STEAM教育

プログラミング、プレゼンテーション、グループワーク…中学入試に吹く新しい風

中学校の入学試験の前に、ロボットの動きを確認する―。そんな受験生の姿が今後増えるかもしれません。追手門学院大手前中学校、相模女子大学中学部、八王子実践中学校など、2019年から2020年にかけて、プログラミングを入試に導入する中学校が見られるようになってきました。学力をはかる入試形式に加えて、各校独自の入学試験が話題を呼んでいます。本記事では、中学校入試で導入され始めているプログラミング入試の背景やメリット、実例をご紹介します。

ユニークな入試が続々…背景に「教育改革」や「学校の魅力化」

ここ数年、中学校の入試試験が多様化してきています。プログラミング以外にも、日本大学豊山女子中学校の「思考力型入試」、昭和学院中学校の「マイプレゼンテーション」、聖学院中学校の「ものづくり思考力入試」など、各学校独自の名称や方法で生徒を募集しています。このような入試が増え始めた背景には、二つの狙いが考えられます。

まず一つ目は2021年度から実施される予定の教育改革の一つ、大学共通入学テストの存在です。大学共通入学テストとはセンター試験の後継となるテストで、センター試験と大きく異なる点は従来の知識量を問う形式から、「思考力・判断力・表現力」を問う形式になるという点です。実際には採点の難しさから実施までまだ時間がかかりそうですが、記述式で問題解決の過程を評価するような問題や、与えられたデータをもとに回答を導き出す入試のスタイルは近く実施される予定です。大学入試の変化を受けて、特に私立の中高一貫校では早い段階から対策をすすめています。

二つ目の狙いは、独自の入試方法をとることによって、自校の特色や教育理念に合った生徒を集められる点です。従来行われている学力試験では、学力という一軸のみで子どもを判断することになりますが、学校独自の判断軸を取り入れた入試方法をとれば、学校のアドミッションポリシーに基づいて子どもたちを評価しやすくなります。さらに、多様性が重視されるこれからの社会では多様な軸を設けることで、様々な個性や価値観を持った子どもを募集することが可能になります。子どもが輝く一面を見出す新たな入試方法は、学校の魅力化を促進したり、他の学校との差別化にも繋がると考えられます。

「アクティブラーニング」や「プログラミング的思考」を反映した入試傾向

新しくユニークな入試には共通する傾向が見られます。それは、子どもの主体性・能動的態度を評価できる内容になっているという点です。

近年、教育現場ではこれからの時代に必要とされる「思考力・判断力・表現力」を育むために、「アクティブラーニング」や「問題解決型学習(PBL)」を授業に取り入れつつあります。教科書に載っている知識を暗記する学習方法から、課題に対して自ら主体的に解決方法を考えて実行していく能動的学習方法に注目が集まっています。入試でもその場で与えられた課題に対し、主体的・能動的に取り組む態度が求められます。加えて、自分の考えを論理立てて説明する、試行錯誤を繰り返して最適解を導き出すという「プログラミング的思考」を見れることが、プログラミングを試験に取り入れる理由となっているようです。その他、試験では会場で初めて会った受験生同士2~3人でチームを組み、課題に取り組みます。初対面の人たちの中でどうふるまうのか、どうチームワークを発揮するのかといった、より実践に近い形で受験生を評価したいという学校の意図がうかがえます。

受験生にとっても魅力的な入試スタイル

新しい入試は受験生にとってもメリットがあります。八王子実践中学校では2020年度からプログラミング入試を実施しました。同校は前年の2019年度入試から大きく形を変え、適正検査、自己表現入試、英語入試、プログラミング入試の四つの中からカテゴリーを選んで受験できるスタイルをとっています。小学生の中には、私立中学受験のために長く続けた習い事を辞めて塾に通いたくない、という子どもも少なくありません。そういった声を捉え、同校は「習い事を続けながら自分の得意分野を伸ばす教育を実践できるように」と考えたのが始まりだったようです。さらに、同校への入学が子どもたちのプログラミングを学ぶための目標の一つになればいい、という想いもあるといいます。試験内容はScratchを使ったプログラミングの実技試験とプレゼンテーションが用意されています。与えられた課題通りにプログラムを作成した後、子どもが自由なアイディアでアレンジを加え、それを紙に書いて、作成したプログラムとともに提出します。

様々な経験を経てきた子どもの魅力は、必ずしも学力試験に現れるわけではないでしょう。自分のやり方に合った方法で自分の力を十分にアピールできるのは受験生にとっても嬉しいこと。魅力ある生徒集めたい学校と受験生双方に利点があるといえます。

プログラミング入試を実施する学校実例:追手門学院大手前中学校

プログラミング入試の実例を一つご紹介します。大阪市中央区にある追手門学院大手前中学校は、2020年度から入試にロボットプログラミングを導入した学校です。「WIL入試(=Work-Is-Learning)」と呼ばれるこの入試は、グループワークで課題解決を行う「WIL入試Ⅰ期」とロボットプログラミングを用いて課題解決に取り組む「WIL入試Ⅱ期」の二種類あります。どちらも学力試験を行わず、生徒の「思考力・判断力・表現力・主体性・協働性・多様性」などを評価する試験です。この入試を通過して入学する生徒は、同校が目指す「新しい学び」(=「協働型」「プロジェクト型」)を体現し、リーダーとして模範となることを期待されています。試験では、受験生同士でチームを組んだグループワークや、個人の意見を発表する機会があります。初めての人とも協力して結論を導き出せるか、新しい環境でも楽しみつつ積極的に取り組めるかといった点も大事なポイントです。

2019年12月、初めての「WIL入試Ⅱ期」が実施され、募集人数5人に対して13人の募集がありました。試験では2~3人に分かれてチームを組み、用意されたロボットを用いて与えられた課題をクリアする問題が出されました。その後、振り返りシートの作成とそれに基づく個人面接が行われ、試験終了となります。課題のクリアが試験合格の判断基準ではなく、課題解決する過程でのコミュニケーション力や、自ら方法を編み出してチャレンジできるかが評価のポイントとなりました。同校のロボットサイエンス部は過去に国際的なロボットコンテストで優秀な成績を収めるなど実力があります。この入試は同校のプログラミング教育の取り組みも後押しする形となりそうです。

これからの教育は、より「思考力・判断力・表現力」を大切にしつつ、個性を尊重する方向に変わっていきます。子どもたちが得意なことを伸ばしながら学習できる環境を提供するために、今後入試の位置づけも見直されていくことでしょう。


参考リンク

タイトルとURLをコピーしました