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[インタビュー動画] 米国の著名企業が国際ロボコンWROを支援する理由

世界各国でSTEM(Science、Technology、Engineering、Math)教育に対する関心が高まりを見せ、学校現場での取り組みやカリキュラムの積極採用が進む中、日本でも2020年の小学校プログラミング教育必修化に向けて産学官を挙げた取り組みが広がっています。

2018年11月、私たちは国際的なロボットコンテストWRO※1 2018 タイを視察しました。世界60を超える国と地域から20,000を超えるチーム(小学生から大学生まで)が参加するWROには、代表チームの子どもたちの他、各国から公教育の関係者、学校の教職員、民間教育の指導者や関係者が多数訪れます。今回、世界のSTEM教育の最新事情を間近で目にし、肌で感じることのできる貴重な機会を活かし、会場で10カ国の教育関係者へインタビューを試みました。

本日は、WROをスポンサードしているJuniper Networksと、WRO USA(米国)のオーガナイザーの方へのインタビューを中心にお届けします。

米国のSTEM教育事情

米国では先のオバマ大統領の頃、STEM教育を重視する方針が発表され、大規模な予算が割り当てられるようになり、国を挙げて取り組む姿勢が明確になりました。これはSTEM領域における人材不足、高校卒業時点の子どもたちの学力底上げ、女性やマイノリティへのSTEM教育の解放といった背景があると言われます。現在のトランプ政権でも、質の高いSTEM、コンピュータサイエンス教育を推進しており※2、2018年12月にはSTEM教育の5年戦略※3も発表されています。5年戦略の中では、STEM教育が複数の分野にまたがる学際的なアプローチへ進化していることや現実社会への応用を通じて学ぶこと、小中学校の早い段階でSTEMの基礎を学ぶことがその後の学習や研究、キャリア形成やスキル向上に不可欠であるといったことが述べられています。中には明確に学生をターゲットとしている戦略があり、「分野融合的な領域に学生を引きつける」として、次のような説明があります。

「自発性や創造性を必要とする複雑な現実世界の問題・課題に焦点を当てることで、STEM学習をより意味のある、しかも学生に刺激を与えるものにすることを目指す。プロジェクトベースの学習、科学フェア、ロボットクラブ、発明チャレンジ、あるいはゲームワークショップなど、参加者が分野間にまたがる知識や方法を用いて問題を特定・解決することを求める学際的な活動に学習者を巻き込むことで、イノベーションや起業を促進する。」

STEM教育を考える場合に、分野を一つに限定せず、様々な要素が絡み合った現実の問題・課題をテーマとすることで、学習者にとって価値の高い取り組みにつなげようとする姿勢が見えます。

世界企業が支えるSTEM教育の現場

WRO Premium Partner
Juniper Networks
Chief Marketing Officer
Mr. Michael E. Marcellin

セキュリティやネットワーク機器、それらの管理ソフトウェアを開発・製造する米国のJuniper Networksは、世界中で事業を展開しています。世界的に知られる通信機器メーカーがなぜSTEM教育の現場であるWROを支援しているのか、インタビューでは興味深いコメントを聞くことができました。

“This room is full of the next generation, engineers and innovators and we feel like it’s very important to invest those engineers and help these kids learn about robotics, learn about collaboration, learn about innovation and learn about friendship.”

次世代のエンジニアやイノベーターがひしめき合うこの場で、子どもたちがロボティクスやコラボレーション、イノベーションやフレンドシップを学ぶ手助けをすることは非常に重要だと感じているそうです。テクノロジーはもはや我々の生活に不可欠で、イノベーションを生み出すのは子どもたちであり、彼らの学びを支援することが大切だとのお話です。

インタビューの終わりに、”the spirit of competition, but also friendship”という印象的なフレーズがありました。WROは目標の一つとして、” Help young people acquire 21st century skills like creative thinking, cooperation and communication.”を掲げています。競い合う(競技会)だけではなく、子どもたちが創造性を発揮し、協力して課題にチャレンジすることで友情を育む場になっていることが分かります。

今後5年間で、WRO USA参加チーム数を5,000に!

WROでは、特に米国においてWROの認知度を高め、参加チームを増やすことをミッションとして掲げた活動が始まっています。WRO USAのナショナルオーガナイザーと密に連携し、女子の参加を促すと共に、今後5年間で米国での参加チーム数を5,000以上に増やすという目標です。2018年時点の参加数は320チームで、チャレンジングな目標であることがよく分かります。

WRO USA National OrganizerであるWill Wong氏にお話を聞くことができました。

WRO USA National Organizer

Mr. Will Wong

現在、米国では、WRO USAを全米規模の大会に発展させるための活動が進められており、2018年には25の地区大会(WRO Japanでの地区予選会に相当)が開催され、タイ国際大会への派遣チームが選出されたそうです。また、Will Wong氏にはもう一つの役割があり、地元シカゴでは年間3,000~4,000人の子どもたちに、ロボティクスやエンジニアリング、コーディングを教えるという放課後プログラムを組織され、出来るだけ多くの子どもたちにSTEM教育を広めたいとの思いがあるとのこと。インタビューの中で、STEMは非常に範囲が広く、その中でご自身はテクノロジーとエンジニアリングを重視しているとお話されています。

今後WRO USAがどのように発展していくのかに注目し、WROを通してSTEMを学び、こうした領域への関心を高める子どもたちが全米に広がっていくことを期待したいと思います。


※1:WRO
WRO(World Robot Olympiad)は、世界の60を超える国と地域から参加チームが集まる国際的なロボットコンテストで、小学生から大学生までの子どもたち(児童、生徒、学生)が参加します。ロボットを組み立てプログラムで制御する自律型ロボットによる競技が行われます。国際大会は、そこに集結する各国代表チームのコーチや関係者、国際委員らとの情報交換やインタビューを通して、世界のSTEM教育について知ることのできる貴重な機会です。

※2:Science & Technology Highlights in the Second Year of the Trump Administration
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2019/02/Administration-2018-ST-Highlights.pdf

科学技術振興機構より、「トランプ政権2年目の科学技術ハイライト 概要」として解説が公開されている。https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2018/FU/US20190304.pdf

※3:Charting a course for success: America’s Strategy for STEM Education
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2018/12/STEM-Education-Strategic-Plan-2018.pdf

日本語による抄訳記事「NSTCによる米国STEM教育戦略報告書」
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターhttps://crds.jst.go.jp/dw/20190215/2019021517739/

参考リンク

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