コンテストロボット活用事例

大切なのは「伝える力」、中学生チームが食事介助ロボットを世界へ発信

写真:前列3名が「OTEMON QUEST」のメンバー

小学生から大学生までの子どもたち(児童、生徒、学生)が参加する国際的なロボットコンテスト、WRO(World Robot Olympiad※1)をご存知でしょうか。市販のロボットキットを使い、競技課題をクリアするためにチームが様々な工夫を凝らします。国際大会には世界60を超える国と地域から代表チームが集まり、そこでの異文化交流も大会の魅力の一つです。

今回、WRO Japan 2018 決勝大会オープンカテゴリー(※2)にて最優秀賞に輝き、11月16日から開催されたWRO 2018 タイに出場したチーム「OTEMON QUEST」(追手門学院大手前中学校)の皆さんに、WRO Japan決勝大会の感想とWRO 2018 タイに向けての意気込みや目標についてインタビューしました。

AR、VRシステム×ロボットシステムで食事介助ロボを開発

チームが開発したロボットは、AR(Augmented Reality=拡張現実)を使った食事介助によっていつでも好きな人との食事が可能になり、体と心に栄養を届ける食事介助ロボット「もぐもぐくん」です。

「もぐもぐくん」は二つのシステムを組み合わせることによって動作します。
一つ目は、好きな人を見るための「ARシステム」です。

AR、VRシステム

  1. ARマーカーをロボットに付ける
  2. VR(Virtual Reality=仮装現実)ゴーグルを頭に装着する
  3. チームが開発したARアプリでマーカーを読み込む
  4. 読み込んだ情報を元に、ゴールの液晶画面に好きな人を表示させる

ロボットにマーカーを付け、今回のために開発したアプリを読み込むことで、介護を受ける方の大好きな人の姿を、VRゴーグルを通して知覚できます。
二つ目は、食事を口まで運んでくれる介助用の「ロボットシステム」です。

ロボットシステム

  1. IRセンサー(Infrared sensor=赤外線センサー)で、IRビーコンから出ている赤外線を受信する
  2. 受信した情報から距離を算出する
  3. 介護を受ける人の口の位置に合わせて食事を届ける

実際のロボットの動き

  1. 口の位置に合わせる
  2. 口の高さに合わせる
  3. 口まで運ぶ(距離を詰める)

    thumbnail_otemon_s.jpg

プレゼンテーションでは「人は同じものを食べても心の状態によって栄養価が変わる」とあり、好きな人を目の前に食事をするということは心にも体にも栄養を届けられるのだと言います。

初の試みに試行錯誤、ロボット開発秘話

チームはWRO Japanに向けて初めてARアプリのプログラムに挑戦したそうです。開発当初はARアプリがARマーカーを認識できず、想定する動作にならなかったといいますが、彼らは諦めることなく、原因を突き止めるためにインターネットを活用し「調べては検証する」を繰り返したと話していました。検証の積み重ねによって最終的に認証精度の高いARマーカーを作成でき、ARマーカーを読み取るカメラが揺れたり、少し離れたところから読み取ったりしても安定して認識できるようになりました。「調べては検証する」を繰り返す粘り強さが理想のロボットを実現する鍵ではないでしょうか。

大切なのは作品の価値を「伝える」ということ

ここまでロボットの概要や開発秘話を紹介しましたが、彼らが一番大切にしていることはロボット開発ではないところにあります。

チームメンバーは、国際大会に向けてどんな取り組みを行うかという質問に対して、「私たちがプレゼンをする上で大切にしていることは、「伝える」ということです。もしどんなに良いロボットをつくったとしても、自分たちの言葉で伝えることができなければ、そのロボットの価値全てを分かってもらうことはできないと思います。」と話しました。

WRO 2018 タイでの発表・質疑応答は英語で実施されますが、引き続き今までつくってきた自分たちのロボットの価値や自分たちの努力をしっかり伝えたいと熱い想いを語ってくれました。

「勝つのではなく、成功しなさい」、コーチが伝えたい思いとは

チームが所属するロボットサイエンス部の顧問であり、「OTEMON QUEST」のコーチを務める福田哲也先生は「コーチはファシリテイト(支援)に徹底した指導が重要」と言い、WRO 2018 タイまでメンバーに対して次のような指導をすると話しました。

  • ロボットの性能ならびに精度を上げるために、日々の進捗を確認すること
  • 自分たちのロボットや活動を世界の人々に「伝える」ことができるよう助言すること
  • メンバーが活動を維持できるよう環境を整備すること

福田先生のお話の中で、特に強く印象に残った言葉をそのままお届けします。

「普段から彼らには「勝つのではなく、成功しなさい」と言っています。成功イメージは表彰式でステージに立っていることではなく、ブースに訪れた世界中の方々にたくさんの拍手をもらうような三日間にすることです。タイでもロボットづくりを頑張ってきた他のチームのメンバーと素晴らしい交流をすることを期待しています。」


※1:WRO(World Robot Olympiad)
WRO(World Robot Olympiad)は、世界の60を超える国と地域から参加チームが集まる国際的なロボットコンテストで、小学生から大学生までの子どもたち(児童、生徒、学生)が参加します。ロボットを組み立てプログラムで制御する自律型ロボットによる競技が行われます。日本からは、WRO Japan公認地区予選会、WRO Japan決勝大会を経て日本代表に選抜されたチームが、国際大会へ出場します。

※2:オープンカテゴリー
オープンカテゴリーは社会問題を解決するロボットを制作する競技で、2018年は「FOOD MATTERS(食糧問題)」をテーマにロボットを使った製作展示、発表を実施します。大会当日は、2m×2m×2m(幅×奥行×高さ)のブースに設置するロボットやポスターなどの展示物、審査員に向けてのデモンストレーションやプレゼンテーション(国際大会では英語による)等によって審査されます。

参考リンク

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