連載記事

【連載】ITエンジニアのOJTで身につけたいスキルと指導方法とは

連載「エンジニアを導く、新しい学びのロードマップ

2020年、IoTやAIの活用普及、そしてコロナ禍を経験し、新しい時代がやってきます。ITの開発現場は、曖昧な要望を具体化し、プログラミングして動かすことは変わっていません。しかし、Stay Homeだけでなく、コンピュータ性能の低コスト化とサービス化、そしてネットワークも含めた劇的な進化は止まりません。開発スタイルもこの進化に追従する為に、協調した作業を支援する方法論やツールが現場で実践されています。
この連載では、エンジニアの学び支援する方々(企業の教育部門や高等教育機関)へ向けて、未来をつくるエンジニアの学びについて情報を提供します。テクノロジーを使いこなせる人材を育成するために必要なモノ・コトは何かを考え、新しい潮流を踏まえて整理を試みます。

*連載「エンジニアを導く、新しい学びのロードマップ」の過去記事はこちら
1.
【新連載】学びにおける知識と行動の分離評価による教育効果の最大化
2.【連載】教育担当者が意識すべき、人材育成と企業収益の関係性とは
3.
【連載】氷山モデルでみる、人材育成に欠かせないスキルの見える化


コロナ禍でeラーニングがますます普及する一方で、現場での学び、特にOJT(On-the-Job Training)の重要性が増しています。しかし、現場ではIoTやAIなど新しい技術の適用が増え、長期間での開発、同じ技術や同じプロセスの適用は少なくなっています。同じことの繰り返しでなく、教える側が未経験の技術を使う機会も多く、現場でOJTによる人材育成の難しさも増しています。本記事を通して、開発現場はもちろん、経営者や教育担当者、技術系の教育をする方にも、OJTの方法を知って欲しいと思います。座学やeラーニングで教えるべきこと、現場のOJTで教えるべきことを明確にしつつ、それぞれの品質と効率性を高める方策を施さないとなりません。

座学では得られない、OJTで身につける技術・スキル

経営学者のP.F.ドラッカーは著書「断絶の時代」※1で次のように述べています。

「今日求められているものは、知識の裏付けのもとに技能を習得しつづける者である。純粋に理論的な者は少数で良い。しかし技能を基盤として理論を使える者は無数に必要とされる」

ドラッカーの言葉をITなど技術の世界で考えてみましょう。知識は紙やデータの形で伝達できる情報であり、その情報は既存の標準・規格・ルール・手順など多岐に渡リます。また、これらをベースに作られたツールも知識と言えます。ドラッカーの言う技能は、技術やスキルに該当しますが、個人や組織の肉体を介して発揮される能力であり、言語や手などを使い、出力・表現されます。ITエンジニアの場合、言語やツールと言った知識を学んだ後、プログラミングスキルを活かして実装しますが、プログラミングスキルは人によって生産性が大きく異なります。従業員が獲得した技術やスキルを基盤としてより生産性が高い成果を出すためには、OJTでスキルの熟達を支援する方法が適しています。では、どのようにスキルの熟達を支援すればいいのでしょうか。

ITエンジニアに関するスキルは「企業内人材育成入門」※2に記されている熟達者と初心者の違いの特徴がわかりやすく、参考になります。特徴として①記憶力の向上、②下位技能の自動化、③問題の直感的把握、の3つがあり、これらを確実に早く実現することを支援するのがOJTの指導です(図1)。3つの特徴を知ることで、育成対象のエンジニアに求めるスキルと、その支援方法を具体的にすることができます。プログラミングスキルの熟達度を測る為には、下記が目安になるでしょう。

①記憶力の向上:開発言語やツールの利用に関する基本パターンが活用できる
②下位技能の自動化:ファイル保存やコンパイル実行感覚の最適化ができる
③問題の直感的把握:コンパイルエラーや実行時の不具合解析ができる

<図1>
熟達者と初心者の違いの特徴.jpg

PDCAに沿ったOJTの指導プロセス

OJTは、仕事の基本であるPDCAをベースに考え実施していくのがおすすめです。

[Plan]OJTの計画立案では、本来はOJTだけでなく、外部のセミナーや研修などのOFFJT(Off The Job Training)なども含めた人材育成の計画を考慮して、OJTで支援する部分を具体化します。当然、経営や事業戦略とのリンクを考え、エンジニア個人まで細分化します。組織として考えた場合、対象となるエンジニアがどのようなスキルを身につけていればいいかを、1年というショートタームと、3年や5年といったロングタームで考えます。何らかのスペシャリストへの育成を考えた場合、1年での目標達成は困難であり、数年計画における1年ごとの目標や指導方法を具体化します。また、現状(As Is)と目標(To Be)のギャップを明確にして、そのギャップを埋める経験とサポート方法を具体化します。

[Do]「認知的徒弟制(Cognitive Apprenticeship)」を参考にOJTの指導・支援を実施します。「認知的徒弟制」とは、モデリング(modeling)→コーチング(coaching)→スキャフォールディング(scaffolding)→フェーディング(fading)という4段階のプロセスで効果的かつ効率的に技能の継承が出来る学習方法です。(図2)

  • モデリング(modeling)では、獲得や熟達するスキルの内容を理解させます。プログラミングの場合、設計書からコーディング、テスト設計と実施、その記録を残す過程を見せることで、何をどの程度できるようになればいいかを認識させます。思考過程を話すことで、必要になる知識や作業を知ることができます。また、開発現場で行われているペアプログラミングは、OJTにおいても有効です。チームや組織では作業手順やルールが定められていることが多いですが、それを如何に遵守しながら作業しているかをペアになって見せることが重要です。作業手順やルールは、先人の経験に基づく知恵であり、それらを守り、活用していく必要があります。
  • コーチング(coaching)では、実際に作業させ成功を体験させます。IT現場は生産や製造現場と違い、作業に危険性が伴わないため、放任的になってしまうことがあります。ある程度の放任は必要ですが、まずは勘所をおさえた指導・支援が重要です。そこで有効なのが、一方的に教える「ティーチィング」でなく、主体性や意欲を引き出す「コーチング」です。コーチングに関する詳細は世の中にたくさんのリソースがあるので割愛しますが、誘導に近い質問によって、自ら気づいた経験を積ませ、自分で答えを出す方法を身につけさせます。
  • スキャフォールディング(scaffolding)とは、「できるところは手助けを控え、できないところを支援しつつ、発達を支援する行為」です。設計であれば、既存の基本的なパターンを適用したモジュールの設計は任せ、新規性や複雑性が高いモジュールは細かい指示を与えると行ったイメージになります。
  • フェーディング(fading)では、手助けや支援の範囲を少しずつ少なくして、自立を促します。サブ的な立場からメインでの立場に昇格させ、単独での作業遂行ができるようします。しかし、完全に放任でなく、観察を怠らず、適切なタイミングでのフォローが必要不可欠です。

<図2>
認知的徒弟制(Cognitive_Apprenticeship).jpg

[Check]および[Action]では、成長度合いや達成状況のチェックを繰り返し、指導・支援の改善を図り、短いサイクルを多くまわすようにします。本人と指導者、さらにはチームや組織で達成状況や課題を共有することを推奨します。エンジニアの育成は、本人と指導者だけでなくチームや組織としてのサポートが必要不可欠です。

組織としての学習環境とプロセス改善

OJTで身に付けるスキルは、個人の肉体に蓄積され熟達します。この熟達は指導者を含む組織が支援し、組織としての生産性や品質の向上を実現します。OJTを含む人材育成は、組織として取り組むことは当たり前ですが、指導者に任せきりになることも散見されます。
これまでの「教える」人材育成から、より効果的な人材育成を実現する方法として、OJD(On the Job Development)と呼ばれる方法が提唱されています。OJDは「学習環境を整え、支援する」ものであり、今回紹介した「認知徒弟制度」のように、自律的な学習を支援し、個人だけでなく職場として成長を支援するものです。
OJTで指導するためには、指導の手順やルールの整備が重要になります。これらが形式知として明文化・具体化されていると、他者による再現ができ、改善・改良が可能となります。そして、CASE(Computer Aided Software Engineering)の利用推進、そしてDevOpsのような開発と運用が効果的に繰り返し行えるようになります。ここまでOJTの重要性と方法、組織としての取り組み方について述べてきました。今OJTを導入されている企業がありましたら、見直してみてはいかがでしょうか。

参考リンク

*1 「断絶の時代」、ダイヤモンド社、ピーター・F・ドラッカー:著、2007年07月、ISBN:978-4-478-00057-1
*2 「企業内人材育成入門」、ダイヤモンド社、中原淳:編著 荒木淳子/北村士朗/長岡健/橋本諭:著、2006年10月、ISBN:978-4-478-44055-1


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