ロボット活用事例授業実践

【授業実践】意欲、能力の違いを包含し、学生の満足を引き出すPBL授業への大転換

国立 秋田工業高等専門学校 創造システム工学科、電気・電子・情報系では、2年生の基礎工学実験と、4年生の基礎研究で、教育版レゴ® マインドストーム®を活用されています。学生の電気、情報工学への関心を喚起すること、自主性、主体性を養うことを狙いとして、10年以上に渡ってレゴ® マインドストーム®を用いた実習授業が展開されてきました。今回は、大きくリニューアルされた4年生の授業について、情報・通信ネットワークコースの伊藤桂一 教授(※1)にお話を伺いました。

時には意欲を削ぐことも、グループワークの難しさ

秋田工業高等専門学校(以下、「秋田高専」)では、一定期間で成果を出すためのマネジメント能力や他者に考えを伝えるプレゼンテーション能力を養うことを目指して、4年生でグループワークに取り組みます。複数名で共に学ぶ協働体験を通して、社会で必要とされる力を身に付けることを目的として継続されてきた授業でしたが、グループで取り組むがゆえの難しさが現れていました。従来のやり方では、例えば、グループ内で学生の能力や意欲に差があり、取り組みに偏りが出たり(やる人、やらない人に分かれてしまう)、グループ全体の満足度が下がったりといった問題点があったそうです。スキルレベルを考慮してグループを構成した場合でも、実際に授業が始まってみると学生の能力や特性に大きく依存し、完成に至らず自信を失くしてしまうといった状況でした。
そこで、学生らがより主体的に学び、有用な経験と満足を得られる内容へのリニューアルを図り、平成29年度から新たな計画で授業を実施することとなりました。

4年生前期の基礎研究をPBLへ大転換

平成29年度、学科の再編と同時にリニューアルされた4年生の基礎研究ではレゴ® マインドストーム®を用いたPBL教育が実施されています。

授業概要(シラバスより抜粋)

  • 学年、人数:4年生40名前後
  • 実施時期:前期(15週)のうち、後半の9週
  • 授業形態:演習(3~4名で一班を構成)
  • 科目名:基礎研究
  • 使用教材:教育版レゴ® マインドストーム® EV3基本セットを、各班2セット

全9週で仮想システムの構築を達成

この授業では、現実社会のシステム構築を模した「仮想的なシステムの構築」をテーマとし、学生3~4名が1グループを構成し、自由に開発します。平成29年度は、1グループでレゴ® マインドストーム®を2セット使用し、ポスターセッションでの発表を成果としたそうです。

PBL教育の流れ

  • 1週:ガイダンス:PBL演習の概要説明、グループ分け、リーダー決め
  • 2-4週:アイディア出し、調査、中間発表
  • 5-8週:共同作業(グループワーク)、発表準備、下級生向けのプレゼンテーション
  • 9週:ポスターセッション

災害用や宇宙探査用といった乗り物のアイディアが多いそうですが、ユニークな例として、二つをお聞きしました。

  • 遠隔医療ロボット:2セット使用できることを活かして、1台を動かすともう1台がシンクロして動く医療ロボットを製作。(偶然、意欲も能力もあるメンバーが揃ったグループ)
  • ピンボールロボット:「プラスチックの板をください」という学生の言葉を不思議に感じた伊藤教授。出来上がった作品はピンボールロボットで、プラスチック板の裏側にはレバーや回転を制御する仕組みが施されていた。(メンバーにはロボコン経験者)

そこでしかできないこと、社会に出た時に役立つことをやらせたい

リニューアルにあたり学生にどういったことを学んでほしいかを深掘りしたところ、この9週間でしかできないことをやらせたいという思いが生まれたそうです。3年生まではものづくりというよりも授業を受けることが基本で、実験と言っても提示された内容に取り組むことが中心となっています。学生は4年生の基礎研究で初めて自由に考え、グループでアイディアを出し合ってものづくりに取り組み、スケジュールを管理して、プレゼンテーションに臨むPBLを経験します。そこではうまく行かないことが当たり前で、自分ひとりではなく周りを見渡し、グループで仕上げることを要求されます。伊藤教授はこの授業に対する思いを、「彼らが社会に出た時、仕事をする時に役立つことの原型が詰まった授業にしたい。」と、一言で表現されました。

学生の満足度にも表れる丁寧な授業

授業に対する学生のアンケート調査では、満足度が5段階評価(最も良い1 → 最も悪い5)で平均1.5と良好な値だったそうで、リニューアルの大きな成果が数字にも表れたそうです。翌年には一人で没頭する卒業研究があり、その苦労を前に、準備期間となる4年生で自分もできるという自信を育てることができます。

成長を感じる場面

基礎研究の成果を見せるポスターセッションは、なんと後期の試験期間中に行われるそうです。4人グループを2名ずつに分け、発表者と聴講者の両方の役割を担わせることで、他人任せにしない仕組みができています。学生には試験を優先し、ポスターセッションはできる範囲で良いと伝えるものの、自分たちの考えを説明し、疑問点や提案をディスカッションしたり、デモンストレーションをしたり、経験を基に話したりといった様子やしっかりした態度に成長を感じるとのことです。

教材としてのレゴ® マインドストーム®の良さ

基礎研究を受講する学生は、全員が2年生の基礎工学実験でレゴ® マインドストーム® EV3を使用しています。そのため、自分もできる・できそうだという印象を持って新たなものづくりに着手できると言います。全員に使用経験があることから、グループメンバーのスキルに応じて製作を進められること、また、教材情報がWEB上に多数公開されているため、自分たちがやりたいことを実現するためには機材が足りないと感じると、学生自身が情報を集め、やり方を工夫する場面も見られるそうです。

教育改善ワーキンググループの成果と今後の展開

秋田高専では、教員による教育改善ワーキンググループによって継続して学生の学修方法が検討されています。学生の授業アンケートや教職員に対するアンケート、あるいは外部評価といった様々な視点からの評価を元に、教育の質の向上と改善に取り組む仕組みが整えられています。今回紹介した4年次の基礎研究のリニューアルも教育改善の成果と言えるでしょう。

人は思い通りに生きられる、学生に伝えたいこと

伊藤教授に、この授業を通して学生の皆さんにはどういったことを学び、将来に役立ててほしいですかとお聞きしたところ、次のようなコメントがありました。

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目標を持って生きていくことで、人は思い通りに生きられます。全てが思い通りとは言いませんが、目標に向かって努力することで近いところには到達できます。学生には、いつも目の前にあることに努力できる人になってほしい、一人で抱え込まないで周りの人との関係の中で考えていってほしいと伝えています。学校は社会の縮図のはずで、学校に居る間に社会で通用する経験をしてほしいと思っています。

※1:伊藤桂一 教授(国立 秋田工業高等専門学校 創造システム工学科 情報・通信ネットワークコース)

参考リンク

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