楽しさと原体験が学びと成長へ、小学校低学年のためのロボットプログラミング教室

本記事は2019/7/20(土)に開催された第12回 科学技術におけるロボット教育シンポジウムの講演レポートです。

「小学1年生からのEV3ソフトウェア」
吉田秀人 (公益財団法人宮嶋利治学術財団)

熊本県八代市にある宮嶋利治学術財団を拠点にロボット教室を開講している吉田秀人氏は、小学校低学年向けに、ちびっこロボット教室を開講しています。指導する中で何よりも大切にしているのは「楽しさ」「原体験」と話す吉田氏。ちびっこロボット教室を始めた理由や指導において工夫していること、取り組む上での成果や課題について発表されました。

「宮嶋利治学術財団」が取り組むロボット教室とは

公益財団法人宮嶋利治学術財団は、故宮嶋利治翁の遺志と遺産によって設立され、熊本県八代市を中心に子どもたちの科学振興、文化振興を行っています。地方から世界に飛び出せる優秀な児童・生徒を育てたいという思いから、昭和61年8月に「財団法人宮嶋利治学術財団」」が発足し、様々な教室を開催してきました。ロボット学習の場としては、2011年より「宮嶋財団ロボット教室」、2016年より「宮嶋財団ちびっこロボット教室」を開催しています。財団の理念のもと、受講料は無料とし、多くの小学生がロボットに触れ合う場を設けています。

WRO Japan決勝大会出場を通して見えた課題

2018年、ロボット教室に通う中学生3人が金沢で行われた自律型ロボットによるロボットコンテスト「WRO Japan 決勝大会」に参加しました。彼らは見事、レギュラーカテゴリー・エキスパートの中学生部門で2位に輝き、タイで開催されたWRO2018国際大会に出場しました。小学5年生からロボット教室に通い始めた3人が、中学3年生になりやっとの思いで掴んだ国際大会の切符でした。

吉田氏は、WROへの出場を重ねるごとに、勝ち上がるにはプログラムの知識だけでなく、独自性のあるロボットを作る技術力も必要と感じたそうです。しかし、実際に独自性を発揮するには時間がかかり、早くからその力を身に付けるロボット教育が必要だと思い、2016年より小学校低学年を対象としたちびっこロボット教室を始めました。

なぜ1年生から? 楽しさを生み出す教室づくり

ちびっこロボット教室で、一番大事なのは「楽しさ」や「原体験」だと吉田氏は話します。小学校低学年は「ロボットは楽しい」ということを原体験にできる貴重な時期です。子どもたちに、とにかく面白い、楽しいと思ってもらうために、講座内容を工夫しています。

全8回の講座のうち3回目まではプログラミングを行わず、パソコン操作なしでロボットを動かし、遊びを中心とした内容にしています。また、課題をクリアするために、ロボットの形を自由に変えながらロボットに触れ合います。まずは、遊ぶことでロボット教室に楽しい印象をもってもらうことが狙いです。

4回目以降は、できるだけパソコンを触らせる機会を設け、独自のアイコン型プログラミング言語をもとに順序処理を中心に学びます。前後左右が表示されたアイコンを用意することで、子どもたちは簡単に単独でロボットを動かすことができます。取り組む課題には、動きを真似したプログラムを作成する「ロボットダンス」、自由なルートでコースを進む「フルーツ運び」など教室独自の内容を用意しています。その時に重要なことが、ロボットの正確な動作です。低学年ほど、ロボットは正確に動くと思っているため、安定性の高い機体を用意することで、自分で考えながらアイコンを使って操作することができます。

ちびっこ教室では指導者も工夫しています。大人ではなくロボット教室を卒業した学生が指導することで、身近な存在として子どもたちが接することができ、憧れの存在が近くにいる環境を作り出しています。吉田氏は次のように話しています。

「低学年は、失敗の許容範囲が広く、失敗への恐怖心が少ないことがあげられます。教室で失敗したり、負けたりしても、翌週にはロボット教室へ笑顔でやってきます。」

ロボット教室で育む心の成長

教室を運営する中で大切にしていることは、子どもたちが全てを自分ごととして捉える環境を整えることです。成功したことも、うまくいかないことも全てを自分ごととしてもらうために、保護者には手伝わない、口を出さないことを徹底して伝えています。ロボット教室を通して、こどもの自主性を育てるようにしています。

ちびっこロボット教室は全8回の講座で構成されていますが、完遂することを大切にしています。難しい課題に直面したり、途中で飽きたりしてしまい、やめたくなる子も中にはいます。しかし、途中でやめるのではなく、完遂し修了できるように保護者にも説明しサポートしています。

ちびっこロボット教室が目指すこれから

吉田氏は発表の中で、「ちびっこ教室を始めたことにより、ちびっこ教室に参加していない子と比べて複雑なプログラムを作るスキルが身につきました。今後は、プログラム作成に加えて、機構の理解やロボット製作スキルを身に付け、伸ばしていけるようなカリキュラムを充実させていきたいです。」と、これまでの活動を振り返りながら今後の展望を話してくださいました。

子どもたちにとって、スキルを培うことは容易ではありませんが、“楽しい”という原体験があり、その楽しさがこどもたちの原動力になっています。教える立場として、いかに楽しさをプロデュースするかが重要と話す吉田氏と宮嶋財団ちびっこロボット教室の今後に注目していきたいです。

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