連載記事

【保存版】これまで紹介したフレームワークやモデルの関係性をマッピング【連載】

連載「エンジニアを導く、新しい学びのロードマップ」

2021年、IoTやAIの活用普及、そしてコロナ禍を経験し、新しい時代がやってきます。ITの開発現場は、曖昧な要望を具体化し、プログラミングして動かすことは変わっていません。しかし、Stay Homeだけでなく、コンピュータ性能の低コスト化とサービス化、そしてネットワークも含めた劇的な進化は止まりません。開発スタイルもこの進化に追従する為に、協調した作業を支援する方法論やツールが現場で実践されています。

この連載では、エンジニアの学び支援する方々(企業の教育部門や高等教育機関)へ向けて、未来をつくるエンジニアの学びについて情報を提供します。テクノロジーを使いこなせる人材を育成するために必要なモノ・コトは何かを考え、新しい潮流を踏まえて整理を試みます。

2020年7月に開始した渡辺のぼる氏による本連載「エンジニアを導く 新しい学びのロードマップ」は今回で10回目を迎えます。本連載では、エンジニアの学び支援する方々(企業の教育部門や高等教育機関)へ向けて、未来をつくるエンジニアの学びについて情報を提供してきました。今回は、これまでの連載を振り返りながら、各回に出てきたフレームワークやモデルの関係性を整理し、体系的にまとめていきます。本記事の最後では、まとめを踏まえて、今後の連載の方向性も示したいと思います。


?これまでの連載記事では以下のようなテーマについてそれぞれフレームワークやモデルなどを説明しました。

第1回:学びにおける知識と行動の分離評価による教育効果の最大化

教育効果測定として有名な「カークパトリックの教育評価法」を紹介しました。レベル1:反応(満足度)、レベル2:学習(理解度)、レベル3:行動(行動・態度変容)、レベル4:結果(実績)と4段階の評価に分かれています。教育効果を図るには行動と実績の評価が必要であり、これをわかりやすく表現しているフレームと考えます。

第2回:教育担当者が意識すべき、人材育成と企業収益の関係性とは

教育とビジネスの成果の乖離について「4つの壁」を紹介しました。これらは教育を施してから業務で収益を上げるまでの間に存在し、 知識獲得→スキル発揮→個人の品質・生産性→組織の品質・生産性→業績等への貢献、と移り変わるなかで立ちはだかる壁です。また、企業の戦略経営において、財務以外の経営を可視化することができ、人材育成と収益を結びつけるフレームワーク「バランスドスコアドカード」も紹介しました。このフレームワークを用いて、教育(学習と成長)から収益までの繋がりについて解説しました。

第3回:氷山モデルでみる、人材育成に欠かせないスキルの見える化

エンジニアの目に見えるスキルだけでなく、そのスキルを支えるものは何かを考えるため、「氷山モデル」を紹介しました。行動特性、モチベーション、適正といった目に見えないが、スキルを発揮するための力を説明するモデルとしては有名なモデルです。記事の後半では、可視化しにくい部分をどのように見える化をするか着眼点や方法をお伝えしました。

第4回:ITエンジニアのOJTで身につけたいスキルと指導方法とは

エンジニアのスキルとして、知識ではなく具体的に考え、手や口を動かし、結果を出すために、OJTの指導ではどのような流れで教えれば良いのかを紹介しました。ここでは「認知徒弟制」というモデルについて詳しく解説しました。「認知的徒弟制」とは、モデリング→コーチング→スキャフォールディング→フェーディング、という4段階のプロセスで効果的かつ効率的に技能の継承が出来る学習方法です。このモデルを参考にすることで、スキルの定着を図ることを具体的にイメージできるようになると考えます。

第5回:教育カリキュラム開発のセオリー「ID」を知り、活用する

教育カリキュラムをつくる際の方法論の一つとして、ID(Instructional Design)について説明しました。加えて、その中でも一般的なモデルである「ADDIEモデル」についても詳しく紹介しました。これは、ソフトウェアやシステム開発におけるV字モデルと同じようなモデルで、分析・設計・開発・実施・評価の流れになっています。この流れに沿って教育カリキュラムを開発していくと、より良い結果が得られると言われています。

第6回:教育担当者と現場管理者が鍵、 収益と企業価値の向上をもたらす人材育成とは

人材育成の目的はビジネス的成果(収益)と言えます。記事の前半では、教育担当者と現場管理者が収益向上のためにできることについて、「売上」「コスト」「生産性」の三つの観点から説きました。後半は、企業の価値として「知的資本」という考え方を紹介し、企業として「知的資本」を充実させるためには、スキルやプロセスが重要であることを紹介しました。

第7回:SECIモデルで考える、組織競争力を高める人材育成施策

企業における知識を共有するモデルとして「SECIモデル」を紹介しました。「SECIモデル」とは、知識を具体化し共有、社員のスキルとして定着させ、さらにはスキルを発揮した結果として得た知識を具体化する、というループのモデルです。ここでは、「SECIモデル」 における、個人やグループ、組織の間で知識を共有・変換・移転・創造し、組織の競争力を高めるための4つのプロセス(共同化、表出化、連結化、内面化)についても詳しく説明しました。

第8回:エンジニア「スキルレベル」の考え方と高め方

個人の具体的行動によって発揮されるエンジニアのスキルにおけるレベル定義を、武道や茶道などで使われる「守破離」と照らし合わせながら紹介しました。また、組込みソフトウェア開発に必要なスキルを明確化・体系化した「組込みスキル標準」のスキルレベルをベースに、段階毎に異なる教育内容とスキルレベルを上げる方法についても詳しく記載しました。

第9回:エンジニア「キャリアレベル」の考え方と高め方

取り上げたテーマはエンジニアのキャリアやキャリアレベルの定義、キャリアレベルの向上方法です。エンジニアのキャリアレベルについて、経済産業省のiコンピテンシディクショナリのキャリアレベル定義を紹介しました。またエンジニアのキャリアと、野球やサッカーなどのスポーツにおけるポジションの類似性についても記載しました。キャリアレベルの向上方法として、各スキル標準の研修ロードマップや資格試験などに言及しました。

人材育成におけるキーワードは「プロセス」

ここまでに取り上げたフレームワークやモデルの関係性を整理すると下記図のようなマッピングになります。

roadmap_vol10_img.jpg

このようなマッピングを見ると、人材と収益をつなぐ「バランスドスコアカード」と人材育成のプロセスである「ADDIEモデル」を中心に、全てがつながってくるのがわかります。

また、注目すべき点として『プロセス』というキーワードが浮かび上がってきます。人材育成にはプロセスが切っても切れない関係であることがわかります。企業の知的資本としてプロセスを明文化し共有し改善改良を続けること、さらにはそれを社員のスキルとして定着させること。ソフトウェアやシステム開発においてもプロセスは重要であり、この定義や遂行能力は企業の知的資本であることは間違いありません。

これからも、ビジネスと教育をつなぐ情報をお届けします

繰り返しになりますが、連載記事の対象読者は「エンジニアの学びを支援する方々」です。企業の方であれば、ビジネスの成果を出せる人材を育成することが役割だと思います。高等教育機関の教員であれば、開発現場のプロセスを遂行できるスキルを持つ人材を育成することが役割だと思います。

この二つの立場の方々に共通するのは『プロセス』と考えられます。プロセスといっても、ビジネスのプロセス、ソフトウェアやシステム開発のプロセス、人材育成のプロセスなど多岐に渡ります。

今後の連載では、この『プロセス』に注目して、工学的な方法論やフレームワーク、モデルを紹介していきます。また、取り上げるテーマやトピックに対して、現場で活躍するエンジニアにインタビューして得た情報を反映していきます。昔から変わらぬこと・変わったことを明らかにし、変えていいこと・変えてはいけないことも共有できればと考えます。

AIが当たり前になった時代に、ITエンジニアがどのようなスキルをどのように身につけるか変化の潮目が来ているかもしれません。今後とも筆者と一緒に、エンジニアの学びについて考えていきましょう。

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