授業実践教育機関事例

小型ロボットアームを活用してトライ&エラーを繰り返す、現場で活躍する人材育成へ

長野県南信工科短期大学校は、ものづくりに関する専門知識と実践技術を身につけたこれからの長野県の産業を支えていく「ものづくりのスペシャリスト」の育成を目的に全国で14校目、県内2校目の工科短期大学校として平成28年4月に開校しました。

「即戦力となる実践的能力の養成」「少人数教育」「技術革新に対応できるカリキュラム」「先端機器を使用した実験と実習」を重視し、多くの実習や実験、さらには卒業研究などにも取り組むなど、特色ある教育に力を入れています。

本記事では長野県南信工科短期大学校の電気システム学科で実施されている小型ロボットアームを活用した授業について、電気システム学科 松原洋一教授にお話を伺いました。

一人一台の小型ロボットアームで段階的に学ぶ、最終課題はロボットコンテスト

「うごきをつくる」をキーワードにプログラミングによる?信号処理や制御を中心に学ぶ電気システム学科は、自分の力でものを動かした時の感動をたくさん経験できる学科です。

電気システム学科では2年生を対象とした「自動制御実習」という授業の中で、学生一人につき一台の小型ロボットアームを活用しています。
授業では最初にロボット全般について紹介をした後、「小型ロボットアームの吸盤キットを使ってオブジェクトを移動させる」という動作を様々なティーチング方法で行います。

授業写真(電気)_(3).JPG

まず専用ソフトウェアの操作パネルを使った「ティーチング&プレイバック」や直接人間の手でロボットアームを動かす「ダイレクトティーチング」といった、リアルタイムで小型ロボットアームの動作を確認しながら行うティーチングを体験しました。
次にブロックをマウス操作で並べて行うグラフィカルプログラミング(Blockly)、最後にPythonを用いたテキストプログラミングを体験し、様々なティーチング方法について学びました。

初心者でも簡単に操作ができるティーチング&プレイバックやダイレクトティーチングからPythonまで段階を踏んで同じ作業のティーチングを何度も行うことで、プログラミングに苦手意識がある学生もロボットアームの操作に徐々に慣れていき、体感を通して「ロボットは誰でも簡単に動かせる」と学ぶことができました。

そして授業の最終課題として「並べた鉛筆をグリッパーでつかんで、時間内に規定の場所に運ぶ」というロボットコンテストを開催しました。

*ルール例
・鉛筆1本につき10点加点(最大6本)
・鉛筆を並べた際に位置ずれがあると減点
・6本全ての移動を終えた後、残り時間1秒ごとに1点加点
・鉛筆を何本ずつ移動させるかは自由
・プログラミング方法は自由
? (しかし方法によって加点する:ティーチング 0点/Blockly 5点/Python 10点)
DSC07049.jpg

今年度は電気システム学科の学生12名を2班に分けて1班6名の少人数授業で実施しました。

松原教授:

最終課題のプログラミング方法は自由なのですが、今回最高点を出したのはPythonでプログラミングしていた学生でした。やはりPythonだと他の方法と比べて速いスピードが出せる、というのが大きいと思います。

Q&A:小型ロボットアームを使おうと思ったきっかけや学生の反応は?

Q. なぜ授業で小型ロボットアームを使おうと思ったのでしょうか?

松原教授:

卒業後に就職先でロボットを扱うことを見据えて、教員だけでなく学生からも「授業の中でロボットを使いたい」という要望があったのがきっかけです。学校には6軸ロボットアームが1~2台ほどありますが、それを学生全員で使ってもロボットについてじっくり学ぶことは難しく、教育的効果は薄いのではないかと思っていました。
小型ロボットアームであれば低価格なので学生の数に合わせて複数台の導入が可能です。そして学生は一人一人に用意された1台を自由に触りながら学べるため、小型ロボットアームはロボットへの理解を深めるための入門機として良いと思います。

Q. 小型ロボットアームを授業で使うと、学生の反応はどうですか?

松原教授:

学生は驚くぐらい黙々と授業に取り組んでいます。学生同士お互いに情報交換をするなどの姿も見られました。
また「プログラミングが苦手だけどダイレクトティーチングはとても上手い」というような学生の新たな一面を発見できるなど、とても興味深い授業となりました。

Q. 授業を受ける学生は事前にどの程度プログラミングを学んでいたのでしょうか?

松原教授:

電気システム学科の授業ではC言語とArduinoをメインに学習しており、Pythonは基本的にはAI関連授業の中で少しだけ触れる程度でした。
小型ロボットアームの専用ソフトウェアを使うとグラフィカルプログラミング(Blockly)で作成したプログラムをPythonで書き出せるので、Pythonを学んでいない学生も書き出したプログラムを参考にしながらPythonを使ってプログラミングをすることができました。

Q. 授業ではどういう工夫をしたのでしょうか?

松原教授:

一方的に先生から「こうしなさい」と指導するのではなく、学生が自分で触る中で「こうすると失敗するのか!」「こうしたら上手くいった!」と経験して学べるように心掛けています。
産業用ロボットと違い、小型ロボットアームは失敗しても壊れにくいし怪我もしないので、学生にはトライ&エラーを繰り返して学んでいってもらいたいと思っています。

地域の小学生にも小型ロボットアームを体験する機会を

松原教授にロボットアームを活用した今後の展望についてお伺いしました。

松原教授:

授業内容については授業時間を増やせるのであれば、カメラを接続して画像処理を用いたピッキングの授業をしたいと考えています。
授業以外では2021年10月に長野県南信工科短期大学校で開催予定のイベント「人材ふれあいフェア」で、「来場した方(地域の小学生)が書いたサインや絵を、ハンドにペンを取り付けた小型ロボットアームが色紙に描く」という催しを実施しようと計画中です。
小型ロボットアームが描いた色紙は持ち帰ることができるので、来場した方の思い出にもなると思います。

少人数だからこその実践的できめ細やかな指導

松原教授はソフトウェア・システム開発を行う民間企業での勤務を経た後、長野県南信工科短期大学校で教壇に立っています。
そんな松原教授が感じる、長野県南信工科短期大学校の良さや自身の経験を活かした教育についてお伺いしました。

松原教授:

長野県南信工科短期大学校は1学年20人以下と規模が小さい学校なのですが、その分学生一人一人にきめ細かく指導ができるところが良いところだと思います。授業でも学生の反応をよく見ることを大事にしており、学生の様子を見ながら、難しそうならより丁寧に教える、簡単そうならより深く教える、など柔軟に対応しています。
また、実際に民間企業で働いた私自身の経験をもとに「現場で働くときに必要な知識」や「学生のうちに何を学べば良いのか」を学生へ伝えることができるので、そういった点では民間で働いた経験が教育現場で活かせているのではないかと感じます。
長野県南信工科短期大学校で行っている授業はどれも実際に役に立つものなので、学生の皆さんには「これはいらない」と自分で判断して学びを止めてしまうのではなく何でも前向きに取り組んでほしいと考えています。

参考リンク

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