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ロボット国際大会の経験がケンブリッジ大での学びに通じている ~WRO世界大会銀メダリストに聞く未来 後編~

今回の記事では、レゴ® マインドストーム®とともに成長してきた人々のストーリーを紹介します。お話を伺ったのは、英国ケンブリッジ大学工学部に通うユング開さんです。小学生のときにレゴ® マインドストーム®と出会い、WRO(※1)やロボカップジュニア(※2)の国際大会で6個のメダルを獲得した実績が認められ孫正義育英財団の一期生に選出されました。現在は、大学でロボット開発を研究しています。

前編では、現在、英国ケンブリッジ大学工学部で研究の日々を送るユング開さんに、マインドストームとの出会いから国際大会メダリストならではのエピソード、大学での生活についてお聞きしました。
???前編を読む???

後編では、国際大会での経験から得た学び、ロボット開発を志すユングさんの描く20年後の未来について紹介していきます。終わりにはWRO国際大会を目指すチャレンジャーの皆さんへ、ユングさんからのアドバイスもありますので、どうぞ最後までお読みください。

限られた時間の中で目標を達成する繰り返しが国際ロボコン

現在、ケンブリッジ大学工学部でロボット研究に携わるユング開さん。世界の壁にぶつかって感じた悔しさを糧に、小学6年生から高校2年生までWROとロボカップジュニアという国際的なロボットコンテストに挑戦を続けてきました。勝ち抜くためには何が必要かを考えぬき、最後の年には二つの大会で金メダルと銀メダルを獲得するに至りました。学生生活の多くの時間を捧げてきたからこそ得られたことが多かったと、ユングさんは語っています。

「ロボカップのレスキューで作ったロボットを応用したり、WROで難しいルールに挑戦して得られた知識や技術をロボカップに生かしたりと、並行して二つの大会の準備をすることで、双方に適切な解を得ることができました。」また、WROを始めとした大会で得た経験の中でも、「色々な状況下でプロジェクトに取り組む際、ステップを踏んで進めていったことがいちばん大きい」そうです。

「たとえば、WROの大会ではロボットの組み立てに始まり、サプライズルールへの対応が求められます。限られた時間の中で自分の目標を達成できる作業をしていくステップがあり、これを何度も繰り返してきたことは役に立ちました。大会ですから、やらなければ負けます。勝ちたいなら、やらなければならないんです。」

このステップは、受験や現在の大学生活にもあてはまると、ユングさんは話します。

「受験の場合、テストで一定以上の点数をとらなければいけない。となると、今何をするべきか……と逆算します。WROの最初の走行テストをミスしたことと、最終テストをミスしたという状況は同じで、その後の対応をどうすればいいのかと考えられるので、非常に役に立ちました」そして、「試験はサプライズルール※と考えればいい」という、ユングさんならでは言葉で表現してくれました。

※サプライズルール:WROの競技では大会当日の朝に追加の課題や競技内容の一部変更が発表され、選手だけでその変更に対応して競技に臨まなければならない。

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(各国代表チームが集うWRO国際大会。ユングさんのチームはWRO 2015ドーハ国際大会で銀メダルを獲得した。)

ケンブリッジでの生活に役立った経験値

大学生活で役に立ったこととして、「世界中から代表チームが集まる国際大会は、出場するだけで多くの経験が予測できます。言語の問題や限られた時間内での対応など、ロボットに限らず、何かを成し遂げたいなら努力が必要なこと、簡単ではないことを知り尽くしています。」と、力強く語ってくれました。

現在取り組むロボット研究でも、その経験が大いに生かされていいます。

「テクニカルなプロジェクトに取り組む時も全体像が見えています。プロトタイプの製作やバグの発見と修正など、それぞれにかかる時間を予測できるので作業全体の流れも見えます。全く新しい技術を使う場合も、全体像をある程度把握できているので、こちらを先にしようと判断できます。」

何度も手軽にやり直せるマインドストームで、挑戦を繰り返す

小学生の頃、「教育版レゴ® マインドストーム® EV3」の前身である「NXT」を使っていたユングさんは、「ロボットの制御を学ぶ上で、不要なトラブルを減らせる点がとても良い」と話します。

「ロボット開発では、電子回路やハードウェア、モーターの制御に非常に時間がかかり、そこでミスがあると再開発となって、時間のロスにつながってしまいます。ある意味、開発はやり直しが難しいのですが、マインドストームなら何度も手軽にやり直すことができ、色々な機能を試すこともできます。」と話す一方で、「つくることができるものが限られている」とデメリットも挙げています。

「ただ、現実世界での開発も限られています。だからこそ、今のリソースの中でできることを考えていくのは大切で、WROで『限られた中でどうやるのか』という経験を積むことができたのは、とても重要だったと思います。」

失敗してやり直すという経験は、現在の学びにもつながっていたと言います。

「何か新しいことをしようと思ったときに、中高生の頃にできたのだから自分はきっとできる、できないわけがないという自信が生まれました。何回も失敗して悔しい思いをしたからこそ学びがありました。」

異能をサポートする孫正義育英財団生に選出される

日本から海外の大学へ進学する生徒数は年々増えており、私立・公立を問わず、国際バカロレアに認定される学校も増えつつあります。しかし、海外への進学は国内と比較して費用が大きく膨らむことは事実です。

ユングさんはケンブリッジ大学への進学にあたって、2017年から始まった孫正義育英財団のサポートを受けています。孫正義育英財団は「高い志と異能を持つ若手人材支援を行う」ことを目的に設立され、これまで3期にわたって200名近い才能あふれる若者を選出しサポートしています。ユングさんはその一期生に選ばれ、学費や研究などの支援を受けています。

「僕の場合は、ケンブリッジでの学費や生活費を支援していただいています。この幸運が無ければ、今ここには居なかったと思います。孫正義育英財団は、ケンブリッジの試験と異なりこれまでの実績が評価されるので、WROやロボカップジュニアでの成果を生かすことができました」と、ユングさんは話します。

財団からのサポートには学費の他にも大きなメリットがありました。

「留学前に参加した財団生によるプレゼンテーションには、とにかくすごい人ばかりが集まっていました。おかげで、ケンブリッジに来た時もカルチャーショックはありませんでした(笑)。ケンブリッジ生は高校時代にトップの人ばかりが集まっていて、ここに来るとトップが当たり前という世界にショックを受けるらしいのですが、僕はその前に孫正義育英財団で異能と呼ばれる財団生に会っていたので免疫がついていましたね。」

「孫正義育英財団は海外に設けたシェアハウスで、イベントなどを開催しています。こうした場で志の高い人たちと出会う機会を持てたことは、本当にありがたいと感じていますし、この人脈は将来の自分にとって糧になると思っています。」と、自分の置かれた環境についての感謝を口にしていました。

社会の役に立つロボットを作っていきたい

自身のやりたいことを見つけ、邁進しているユングさんは、これからもロボットの技術研究をしていきたいと言います。

「ケンブリッジで企業インターンなどを体験し、改めて自分は『ロボットの分野を追求していきたいのか』と自問自答しました。色々と考えた結果、やはり追求したい。しかし、自分の道は企業に勤めることではないと感じました。何がしたいのかを本気で考えて、率いていくポジションで歩んでいきたいと思っています。僕よりハードウェアやソフトウェアの技術力が高い人は無数に居ますが、ここに至るまで色々な経験を積み、ケンブリッジというアカデミックな大学で学んでいる。もっと研究の分野へ進んで行くことで、これを生かすことができるのではと考えています。」
Doctor of Philosophy(博士号取得)の道に進もうとしているのも、そのための一歩なのです。

「今後、あるプロダクトや技術が素晴らしいと思えば、結果的にスタートアップを立ち上げることもありだと思っています。」と、ユングさんは話します。そして、さらに未来の展望についてもこう話してくれました。

「20年後も間違いなくロボットの研究をしているでしょう。僕は『ロボットを社会にどのように取り入れるか』に関心を持っているので、これからもそれを考えていきたいと思います。ロボットにも色々な種類があり、たとえば一部の探査ロボットなどは目的が非常に明確です。しかし、社会に向けたロボットはまだまだ問題が複雑で、だからこそ研究する意味があると思っています。」

?ユングさんの目標の一つは、「ユニバーサルなロボット」です。

「一台で色々なことができるロボットです。今はロボットアームが進化し、ハードウェアの性能もかなり高くなって、ソフトウェアで色々なことができるようになりました。ただ、ハードがすべてのリミットになっているように感じます。今後、ハード面が改善されていき、自動運転のように日々のタスクをロボットも人間と同じレベルでできるようになれば、社会での活用が急速に広がると思います。」と、これからのロボット社会を見通して話してくれました。

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(目標とすべき人は特にいないと語るユングさん。技術や人付き合い、マネジメント能力など、『この人の、こういうところを自分もできたら』と思うことは多々あるそうです。)

小学校から高校まで、WROとロボカップジュニアという二つの国際的な大会に、時間と知恵を注ぎ込み、たくさんの体験と大きな成果を残してきたユングさんは、ケンブリッジというステージで新しい挑戦を続けています。20年後、30年後の未来には、彼の作ったロボットが社会で活躍し、私達の生活を豊かに、そして便利にしてくれることを期待したいと思います。

ロボコンに挑戦するみなさんへ、ユング開さんからのアドバイス

世界の大会で通用するロボットをつくるためのポイント

その1:タイムマネジメント
ロボコンで一番大切なのは、時間をコントロールすることです。ほとんどのチームが失敗する原因は時間だと思います。いつまでに何をやるかを常に意識して進めていく必要があります。

その2:大会のルールをきちんと理解すること
ルールを読むことは、テストの問題文を読むことと同じです。まず問題を理解しなければ、何も始まりません。大会で考えるべきは「何をしたら勝つ(勝てる)」か。課題をクリアするためのロボットを作ってください。

その3:シンプルなロボットから始める
良い考えを思いつかない場合、まずはシンプルなロボットを考えてください。過去の大会や上位チームの動画を見て、工夫された点を参考にすることです。ただし、国際大会で優勝を目指すなら、マネしているだけでは足りません。自分で考えたアイデアを盛り込むことは必須です。

その4:ハードウェアによる解決方法も考える
何でもソフトウェアで対応できると思わないようにしてください。特に、作り変えが容易なレゴは、ハードウェアによる解決方法がかなり役に立ちます。ソフトウェアのみでやろうとすると、かなりの精度が求められるので、安定したロボットを作って制御するほうがはるかに簡単です。WROでいつも心がけていたのは、ずれたらミスするロボットではなく、ずれても成功するロボットを作るということです。

その5:バグフィックスには時間をかける
テスト走行で満点が出たら安心するのではなく、10回のうち何回の満点を出せるかという割合を突き詰めてください。WROであれば、1週間以上は調整だけに時間をとること。練習と全く環境の異なる本番は、1000回に一度のミスが出るぐらいの気持ちで臨んでいました。あとは、経験を重ねることで補える部分もありますあらどんどん経験を積んでいくことです。

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(ユングさんとアフレル・小林との一枚)

※1:WRO(World Robot Olympiad)

世界の74ケ国地域、約30,000チームの80,000人が参加する小中高校生の国際ロボットコンテストで、日本国内では2,000チームが参加している。レゴ® マインドストーム®でロボットを作成し、いかに速く正確に課題をクリアするかを競う。
WRO Japan / WRO(国際大会)

※2:ロボカップ/ロボカップジュニア
日本発のロボット競技大会で現在40ケ国以上が参加する。高校生以下が参加できるロボカップジュニアでは、サッカー、レスキュー、オンステージという三つのジャンルがある。
ロボカップジュニアジャパン / ロボカップ国際委員会

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