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生徒の自主性を重視した、探究学習における問題解決型学習(PBL)の実施

2021年に文部科学省から総合的な学習の時間に係る計画の基本的な考え方や具体例、学習指導及び総合的な学習の時間を推進するための体制づくりをまとめた「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」が発行されて以降、さまざまな教育機関で探究学習が進められてきました。その探究学習に先進的に取り組み、探究ゼミと探究プロジェクトの活動を中心に、探究学習に積極的に推進する雲雀丘学園中学校・高等学校の増井貴明先生、林宏樹先生のお二人にお話を伺いました。

教員の専門性や外部連携で設定された多種多様なテーマから選べる探究学習

雲雀丘学園中学校・高等学校は、今年創立75年を迎える中高一貫校で、他の私学と異なり、成績によるコース制をひいていないことが特徴的な学校です。また、探究活動に盛んに取り組んでおり、中学校2年生から高校1年生までの3年間、正課授業として探究学習を行います。最終年度に当たる高校1年生の年度末には、それらの活動の集大成として、生徒一人一人が探究論文を執筆します。この3年間の探究学習について林先生は、「生徒が取り組むテーマは多種多様で方向性など特徴はありません。その多様性が本校の大きな特長だと思います。また、正課外の取組として、教員の専門性や指導したい内容を活かしたテーマに取り組む『探究ゼミ』と教員が企業や大学などと連携し、外部の人が中心となって取り組む『探究プロジェクト』があり、そのなかで生徒たちは自分たちがやりたいことを選んで実施しています。」と活動内容についてお話しくださいました。

探究ゼミでは、生徒の希望で参加するテーマが決まるため、参加する生徒の数は偏りがあるそうです。「生徒の自主性を重視し、完全に希望制で参加者を募ります。テーマによっては偏ることもありますし、少数になるところもあります。むしろ少数のところは生徒と教員や外部の方が密にコミュニケーションをとれるので良いという面もあります。また、通常4月に講座を公開し、生徒が集まって始まりますが、テーマに合わないと感じた生徒には参加を強制はしていません。一度選んだら年度末までやりきらなければならないという取り決めもなく、本当に生徒の自主性に任せています。そんな自由さがあるところも特長かもしれません。」と増井先生は講座の雰囲気を語ってくれました。

 

アイディアで終わらない、形にするまで学びをデザインする

今回、新たに取り組んだ課題解決型学習(以下PBL)の講座は、探究プロジェクトで訪問した大学でヒントを得たそうです。「去年の夏、生徒たちは、探究プロジェクトで大学に行き、2泊3日で世の中に必要なサービスを考え、最終日にそのサービスをロゴにしてノベルティを作るという講座に参加しました。その取り組みを見て、また、そこで、『今の世の中は、専門家は多くいるが、束ねられる人がいない。だから、アイディアを創ったり、チーム内の意思決定をリードしたりすることが重要だ』という話を聞き、アイディアを出して終わるのではなく、自分たちで形まで創る一連の流れができることを実施したいと考えました。」と増井先生は経緯をお話しくださいました。

その考えのなかで、プロトタイプを作る方法として、3Dプリンタやレーザー加工なども検討したそうですが、扱いやすさからレゴ教材に行きついたそうです。増井先生は、「誰もが幼いころに触ったことがあり、プログラミングを活用して実際にイメージしたことを動かして確かめることができる。アイディアを形にすることに『使える』と思いました。先行事例を調べはしましたが、学校で何ができるかはイメージができていませんでした。そこで、外部の方の協力も得て、講座を作っていきました。」とレゴ教材を採用した理由を挙げてくださいました。

<講座実施スケジュール>

 

「学校生活の困りごとを解決する」という課題に取り組む

年末に実施したこのPBLの講座は、テーマを「学校での困りごとを解決する」と設定されました。「社会課題の解決のように大きなテーマで生徒から遠くなるものではなく、自分事として捉えられる身近なテーマとして、『学校での困りごと』に設定しました」と林先生。
募集後、約20人の生徒が集まり、しかも、ほぼ半分は文系の生徒だったことで、理系、文系問わず、どちらの生徒にも関心を持ってもらえるテーマ設定になったようでした。
実際に出てきた困りごとを解決するものとして、「食堂混雑を回避するためのチケットをさばくロボット」「廊下での出合い頭の衝突を回避するランプ点灯、アラーム鳴動ロボット」また、陸上部に所属している生徒が、「ラップタイムを測るロボット」を作るなど、日常の困りごとから考えられたロボットがこの講座で誕生しました。
実際の講座では生徒が生き生きと、「小難しい」と思われることもなく、楽しんで取り組んでもらえたと増井先生も林先生も感じられたそうです。活動をとおして、「生徒の活動を見ていて思ったのは、レゴはトライ&エラーを回すことができるということです。プログラムは正しく構築できていても、走行テストを行うと地面との摩擦など外部環境の影響もあり、うまくいかないことがあります。何度もやり直しながら進めていく、その一つひとつの過程が、またそのなかで考えながら試行錯誤することに価値があると思いました。」と増井先生は振り返っておられました。
その価値は、生徒自身も感じていたようで、「何度もやり直してやっとうまくいった、うまくいった時はうれしかった」「いろんなことを試して、思った通りに仕上がった時には達成感があった」との声が寄せられており、なかには、試行錯誤のプロセスを写真や動画に残し、後で振り返っていた生徒もいたそうです。「講座に参加した生徒のなかには、生徒同士も始めて顔を合わせる人もいましたが、一人では作れない、人と話し合い、協力してつくることの重要性を生徒に感じてもらえたことは、この講座の大きな成果だと思いました。また、プログラミングにも興味を持ったという生徒が何人もいて、関心を持つ幅を広げられたこともよかったと思います。」と増井先生は講座の学習効果をまとめてくださいました。
探究学習の新しい講座として、試行錯誤と形にすることができるレゴ教材を使った課題解決型学習が雲雀丘学園中学校・高等学校に加わった流れを伺いました。

 

<長距離ランナーのコーチになってくれるロボット>
ラップタイムや走行距離を計ってくれ、1人1人に寄り添ったコーチのようなロボットを開発したいとの思いから制作

<食堂で食券を買った人と買っていない人を判別するロボット>
お弁当を食堂に持ち込んで席を使ってしまう人が多く、食券を購入した人が座れない問題を解決したいとの思いから制作

<曲がり角の向こうから人が来ていたら教えてくれるロボット>
廊下や曲がり角の出会い頭で人とぶつかりそうになった経験から、
センサーで感知して事前に知らせてくれるシステムを開発したいとの思いから制作

 

※参考:文部科学省 総合的な学習(探究)の時間

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