STEAM教育

求めるのは実践力。教養科目でのPBLを通したプログラミング能力養成とは

情報技術が全産業に大きな影響を与えている今日、大学教育では文系理系を問わず情報技術を「教養」として身につけ、その教養を企業活動の場で実践的に生かせる人材の育成が求められています。本記事では情報技術の1つプログラミングの実践力を習得する学習法のPBLについて紹介します。

なぜ文理両方にプログラミング能力が求められるのか?

首相官邸は日本の将来のために重視すべき政策項目を討議する会議「未来投資会議」の資料として、「未来投資戦略2017」を2017年6月に発表しました。同資料において、将来の日本の成長に必要なAIやIoTといった最先端技術を活用できる人材を育てるために、大学の改革が急務なことが指摘されています。そのなかの1つに「文系理系の区別をこえた情報技術教育」があり、そのなかにプログラミング能力が含まれています。日本政府の青写真は、2020年から小学校におけるプログラミング教育を必修化し、中学・高校までにプログラミングの基礎を習得させて、大学は文理の区別を問わず企業活動に生かせる実践的なプログラミング能力を訓練できる場所にすることです。

今までは情報技術の教育といえば、理工系学部の専門科目と理解されていました。しかし、情報技術が全産業活動に深く関わっている現代社会では、文系学部の学生であっても情報技術の理解が必要です。そのため文系学部においても情報技術を学ぶ機会と環境が必要です。

「知っている」ではなく「使える」プログラミング能力が必要

政府が掲げる大学で学ぶべき実践的なプログラミング能力とは何を意味しているのでしょうか。実践的なプログラミング能力を理解するうえで参考となるのが英語教育です。

英語力には、英文法を正確に知っている文法の知識と、実際に英語を使ってコミュニケーションができる実践力があります。プログラミング能力にも、言語の文法を理解している文法の知識と言語を使って問題を解決できる実践力があります。大学で養成すべきなのは、こうした問題解決能力としての実践的なプログラミング能力です。企業も問題解決できる能力を強く求めています。

問題解決能力としてのプログラミング能力は、英文法を知っているだけでは英語を話せないように、文法を完璧に習得したとしても身につくものではありません。英語が話せるようになるには英会話の経験が必要なように、問題解決能力としてのプログラミング能力の養成には、実際にプログラミングを用いて問題を解決する体験を重ねることが必要です。

こうした「実際に問題を解決する体験を通して問題解決能力を養う」ことを重視した学習法が、PBL(Project Based Learning)です。

「問題解決体験」からの学びを重視するPBL

PBL

と従来の学習法との違い

PBLとは、従来の学習法のように学習する科目の体系的知識を習得してから実践的問題に取り組むのではなく、はじめから実践的問題に取り組むことを通して、問題解決に必要な知識を発見・習得する学習法です。PBLが開発されたカナダ・マックマスター大学の教科書は、PBLと従来の学習法の違いを以下のような故障したトースターを直す具体例を使って説明しています。

  • 従来の学習法では、まず電気回路の基礎知識を学んだ後に、テスターやその他の工具の使い方を学び、それらの学習を終えてようやくトースターを直す作業にとりかかる
  • PBLでは、学習者に故障したトースターをいきなり渡し、「とにかく動くようにするか、少しでも使えるようにしなさい」と実践的課題を与える。学習者は問題解決に必要な知識を探し、その知識を解決に活用する

なお、ある程度の基礎知識を習得してから実践的問題に取り組むPBLもあります。こうしたPBLにおいて最も重視されることは、講義によって受動的に習得した「知識」ではなく、実践を通して必要な知識が何であるかを知り、その知識を適切に活用できる能動的な「問題解決能力」です。

PBL

導入済みの三重大学にみる

PBL

のメリット

三重大学は、以上のようなPBLを早くから大学教育に導入しており、2008年に公開された「学生向けPBL授業受講ガイド」でPBLの利点として主に以下の3点を挙げています。

  • 能動的な学習法で成人教育に適している
  • 身近な問題を提示するので学生が興味を持ちやすい
  • 得られる知識は問題を解決できる深いレベルの知識で応用力が身につく

PBLをプログラミング教育に応用することで、学生たちは教官の指示を待つことなく能動的にプログラミングを活用して、具体的な問題を解決することに多くの時間を使います。その結果、自分たちだけの力で必要な知識を探し出して主体的に問題を解決する能力が養われるのです。

企業が求める主体的な問題解決能力を備えた人材

こうした「主体的な問題解決能力」こそが、企業が優秀な人材として期待する大学生に求めている能力であることは言うまでもありません。技術革新の速度が速い昨今では、大学までに学んだ知識が、企業で働くようになってからも長期間通用すると限りません。企業が求めているのは、多くのことを知っている大学生より、どんな問題にも主体的に取り組み解決できる能力も持った大学生です。

「教養科目としてのプログラミング」にこそPBLが効果的

これからの大学には、文理に共通した「教養科目」としてプログラミング科目の設置が計画されています。このプログラミング科目において習得しなければならないのは、「プログラミングの文法に関する知識」ではなく「プログラミングを使った問題解決能力」です。問題解決能力としてのプログラミングを習得するためには、知識の体系的学習に重きを置く学習法よりは、実践を通して知識とその応用を学ぶPBLが最適です。

アフレルでは、PBL実践についての相談会を実施しています。

大学においても学生の主体的な学びが重視され、教育の転換が図られる中、PBL(問題解決型学習)を実施する学部・学科がますます増えています。大学教職員の皆さまを対象として、PBLにどう取り組んでいくのか、事例紹介も含めながらご相談をお受けします。下記リンクよりお申込みください。

工学系教育におけるPBL実践例紹介・相談会

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