時、掲げた目標に対して情熱を持って取り組み、困難や挫折を味わってもあきらめずに努力し続ける「やり抜く力」が大切です。今回WRO 2018 タイに向けてOTEMON QUESTの試練を乗り越えやり抜いた経験は、彼らが将来の日本で活躍する時に大きな強みになるのではないでしょうか。「やり抜く力」を持った彼らの、これからの活躍に期待したいと思います。