連載記事

【新連載】学びにおける知識と行動の分離評価による教育効果の最大化

新連載スタート「エンジニアを導く、新しい学びのロードマップ
2020年、IoTやAIの活用普及、そしてコロナ禍を経験し、新しい時代がやってきます。ITの開発現場は、曖昧な要望を具体化し、プログラミングして動かすことは変わっていません。しかし、Stay Homeだけでなく、コンピュータ性能の低コスト化とサービス化、そしてネットワークも含めた劇的な進化は止まりません。開発スタイルもこの進化に追従する為に、協調した作業を支援する方法論やツールが現場で実践されています。

この連載では、エンジニアの学び支援する方々(企業の教育部門や高等教育機関)へ向けて、未来をつくるエンジニアの学びについて情報を提供します。テクノロジーを使いこなせる人材を育成する為に必要なモノ・コトは何かを考え、新しい潮流を踏まえて整理を試みます。


近年の学びのトレンドとして、STEM/STEAMやアクティブラーニングがあげられます。STEM/STEAMは、学ぶ対象を表すキーワードであり、サイエンスやテクノロジーなど、現代や今後の社会で必要とされる領域を表しています。また、アクティブラーニングは、ディスカッションや体験など、学ぶ方法を表すキーワードです。他にも、コロナ禍で話題となっているMOOC(Massive Open Online Course)は教育手段のキーワードです。
本記事では上記のようなトレンドだけでなく、従来の学びでも重要な「評価」について整理し、共有します。何をどのように教えるかは重要ですが、それにはより正確に評価し、より学びを推進するフィードバックをするための評価方法が必要になります。

ルーブリック評価で知識以外の評価も可視化

学校現場では知識の理解と記憶を確認するため、テストが昔から行われてきています。近年はテストだけで評価するのではなく、AO入試のような多面的な評価も行われています。文部科学省が進める高大接続改革は、大学受験の知識偏重からの脱却を図ることも目的と言われています。近年、知識の記憶や理解以外を評価する方法として「ルーブリック評価」が行われています。学びの達成度を、複数の項目とレベル感を設定した表でチェックする方法です。

例えば、PID制御によるライントレースを学ぶ場合、知識・実装・応用といった観点で知識情報としての理論を理解し、記憶しているかを4段階で評価します。1は全く理解していない。2は少し理解している。3はほとんど理解している。4は理解した上で上位理論に関する知識も有している。といった評価です。知識に関しては、これまでのテストと同様に問題に対する回答で評価可能ですが、ルーブリック評価はこれ以外の評価項目が存在することがキーです。ロボットを使った学びの場合、実際に理解した知識を使って、実装し、動かすことができるかを評価します。教授したPID制御に関する理論だけでなく、これまでに学んだロボットに関する操作やプログラミングのスキルが求められることになります。4段階で表すと、1は全く動かすことができない。2は問題があるものの動かすことができる。3は問題なく動かすことができる。4は他者のフォローや改善ができる。といった評価です。この評価は、学校で導入が進むアクティブラーニングにおける評価項目と評価レベルを表すのに最適な方法であることが理解できます。この4段階評価は、社会人ITエンジニアのスキルレベル評価にも共通する考え方です。

知識だけでなく業務タスクも評価

社会人の場合、知識の習得だけでなく、スキルの評価が必要になります。さらにはキャリア(職種、立場)としての業務実績の評価も必要になります。例えばITエンジニアの場合は、経済産業省が実施する国家資格「情報処理技術者試験」があり、知識の習得状況を評価することができます。しかし、前述したように社会人として知識の習得だけでなく、スキルを有し成果を出しているか評価することが必要になります。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では、スキル評価の手助けとなる「iコンピテンシディクショナリ※1」という指標を提供しています。人材育成を目的として作られたこの指標は、キャリア(職種、役割)毎に求められるタスク(作業、業務)が定義されています。
例えば、IoTシステムを作るエンジニアというキャリアには、お客様の要求を定義することやプログラムの検証といったタスクが求められます。タスクには0から4の5レベルが定義され、0は知識もなし、1は知識だけ、2はサポートがあれば作業でき、3は独力で、4は指導できるレベルです。またキャリアには1から6のレベル定義がされ、エントリーレベル、ミドルレベル、ハイレベルといったキャリアアップをイメージできるようになっています。IoTシステムを作るエンジニアであれば、見習いはレベル1、リーダーはレベル3、会社を代表するエンジニアだとレベル6です。見習いのレベル1は、プログラミングや動作検証のタスクレベル2が最低限必要であり、リーダーのレベル3は各タスクレベル3や4が求められます。

教育効果を図るには行動と実績の評価が必要

ここまで、学校ではルーブリック評価、企業のITエンジニアはiコンピテンシディクショナリを使った評価について紹介してきました。二つに共通するのは、知識の評価と、習得した知識を利用できているかを評価していることと考えています。教育効果測定として「カークパトリックの4段階評価」が有名です。レベル1が反応(満足度)、2が学習(理解度)、3が行動(行動・態度変容)、4が結果(実績)です。前述のルーブリック評価やiコンピテンシディクショナリとも共通することがあります。知識の理解をベースに、その上で行動し結果を出すことを評価している点です。

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学校現場でのアクティブラーニング導入によって、知識獲得だけでなく、知識を利用し周りを巻き込み、結果を出すといった教育が行われるようになってきました。これは社会人の仕事環境に似ていて、社会で活かせる学びが多く行われるようになってきたとも言えます。だからこそ、評価について熟考し、学びのフィードバックをきちんと行うことが求められます。

社会人も理論的知識や先人の知恵とも言えるノウハウの理解度を評価し、実績への影響有無など評価すべきだと考えます。
学校現場、社会人の現場ともに、知識の評価、それを発揮するための行動の評価を分離し、バランスよく教育を施す学びの施策を期待します。

参考リンク

※1 iコンピテンシディクショナリ https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/history/icd.html

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著者:渡辺のぼる
電機メーカー開発子会社にて通信システムの開発に従事。ソフトウェア開発の改善と人材育成に取り組み、情報処理推進機構に研究員として出向。株式会社アフレルにて、ロボコンや研修の企画開発に従事後、2016年に独立・起業。株式会社 for Our Kids / 合同会社ワタナベ技研 代表、NPO法人 組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会 理事、筑波大学大学院? 非常勤講師(2005~2017)、J07大学情報処理学部向け標準カリキュラム CE検討委員

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