コンテストロボット活用事例

WRO 2018 タイ国際大会入賞チームの指導者に聞くこれまでの道のり

2018年11月、タイのチェンマイにおいてWRO 2018 タイが開催されました。この大会で日本チームは、レギュラーカテゴリー高校生部門、オープンカテゴリー小学生部門、中学生部門、高校生部門、ARC(Advanced Robotics Challenge)部門で入賞するなど、素晴らしい活躍がありました。

WRO 2018 タイオープンカテゴリー小学生部門で8位入賞した「Candy Samurai」のサポーターである小助川 将(こすけがわ まさし)さんと、チームメンバーである小学4年生の小助川 晴大(こすけがわ はるた)くん、只石 倖大(ただいし こうだい)くん、5年生の片岡 嗣葉(かたおか つぐは)くんに貴重な体験談を伺いました。

WRO(World Robot Olympiad)

世界中の子どもたちが各々ロボットを制作し、プログラムにより自動制御する技術を競うコンテストです。市販ロボットキットを利用することで参加しやすく、科学技術を身近に体験できる場を提供するとともに国際交流も行われます。WROにはいくつかのカテゴリーがあります。ここでは各カテゴリーを簡単に説明しましょう。

レギュラーカテゴリー

最も参加チームの多いレギュラーカテゴリーは、指定される競技コース・課題をできるだけ速くかつ正確にクリアすることが求められます。小学生部門、中学生部門、高校生部門があり、指定される市販ロボットキットのみを用いてロボットを制作します。

Advanced Robotics Challenge(ARC)

17~25歳の学生が非常に高度な制御と複雑な機構にトライするAdvanced Robotics Challenge(ARC)では、ロボットの筐体への深い理解と工夫、より高い技術力による解決が必須となります。2018年の競技はテトラスタックと呼ばれる様々な形の木製ブロックを積み上げる内容でした。

オープンカテゴリー

オープンカテゴリーは事前に与えられたテーマに沿って設計・デザインしたロボットを、プレゼンテーションします。WRO 2018 タイのテーマは「FOOD MATTERS(食糧問題)」を解決することです。

フードロスをなくしたい!創意工夫で実現したリサイクルロボット

Candy Samuraiのメンバーが制作したロボットは、まだ食べられるのに捨てられようとしている食べ物をフリーズドライ後に粉砕して固め、飴(キャンディ)にします。その飴を食糧問題で困っている子どもたちに食べてもらうことで飢餓問題も解決します。

WRO Japan 2018決勝大会で披露されたこのロボットは、今回のWRO 2018 タイに向けてさらに改良を加え、レベルアップしていました。

飴の製造工程

ロボット1:食材と容器を仕分ける(新しく加えた工程)
ロボット2:容器を洗う
ロボット3:食材をフリーズドライ加工する
ロボット4:フリーズドライされた食材を粉々にして運ぶ(これが栄養満点の粉)
ロボット5:栄養満点の粉と飴の原材料を混ぜる
ロボット6:できた飴を引き伸ばす(新しく加えた工程)
ロボット7:サムライのように飴を一刀両断
ロボット8:最初に仕分けた容器を加工して作った袋へ飴を入れる

IMG_0005_807.jpg(中央に見えるのがCandy Samuiraiが制作したロボット)

今回、新たに「容器を洗う工程」、「飴を伸ばす工程」の二つを加えたそうです。さらに晴大くんは、ロボット制作にあたって工夫した点は二つあると話しました。

  1. ナイフを使い、本当に飴を切れるようにした(前回発表したときは切ることができなかったそうです)
  2. やりたいことを実現するため、EV3(ロボット)を5台から9台へ増やした

ロボットの改良点と、衣装や小道具にまで工夫が見られる発表を目にし、チームの国際大会に対する真摯な取り組みを感じることができました。

国際大会を終えた選手へインタビュー!

国際大会ならではの工夫

Candy Samuraiのメンバーに国際大会へ向けて何を頑張ったのか聞いたところ、「恵方巻きなどの日本語をはっきりと発音するようにした」と言いました。審査員や来場者といった発表する相手が日本人ではないため、単語をはっきりと発音してよく聞き取れるようにしたそうです。

大会を経て成長、学校生活にも良い影響が

大会を経て成長したところとして、「学校で理科の授業があるとき、他の子よりも分かっていた。みんなの知らないことを知っているようになった」と話してくれました。

子どもならではの仲直り

日々一丸となって取り組む中で、時にはチーム内で喧嘩もあったそうです。それをどう乗り越えたのかを尋ねたところ「時間が経てば仲直りしていることが多くて、好きなゲームで遊んで仲直りすることもある」とメンバー同士じゃれ合いながら答えていました。自然に仲直りできるこの子ども特有の柔軟さが発表当日まで頑張れる要因の一つなのかもしれません。

これからの時代は空飛ぶロボット?

大会を終え、今後どんなロボットを作っていきたいか聞きところ、メンバーの一人が「OTEMON QUEST(オープンカテゴリー中学生部門チーム)みたいにレールを敷いてみたい。他には空中に浮くロボットもやってみたいと思っていて、少し浮くロボットを一度作ったことがある」と語っていました。今後会場で、子どもたちが作ったロボットがドローンのように空を自由に飛び回る日が来るかもしれません。

親がコーチに!?保護者兼コーチの心構え

実は今回、Candy Samuraiのコーチはメンバーのお父様だったそうです。親がコーチになると手助けしたくなったり、学校の先生のコーチとは子どもとの距離感が違ったりするのではと思いますが、実際どのような指導を行ったのでしょうか。コーチや選手の活動を見守ってきた、同じく保護者でありサポーターの小助川さんにお話を伺いました。

主体性がカギ!親によるコーチング

小助川さんに発表当日まで何をしていたのかを伺ったところ「WRO 2018 タイまでにテーマ(FOOD MATTERS)について1ヶ月くらいリサーチをしました。チームで集まる頻度を増やし、各家庭でディスカッションもしました」と話しました。さらに、当日は英語で発表するため、実際にアメリカに住んでいるネイティブスピーカーの声を録音し、何回も聴いて英語のプレゼン練習をしていたそうです。

しかし、大会が近づくとロボット制作に注力するので英語の練習は少なくなるそうです。小助川さんは「もちろん、英語で回答できたら良いですが、今のままでも審査員や他国の選手とのコミュニケーションはできるので、今は語学力を伸ばさなくて良いと思っています」と話しました。彼らが活動のために大事にしていることは「ロボットが誰のために何をするか」です。目的に向けての手段としてプログラミングを活かしていきたいと語っていました。

また、発表当日まで気をつけた点として「子どもたちに必ず自己決定をさせる」と話しました。「チームの指導者として主体性を一番大事にしています。子どもたちに最終的な決定をさせ、大人のアイディアを押し付けません。ロボットの動作で実現したいことがあったとき、それに対して大人やコーチ、子どもが平等にアイディアを出し合います。子どもたちがアイディアに対して「それいいね」となれば「やってみよう」になります」と語っていました。

このように最終的な決定は全て子どもたちがします。子どもたちが自分で決めて納得した状態でなければ、「自分たちで作ったロボット」にならないからだそうです。子どもたちに主体性をもたせる上で、彼らを放任するのではなく、日々様子を見て脱線しそうなときは「今はそれをやる時間だっけ?」など声掛けをすることで本人たちに気づかせることもあると言います。すなわち、子どもたちが主体となって、コーチがガイドになる関係です。

やり切る経験こそWROの魅力

小助川さんは「この大会に参加することの魅力は普段経験できない各国の文化を体感でき、子どもたちの人生を中・長期的に見たときに、生きていく力が身に付くこと」と話しました。

例えば子どもたちは、目標達成に向けて喧嘩することがあってもやり切る経験、出し切る経験を経て、何度も仮説、検証しながら自分たちの理想に進んでいきます。そういう自分で前に向かっていく力が身に付くことが魅力なのだそうです。

参加の目的は「誰のために何をするか」

小助川さんはロボットプログラミングについて、「ロボットは誰かを楽にしたり、困っている人を助けたりするための手段でしかありません。「誰のために何をするか」を考え、それを踏まえて課題に対してまっすぐに向き合っていくことが一番大事だと思っています」と語っていました。WRO出場も「誰のために何をするか」を考えるための手段として活用されているようです。

おわりに

小助川さんはチームの子どもたちのどういうところを伸ばしていきたいかという問いに対して、「国際大会出場を経て3人それぞれ強み弱みの違いが分かってきました。しかし、本人が課題と感じない限りそのポイントを伸ばすことはできません。なので、今後本人が課題と感じた部分を伸ばしていきたいです。」とあくまで子どもが主体であると話しました。主体性を尊重するコーチと共に活動している子どもたちが、今後自らの自由な発想でどういうロボットを作り出すのか大変楽しみです。

参考リンク

アフレル学び研究所
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