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小学1年生から始まるICT教育、ハンガリーの授業内容をレポート

2019年11月、日本から約9000km離れたハンガリーで、世界70以上の国と地域が参加する小・中・高校生のための世界最大級の国際ロボット競技会「WRO International Final※1」が開催されました。今回、大会開催に合わせてプログラミング授業を見学するため、日本から教育事業に携わる五名でハンガリーの学校を訪問しました。ハンガリーではどんな教育が行われているのか、現地の様子を交えながら、教育制度やICT教育について詳しくご紹介します。

4年制から8年制まであるハンガリーの初等教育

ハンガリーは中央ヨーロッパに位置し、オーストリアやスロバキアなど7カ国と国境を接する内陸国です。面積は日本の約4分の1にあたる約9.3万km?、人口は約970万人で、首都ブダペストはヨーロッパで最も美しい都市のひとつに数えられています。
ハンガリーの義務教育は10年(16歳まで)で、日本と同じく義務教育期間の授業料は無料です。また、小学校入学前の1年間は就学前教育として幼稚園への就園が義務づけられています。小・中学校で8年、高校で4年、大学などの高等教育機関で3~5年というのが一般的で、特徴の一つとして初等教育期間の選択があります。初等教育は4年制、6年制、8年制のいずれかを選択できます。4年制小学校を選択し中高一貫のギムナジウム(Gimn?zium)に8年間通ったり、6年制小学校を選択しギムナジウムに6年間通ったりと、生徒たちが希望する形式で学ぶことが認められています。

2003年から開始されたハンガリーのICT教育

現在のハンガリーでのプログラミング教育は、初等教育と中等教育において「Informatika」という教科で実施されています。2003年から1~4年生を対象に、週1時間、ネット検索などITを利用して教える授業が開始されました。2019年時点では「Informatika」を1~10年生は必修、11~12年生は選択教科として教えています。内容や授業数は学年によって異なっており、情報機器やソフトウェアの使い方から、アルゴリズムの理解とプログラムの作成まで多岐に渡ります。3年生まではICTリテラシー教育が中心となり、4年生以降はプログラミング教育を含みます。

私たちはハンガリーでの授業風景や子どもたちの様子を実際に見てみたいと思い、今回はハンガリー北西部の主要都市であるジェールにて二つの学校を訪問し、プログラミング授業を見学しました。

女子生徒が8割以上、ギムナジウムのプログラミング授業

一校目は日本の高等学校にあたる「Kazinczy Ferenc Gimn?zium」のプログラミング授業です。教室には16歳の生徒15名と教員1名、アシスタント1名がいて、一人一台のパソコンがあります。まず教室に入って驚いたのは女子生徒の多さです。13名が女子生徒で、その理由を聞いてみるとハンガリーの教育制度が関係していました。男子生徒は工学系のギムナジウムに進むことも多く、自然と女子生徒の比率が高くなっているそうです。もう一つ驚いたのは、授業は全てハンガリー語で行われましたが、英語が堪能な生徒たちが私たちと先生の会話にて英語で通訳をしてくれたことです。問題なくコミュニケーションをとれるレベルの語学力が身に付いていて、授業を通して協力してくれました。
授業は、コース上にある3つの障害物を避けながら目的地へ向かうという課題で、生徒たちがロボット(教育版レゴ? マインドストーム?EV3)を動かすプログラムを作り、実際に走らせる内容でした。まず、先生がプログラム作成のポイントをひと通り説明します。生徒たちはそれらを活かしながら1グループ3人体制でプログラムの作成に取り掛かりました。アイコン型ソフトウェアを使うため全員がプログラムを簡単に作成でき、あちらこちらで生徒同士の話し合いが聞こえ、にぎやかな雰囲気でした。また、宇宙空間が描かれたコースが教室の中央に置かれ、それを囲むように生徒たちが座っているため、すぐにコースでロボットを動かし、繰り返し試すことのできる環境が整えられていました。
授業後に生徒たちに感想を聞いてみると、プログラミングははじめてだが(ロボットを動かして)試せることが楽しいと話していました。先生はプログラミング初心者で指導経験があまりないと話していましたが、生徒に寄り添い、答えではなく気づきを与えるコーチングをしている姿が印象的でした。
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コンピュータやロボットが揃った小学校でのICT教育

次に、日本の小学校にあたる「Gyori Radn?ti Mikl?s Elementary School」を訪問しました。パソコンが置かれた部屋に案内されると、12歳の生徒が11名と教員1名で授業が行われていました。授業内容は、先生が作成したプログラミングを真似しながら、子どもたちが一人ずつプログラムを作成し、コース上のラインに沿ってロボットを動かすというものでした。約45分間の授業内で、子どもたちはパソコンを操作し、先生のお手本をみながらプログラムを作りあげ、カーブがいくつもある複雑なコース上を走らせていました。
授業後に、先生方に学校の取り組みやICT教育についてお話を伺いました。先生方によると、この学校はプログラミングをはじめとしたICT教育以外に、英語教育など幅広い分野の教育に力を入れています。ICT教育においては、国からの補助金をもとにICT環境を構築・整備していて、180人の生徒数に対して60台のタブレットやコンピュータ、4種類のロボット教材などが揃っています。補助金申請には沢山の工程があり、導入に対する苦労や難しさを教えてくれました。さらに、授業を担当した先生はプログラマー経験があったり、ICT教育に関する書籍を執筆したりと、ICTやプログラミング教育に精通している方でした。お話を聴く中で、この学校はハンガリー内でも特別であり、他の全ての学校が同じ状況ではないです、と何度も話していました。school2.jpg

学校訪問を終えて

今回、二つの学校を見学する機会をいただき、ハンガリーでのICTやプログラミング教育について現場の声を含めて知ることができました。そこには、国や学校に関係なく、より良いICT環境の構築に向けた取り組みや教員が生徒に寄り添って指導する姿がありました。今後も、このような各国の取り組みをご紹介していきたいと思います。

参考リンク

※1:WRO(World Robot Olympiad)WRO / WRO Japan
世界75ヶ国以上、約80,000人の小中高校生が参加する国際ロボットコンテスト。日本国内では2,000を超えるチームが参加している。レゴ? マインドストーム?でロボットを作成し、プログラムにより自動制御する技術を競う。

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