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ロボット国際大会の経験がケンブリッジ大での学びに通じている~WRO国際大会銀メダリストに聞く未来 前編~

今回の記事では、レゴ® マインドストーム®とともに成長してきた人々のストーリーを紹介します。お話を伺ったのは、英国ケンブリッジ大学工学部に通うユング開さんです。小学生のときにレゴ® マインドストーム®と出会い、WRO(※1)やロボカップジュニア(※2)の国際大会で6個のメダルを獲得した実績が認められ孫正義育英財団の一期生に選出されました。現在は、大学でロボット開発を研究しています。

ユングさんがWRO国際大会に初挑戦した小学生時代の思い出から、現在のロボット研究にかける思い、さらには20年後の目標までを、彼の通うケンブリッジのカレッジを訪れ、じっくりと聞いてきました。前編では、ケンブリッジでの生活やロボットとの出会い、WRO国際大会でのエピソードを中心にお伝えします。

日本の高校から名門ケンブリッジ大学へ

京都出身のユング開さんは現在大学3年生で、イギリスの名門ケンブリッジ大学工学部に在籍し、Bio-Inspired Robotics Laboratoryで日々ロボットの研究に携わっています。ユングさんが難関ケンブリッジ大学を目指した理由は二つあり、ひとつは「教育システムの充実」、もう一つは「さらなる高みを目指したい」というものでした。「ケンブリッジでは、入学から2年間は工学という学問をまんべんなく学び、その後専門に進みます。講義だけでなく、教授や研究員の方が少人数制のセッションを行ってくれるなど、ケンブリッジならではの学びの環境に魅力を感じました」と話しています。ケンブリッジへの入学は簡単なものではなく、現地の学生と同様に大学の受験資格を得るために、志望動機書や高校での成績を提出する必要があります。

「大学への受験資格を得たのちに、さらに高校の最終試験で優秀な成績を収め、ケンブリッジが指定するテストを受け、現地で教授によるインタビューに臨みました。インタビューでは、自分のレベルでは答えられないような専門的な質問もありました。僕の場合は、物理で2問、どのように問題を解いていくか自分なりの考えを述べるというものでした。」
受験資格の取得、最終試験、インタビューといった課題をクリアし、2017年10月、ユングさんは晴れてケンブリッジ大学の学生としてスタートを切りました。

研究から後輩指導までロボット尽くしの日々

2019年秋、アフレル代表の小林はイギリス、ケンブリッジ大学にユングさんを訪ね、カレッジやラボの案内を願いました。ユングさん自身が「講義が終わって時間がある時はラボに来ます。昨日も一日中ここに居ました」と話すラボには、様々なロボットや部品が積まれていて、そのうちのレスキューロボットは2年にわたって製作を続けているそうで、リーダーを務めているとのこと。ROS(Robot Operating System)を搭載し、制御や画像認識にはPython、C++など、複数のプログラミング言語を使用しています。

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(研究中のレスキューロボット)

「ロボット製作に必要だと考えて、1年生でメカニカルデザインを学びました。それ以外ではロボカップレスキューの大会に出場し、2年生の時には自分でロボットを製作して課題に挑むWROに類似した大会もありました。また、現在は1年生を対象とするロボティクスのインストラクションコースで毎週のセッションを担当している他、学内のロボット大会の管理・運営にも取り組んでいます。」と、まさにロボット尽くしのユングさん。それだけでは飽き足らず、ロボティクス部の部長を務めています。

「ロボティクス部の部長としてプロジェクトの管理やスポンサーとの交渉も行っています。部でロボットサッカーを行うために、二足歩行ロボットの『NAO』を複数導入できるよう資金調達している最中です。サッカーも研究して大会に出場するなど、できることを増やしていこうと考えています」

1年生でロボティクス部を立て直し

ユングさんの活動範囲はロボット分野だけに留まりません。フライングディスクを使ったスポーツ「アルティメット」でカレッジリーグに出場したり、バレーボールの大学リーグチームにも所属したり、充実した大学生活を送っています。

「工学部やカレッジ、週2回の練習と試合があるバレーボールなどを通じて友人が沢山できました。高校時代から色々なことにチャレンジしてきましたが、片道2時間かけて通っていた高校に比べると、通学時間がない分、ずっと楽ですね」と、話すユングさん。入学式当日にロボティクス部の淋しい様子を目にして、友人と共に立て直しを計画し、2年目には部長としてロボット大会に出場するまでに盛り返しました。自分が熱意を持って取り組めることを見出し、スピード感を持って実行に移していく力を持っているという印象を受けました。

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(ケンブリッジ大学にはそれぞれ趣の異なる31のカレッジがあります。)

ロボット制作の難しさと楽しさを知った小学生

ユングさんがロボットに出会ったのは、小学生のときでした。
「両親に勧められて小学3年生から通っていた地元の科学教室で、レゴ® マインドストーム® RCXを使ったロボットサッカーを体験したのが、ロボットとの出会いです。」

レゴは好きだったものの、マインドストームでの体験は夢中になるほど面白いというわけではありませんでした。しかし、周囲の勧めもあって、小学5年生の時に「ロボカップジュニア」の大会に参加します。
「ロボカップジュニアでは、サッカーとレスキューの二つの競技に参加しました。レスキュー部門でライントレースを体験したとき、初めて、自分から面白い、もっとやってみたいと思ったのです。」その楽しさの根幹にあったのが、容易に成功できない難しさでした。「成功したら楽しいですが、同時に難しさも感じました。とても単純に見えるのに、どうしてできないんだろう、という気持ちが、やる気につながったのです。」

初の国際大会で感じた世界の壁を乗り越え、世界トップに駆け上がるまで

ユングさんは小学6年生で参加したWRO Japan 2010 決勝大会で3位に輝き、WRO 2010マニラ国際大会へ出場することになりました。順調に進んでいたユングさんでしたが、国際大会の壁は高いことを思い知らされます。
「WRO Japan決勝大会までは運良く進めましたが、国際大会では何もできずに敗退しました。マニラで表彰式を見ながら『いつか絶対に国際大会でメダルをとる!』と心に誓いました」

奮起したユングさんでしたが、翌年以降も壁にぶつかります。2011年のロボカップジュニアは全国大会までで国際大会には届かず、2011年のWRO Japanでは地区予選会、2012年のロボカップジュニアでは地区大会で終わりました。このとき、快進撃はビギナーズラックだと感じ、自分のやりたいことを見つめ直したそうです。中学生だったユングさんは、クレイジーなロボットを作りたいのか、課題をクリアするロボットを作りたいのか、自分自身に問いかけます。よくよく考えた結果、課題をクリーンに解決するロボットを作りたいという思いに至り、「課題を解決する」ことを条件として必要なことを考え直すアプローチに転換しました。

大きな壁を二回乗り越え、2012年にはWRO Japan 決勝大会2位を経て、WRO 2012 マレーシア国際大会へ選出されます。ユングさんは、マレーシア大会で次のように感じたと話しています。
「マレーシアでは予選8位でしたが、3回の競技のうち1回は満点をとることができました。世界一のレベルを目にして、もっと差を詰められるんじゃないかと思いました。」

2013年以降も、ロボカップジュニアとWROという二つの大会へ挑戦を続け、大学受験で引退するまで、計7回の国際大会出場と6つのメダルを手にすることとなります。受験前の最後の挑戦となった2015年は、ユングさんにとって特に忘れがたい年になりました。中国で開催されたロボカップジュニア世界大会の「レスキューライン」で見事優勝を果たしたのです。その後、WRO Japan 2015 地区予選会を経て決勝大会へ進出、WROドーハ国際大会で銀メダル獲得という素晴らしい成績を残しました。2013年に続いてWROとロボカップジュニアの両方でメダルを手にし、有終の美を飾ったのです。

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(WRO Japan 2015表彰「robotics X」、この後、WRO 2015 ドーハ国際大会で銀メダル)

二つの国際的なロボットコンテストで世界のトップレベルに駆け上がったユングさんは、残りの高校生活で海外の難関大学への進学という新しい目標を掲げ、見事に達成します。

後編では、ユングさんがWRO国際大会という特別な体験からどんな気付きや学びを得たのか、さらに彼が目指すこれからの未来について紹介していきます。

???後編を読む???


※1:WRO(World Robot Olympiad)
世界の74ケ国地域、約30,000チームの80,000人が参加する小中高校生の国際ロボットコンテストで、日本国内では2,000チームが参加している。レゴ® マインドストーム®でロボットを作成し、いかに速く正確に課題をクリアするかを競う。
WRO Japan / WRO(国際大会)

※2:ロボカップ/ロボカップジュニア
日本発のロボット競技大会で現在40ケ国以上が参加する。高校生以下が参加できるロボカップジュニアでは、サッカー、レスキュー、オンステージという三つのジャンルがある。
ロボカップジュニアジャパン / ロボカップ国際委員会

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