世界各国でSTEM(Science、Technology、Engineering、Math)教育に対する関心が高まりを見せ、学校現場での取り組みやカリキュラムの積極採用が進む中、日本でも2020年の小学校プログラミング教育必修化に向けて産学官を挙げた取り組みが広がっています。
2018年11月、私たちは国際的なロボットコンテストWRO 2018 タイを視察しました。世界60を超える国と地域から20,000を超えるチーム(小学生から大学生まで)が参加するWROには、代表チームの子どもたちの他、各国から公教育の関係者、学校の教職員、民間教育の指導者や関係者が多数訪れます。今回、世界のSTEM教育の最新事情を間近で目にし、肌で感じることのできる貴重な機会を活かし、会場で六カ国の教育関係者へインタビューを試みました。
本日は、カナダとコスタリカの方へのインタビューを中心にお届けします。
カナダ
WRO Canada National Organizer
Zone01 Robotics
General Manager
Mr. Dominic Bruneau氏
7歳の子どもが未来を変える?カナダの若手技術者不足をSTEM教育で解決
北米カナダの大都市であるケベック州モントリオールは、近年AI開発の拠点やスタートアップの地として注目を浴びてきています。しかしながら、地元企業はエンジニア志望の学生不足に悩んでいると、WRO Canada National OrganizerのDominic Bruneau氏は話します。
カナダ連邦政府には教育省は無く、教育制度は地方自治制で州ごとに決められ、その内容も様々で、例えばモントリオールの学校では、STEM教育としてAIやロボット工学を中心とした学習に力を入れているそうです。また、Dominic 氏がGeneral Managerを務めるZone01は、カナダの教育を支援する非営利団体で、四つの使命(技術教育の促進/教育現場の支援/ロボット愛好者同士の交流促進/国内ロボットコンテスト(以下、ロボコン)の発展)を軸に、WRO National OrganizerとしてWROを運営する他、オリジナルのロボコンを開催するなどして学校外の活動でもSTEMに触れられる環境を幅広く提供しているとのことです。
ロボコンの参加者は主に小学校の2~5学年(およそ7歳から10歳)に当たる子どもたちが多いそうで、「我々は子どもたちが自ら課題解決やプロジェクトに向かう姿勢を養ってほしいと考えており、それが大会を開催し子どもたちを国際大会へと導く理由です」とロボコンに懸ける思いが語られ、科学技術の発展を担う人材育成に力を入れている様子が感じられました。
ロボコンを通じて子どもたちが手にするものは、技術力だけじゃない
モントリオールが属するケベック州では公用語をフランス語としているため、海外での大会へ出場する子どもたちは、ルール読解や現地でのコミュニケーションのために国際共通語である英語を学ぶ必要があります。
Dominic氏は、国際的なロボコンに挑戦することの重要性について「STEM教育でプログラミングなどの技術力・開発力を培い、第二言語として英語を学ぶことで子どもたちのグローバルな視野と積極的なコミュニケーション能力をより高めることができる」と話します。
国際大会で海外を経験した彼らが良き影響者となって、カナダ国内の子どもたちが科学技術や他文化へさらに興味関心を持ち、ロボコン出場の普及に繋がることを期待しているようです。
参考リンク
- キッズ外務省-世界の学校を見てみよう!カナダ
- WRO and Zone01 Robotics
コスタリカ
WRO Costa Rica National Organizer
Aprender Haciendo Costa Rica S.A.
Ms. Alejandra Sa?nchez氏
非識字率は約3%!中南米トップクラスの教育国、コスタリカにおけるSTEMのススメ
開発途上の多い中南米において、コスタリカは文字の読み書きができる人の割合を示す『識字率』が97%以上で、さらにGDP約8%にあたる予算を教育に投資するなど高い教育水準を誇ります。WRO National OrganizerのAlejandra Sa?nchez氏によると、既にいくつかのエリアでSTEM教育が行われているとのことでした。
コスタリカの義務教育は4歳から始まりますが、プレスクール(幼児期)からSTEMを意識した教育が行われ、年齢が上がるにつれその内容は高度なものになっていく段階的な教育が行われているようです。公立学校では、1999年(なんと約20年も前!)から授業で紙の教科書を使用することをやめ、文部科学省(以下、文科省)が用意するオンライン教材の活用を進めています。ある小学校ではロボティクスの授業でCADソフトを使うなど、低学年の頃から先進的な教育が展開されているようです。
STEMのその先、『STEAM』へ
Alejandra氏によると、現在コスタリカの教育現場では文科省と協力してSTEM教育にArt(芸術)の視点を加えた『STEAM教育』を推進しているそうです。コスタリカの教育テーマである「クリエイティブなことができる人をつくる」に沿って、普段合わせて考えることのないロボティクスやテクノロジーと芸術を統合的にプロジェクトに取り入れ、Alejandra氏が「Maker Think」と呼ぶ「作り手側の視点に立った考え方」を伴った教育が大切だと国家レベルの取り組みが進んでいます。
地球の未来を築く第一歩を、大自然が育む豊かな思考と技術力と共に
コスタリカは豊かな自然環境と多種多様な生態系に恵まれており、その大自然を利用した『エコツーリズム※1』が盛んな国として名高く、伝統的に自然環境の保護・維持に務める一方で、再生可能エネルギー推進国としても注目されています。
近年のWROのテーマとして、SDGs※2の目標に関連したものが掲げられています。WRO 2018 タイでは「FOOD MATTERS(食糧問題)」が、来年に開催されるWRO 2019ハンガリーでは「SMART Cities(持続可能な都市の構築)」が挙げられ、どちらもSDGsの目標17項目に関連したものとなっています。
豊富な資源を持つ大自然の中で育つコスタリカの子どもたちが、WROを通して様々な社会問題の解決について考え、取り組むことは、未来の地球を救う技術者誕生の第一歩となるのではないでしょうか。
※1 エコツーリズムとは:「エコツーリズムとは、地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みです。」(エコツーリズムとは|エコツーリズムのススメ|環境省より引用)
※2 SDGsとは:持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「2030年までに達成すべき国際目標」です。
参考リンク
WRO
WRO(World Robot Olympiad)は、世界の60を超える国と地域から参加チームが集まる国際的なロボットコンテストで、小学生から大学生までの子どもたち(児童、生徒、学生)が参加します。ロボットを組み立てプログラムで制御する自律型ロボットによる競技が行われます。国際大会は、そこに集結する各国代表チームのコーチや関係者、国際委員らとの情報交換やインタビューを通して、世界のSTEM教育について知ることのできる貴重な機会です。
参考リンク
- WRO Japan
- WRO2018 Thailand
- WRO2019 Hungary
※2019年の国際大会はハンガリーで開催予定
シリーズ記事一覧
- [インタビュー動画] WRO 2018 タイで聞く、各国STEM/プログラミング教育の最新事情(カナダ/コスタリカ)
- 心にも体にも優しい食事介助ロボット「もぐもぐくん」にかける想い
- [インタビュー動画] WRO 2018 タイで聞く、各国STEM/プログラミング教育の最新事情(UAE/ウクライナ)
- WRO 2018 タイ国際大会入賞チームの指導者に聞くこれまでの道のり
- [インタビュー動画] WRO 2018 タイで聞く、各国STEM/プログラミング教育の最新事情(ネパール/タイ)
- 「目指すは世界一位!」国際ロボコン参加を通じた高校生チームの学び、コーチの関わり方