九州大学は、文理融合を掲げる「共創学部」を2018年度に新設すると発表しました。他大学も文理融合を重視した学部の新設、カリキュラムの刷新に乗り出しており、今後もこの傾向は強まっていきそうです。本記事では文理融合について基本的な説明を行い、その後なぜ教育現場で文理融合への注目が集まっているのか、また文理融合によって大学教育がどのように変化する可能性があるのか事例を通じて紹介します。
文理融合で学問分野の壁を打ち破る教育を
文理融合とは、これまでの大学教育の現場で一般的に使用されていた「文系・理系」という学問的区分にとらわれず、領域横断的な知識力と発想力を学生に習得させようとする教育方針のことです。
文理融合型のカリキュラムを導入することで、学生は現実社会に存在する課題に対し、柔軟な発想力と豊かな専門知識をもって解決に臨めるようになると期待されています。九州大学より先に実際に文理融合をカリキュラムに取り入れて実践している大学としては、滋賀大学のデータサイエンス学部や、宮崎大学の地域資源創成学部などがあります。
滋賀大学のデータサイエンス学部では、データの管理や加工、処理分析のための情報学、統計学などの「理系的」スキルに加えて、データを価値創造に活かすためにマネジメント、マーケティングなどの「文系的」なスキルも身につけられるカリキュラムが用意されています。宮崎大学の地域資源創成学部では、地域資源を活用するための経営学的知識に加えて、生物学や食料・農業経済学などの農工学的知識、ICTやウェブデザインなどの工学的知識を学べる環境が整えられています。九州大学の共創学部では、従来の学問分野の枠組みをこえて学ぶことで課題の発見から解決に導くために必要な考え方や能力の獲得を目指します。各大学はこうした文理融合の教育によって、新たな価値創造を可能にする人材を育てようとしているのです。
文理融合を掲げる学部の新設が増加している理由とは?
文理融合型カリキュラムを採用する学部の新設数は近年増加する傾向にあります。こうした動向の背景には、多角的な視点と豊かな技術力を兼ね備えた人材への社会的ニーズが高まっている事情が存在します。グローバル化やIT化が急速に進展する現代社会では、必ずしもひとつの専門知識にのみ習熟している人間が「優秀」な人材として重宝されることになるとは限らないのです。
わかりやすい事例としては、ビッグデータ解析などを担当するデータサイエンティストが挙げられます。データサイエンティストには、データの解析を行ううえで必須となる情報学的・統計学的知識に通じていること、また、専用のデータ解析ツールの扱い方についても深く理解していることが求められます。しかし、データの解析結果がどのような「意味」を持っているのかを考察し、データの「価値」を引き出すためには、文化や社会に関する幅広い知識も持ち合わせていなければなりません。つまり、データサイエンティストには理系的な専門知識だけではなく人文学的知識や社会科学的知識についての素養も要求されます。
こうした「文系的」な知識と「理系的」な知識をバランスよく兼ね備えた人材の育成は、従来の教育カリキュラムでは限界があります。そこで大学は、学部再編による文理融合に取り組むことで、将来の社会で活躍できる学生を輩出できるようにする環境を整えようとしているのです。
複合的な社会的課題を知り解決法を学ぶ! 新潟大学創生学部のカリキュラム紹介
最後に文理融合によるカリキュラムや教育システムについて新潟大学の創生学部の事例で具体的に紹介します。創生学部のカリキュラムでは、科学技術や文化、環境に関連した現実の社会的課題の存在について知ること、そして専門分野の異なる他者と協働しつつ、課題を適切に解決へと導く能力を備えた学生を育成することが教育目標として掲げられています。
社会の課題発見を主軸のテーマとしつつ、理化学、工学、法学、経済学や人文学などさまざまな学問分野を文系・理系の隔てなく学習できる点が大きな特徴で、学生は自分のキャリアプランと興味・関心に応じ自由に科目を選択して履修できます。
創生学部に入学した学生は、まず1~2年次の基礎ゼミで「科学技術と社会」、「地域を捉える」などの5つのテーマについて学びを深めます。そして3年次以降は、「自然環境科学」や「機械システム工学」、「社会・地域文化学」など他学部に設置された22個の主専攻プログラムから自身の専門領域を選択し、専門知識を身につけるために学びます。学生は基礎ゼミのグループ活動を通じて他者とコミュニケーションをとりつつ課題を解決するまでの流れを実践的に学習し、そして、主専攻プログラムを履修して他学部の学生と交流することにより、幅広い知識と視点を身につけていくことが可能となるのです。
専門知識を下敷きに物事を多面的に捉える力を養成
学生は文理融合型カリキュラムを通じて、専門的な知識をベースにしつつ物事を多面的に捉える力を養成できます。現代では、ITをはじめとするテクノロジーの進展やグローバル化など、さまざまな要因が複雑に絡み合うことによって生じる社会問題があふれています。これらを解決に導く人材育成のためにも、文理融合の取り組みは今後ますます重要性を増していきます。
参考:
関連記事:
アフレルでは、PBL実践についての相談会を実施しています。
大学においても学生の主体的な学びが重視され、教育の転換が図られる中、PBL(問題解決型学習)を実施する学部・学科がますます増えています。大学教職員の皆さまを対象として、PBLにどう取り組んでいくのか、事例紹介も含めながらご相談をお受けします。下記リンクよりお申込みください。