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【川崎重工】ロボット共生社会に生きる次世代の人材育成イベント、「カワサキロボットエンジニアになろう!」とは

近年、慢性的な人材不足を抱える介護や飲食などのサービス業や、人口減少による生産力低下を回避すべく対策を講じる製造業など、労働力が企業価値に直結していた業界を中心にロボットによる自動化導入が急速に進んでいます。さらには、導入シーンごとに多様化する自動化ニーズに対応するためのロボット技術者育成も待ったなしの状況です。

そんな中、現存する中では世界最古の産業用ロボットメーカーである川崎重工業はCHERSI(チェルシー)※と連携して工業高校や高等教育機関に対してロボット専門人材の育成支援を行うほか、独自に小中学生向けのイベントも行っています。

※参考記事:企業が教育機関へ直接ノウハウ提供、産学官連携によるロボット人材育成を推進する「CHERSI」とは

今回は、同社の教育活動を推進し小中学生向けイベント「カワサキロボットエンジニアになろう!」を企画運営する川崎重工業株式会社の合田一喜氏にお話を伺いました。


合田一喜氏
川崎重工業株式会社
ロボットディビジョン グローバル事業推進部
マーケティングコミュニケーション課

次世代人材育成イベント「カワサキロボットエンジニアになろう!」

-そもそも、なぜ小中学生向けのイベントを始めようと思ったのですか?

合田氏「高等教育課程に対する取り組みはCHERSIの設立で徐々に動き出しています。一方で、その前の段階、具体的には小学生ぐらいの子どもたちにロボットに触れてもらい、将来の選択肢にしてもらうための活動はほとんど無かったので、産業用ロボットの老舗として「ロボット人材のきっかけになる場を提供したい」というのが始まりです。当社が国産初の産業用ロボットを発表した1969年から近年まで、ビジネス社会で実装され普及するエコシステムが実現されていたロボットは産業用ロボットだけでした。しかし、ここ最近急速にビジネス環境にロボットが進出し始め、まだ限られた業界内ではありますが、人間と同じ環境でロボットが仕事をするのが当たり前になりつつあります。今後この流れが加速していく事を踏まえると、子どもたちが社会で働くころには隣にロボットがいるのが当たり前、その時にロボットにやってもらう事と人間がやるべきことをしっかり分けて協力し、トータルでプラスの活動にしていってほしい、というメッセージを伝えています。【カワサキロボットエンジニアになろう!】では、産業界で使われている本物の産業用ロボットを使って、ロボットは何が出来て何が出来ないのか、どうやって動かすのかを体験してもらいます。人が様々なものに興味を持つきっかけは専門教育のはるか手前にあると考えていますので、子どもの頃から本物のロボットに慣れ親しむ機会を提供したいです。」

合田氏は続けて、ロボットメーカーとして将来のロボット人材育成に貢献することも一つの使命であると話しました。

▼「カワサキロボットエンジニアになろう」概要
羽田空港に隣接する羽田イノベーションシティ内「Future Lab HANEDA」にて定期的に開催。比較的難易度の易しい「①操作編」と、自動制御も学べる「②プログラミング編」の二種類のイベントを提供しています。

○体験で使用する産業用ロボット:RS003N(6軸の多関節ロボット)
○よく使われている場面:電子部品、金属加工などの小型部品の組立やハンドリング

①操作編 参加対象 小学3年生~6年生
所要時間 60分
定員 4名/回
ねらい ロボットの定義や仕組み、適用例を見て、産業用ロボットについて知る
体験内容 二つのロボットの操作方法(各軸、座標)で、ゲーム感覚のコンテンツを体験することにより、楽しみながらロボットへの関心を喚起します。
②プログラミング編 参加対象 小学3年生~中学生
所要時間 90分
定員 4名/回
ねらい プログラミングによって動くロボットの動作を知る
体験内容 PCで子どもたちの馴染みのあるビジュアルプログラミングツールを用いてロボットの動きを作成します。

<操作編で参加者がティーチペンダントを使ってロボットを操作する様子>


<プログラミング編で参加者がプログラミングを行う様子>

-このイベントを実施する上で大事にしていることは何ですか?

合田氏「特に産業用ロボットではフィジカル空間で運動軸と座標(XYZ)を考慮したロボット制御を体験できますので、最近主流となりつつあるSTEAM教育においても得意な領域(Engineering・Math)で学びを深める機会にしたいと考えています。またロボットの腕は、どの関節をどの位置までどのくらいの速さで動かすのか、細かく指示を出さなければいけませんし、曲がる確度には限界があったりします。しかし、その代わりに一度指示してしまえば人間よりも早く正確に疲れることなく動き続ける事が出来ます。そういったロボットの出来ない事や出来る事を子どもたちに実感して欲しいです。」


<プログラミング編で体験する内容の説明スライド>

本物の産業用ロボットを体験できるのはカワサキだけ

-産業用ロボットを体験しに来られる方はどんな方ですか?

合田氏「お子さんがロボット教室に通っている延長で、実際に工場で働いているロボットを体験してみたいと来られることもありますし、単純に親御さんが見てみたいというので、お子さんを連れてくるケースもあります。その中でも特に印象的だったのは、夏休みに旅行で東京に来て「カワサキロボットエンジニアになろう!」に参加したのをきっかけにさらにプログラミングに熱中するようにったというお子さんの話です。その後ロボットコンテストで全国大会に出場するまでになり、再び東京に来て、ちょうど開催していた国際ロボット展の当社ブースに来てくれました。「PCには川崎重工のシールを貼ってすっかりファンになっています」という親御さんからのご連絡もいただき、大変嬉しかったです。ロボットの中でも産業用ロボットはまだまだ一般認知が低いですが、体験した際の子供たちへのインパクトは大きいと感じます。現在、産業用ロボットの子ども向けイベントをレギュラー開催しているのはおそらく当社だけです。今後も興味を持ってくれた子どもたちがすぐアクセスできる体験の場を提供し続けます。」

-特に熱中するのはどんなお子さんですか?

合田氏「苦労したお子さんの方が熱中している印象があります。例えば、操作編で使っているティーチペンダントは1㎏くらいあるのですが、それを持ったまま操作すること自体がまず子どもにとって一苦労です。その状況で試行錯誤し上手く行った時の達成感は大きく、終了時間ギリギリまで熱中して取り組んでいる子どもたちが多いです。また、一人がロボットを動かしている時は他のお子さんもロボットを囲っているのですが、もっと奥だよとアシストしてくれるお子さんもいて、初対面の子どもたち同士で協力し合えるのも、体験に熱中しているからこそかなと思います。」

他にも、参加するお子さんには川崎重工のロゴが入った作業服が貸し出され、本当にカワサキロボットエンジニアになったような体験ができるのも喜ばれているとお話しいただきました。

連携で全国の子どもたちが産業用ロボットに気軽にアクセスできる場を作りたい

-現在、活動拠点は羽田イノベーションシティのみだと思いますが、どのように拡大していくのですか?

合田氏「本物の産業用ロボットを子どもたちに体験してもらうというコンセプトを強く持ち活動していますが、本物だからこそ頻繁な移動(運搬)が困難になる事もあって、可能な限り出張イベントなども行っていますが、自社だけの活動だと限界があると感じています。しかし、当施設に遠方からくるお子さんもいらっしゃいますし、全国の様々な場所に、産業用ロボットに興味を持つ子どもたちがいるもの事実です。そんな子どもたちに気軽にアクセスできる場を提供するためには、全国に拠点を持つ教育関連の民間企業や様々な団体と連携し、協業体制を築いていくのが理想的だと考えています。」

最後に合田氏は、「カワサキロボットエンジニアになろうに参加した子どもたちが成長し、技術者になって川崎重工に入社する姿を見るまでは活動を続けたいです。」とにこやかにお話しされていました。

編集後記:

筆者がイベントを見学した時に印象的だったのは、産業用ロボットから発せられる「音」でした。エアーが送られる「プシュー」という音、モーターの「キーン」という音、またそれに気づいた親御さんが「どういう仕組みで動いてると思う?」とお子さんに問いかける場面も見られました。これらは本物でないと得られない五感の体験です。こういった本物ならではの体験機会を全国の子どもたちに提供できるよう、賛同し連携する企業団体が増えることを願います。

連携にご興味のある方は、こちらにご連絡ください

・川崎重工業株式会社 ロボットディビジョン:お問い合わせ

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