コンテストロボット活用事例

世界3位に導いたコーチング 「教えない、共に考え、共に学ぶ」日々

2017年11月、南米コスタリカにおいてWorld Robot Olympiad コスタリカ国際大会(WRO Costa Rica 2017)が開催されました。世界53ケ国から392チームが参加したこの大会では、日本チームが二つのメダルを獲得した他、レギュラーカテゴリー小学生部門、オープンカテゴリー小学生部門・高校生部門で入賞するなど、素晴らしい活躍がありました。

今般アフレルでは、銅メダルを獲得されたオープンカテゴリー中学生部門の日本代表チーム「Otemon Quest」(追手門学院大手前中学校)を率いてコスタリカへ飛んだ横田理樹(よこたまさき)さん(奈良工業高等専門学校専攻科)に、貴重な体験談を伺いました。

WRO(World Robot Olympiad)の競技カテゴリー

世界中の子どもたちが自分たちでロボットを製作し、プログラムによる制御を競う国際的なロボットコンテストWROには、いくつかのカテゴリーがあります。ここでは各カテゴリーを簡単に説明しましょう。

レギュラーカテゴリー

最も参加チームの多いレギュラーカテゴリーは、指定される競技コース・課題をできるだけ速くかつ正確にクリアすることが求められます。小学生、中学生、高校生部門があり、指定される市販ロボットキットのみを用いてロボットを製作します。

Advanced Robotics Challenge(ARC)

17~25歳の学生が非常に高度な制御と複雑な機構にトライするAdvanced Robotics Challenge(ARC)では、ロボットの筐体への深い理解と工夫、より高い技術力による解決が必須となります。2017年の競技はテトラスタックと呼ばれる様々な形の木製ブロックを積み上げる内容でした。

オープンカテゴリー

オープンカテゴリーは社会問題を解決するロボットの制作がテーマで、2017年は「Sustainabots [Robots for Sustainability]」、サステナビリティ=持続可能性として提示された四つのゴールのうち、一つを選んでロボットを構築するというものでした。大会当日は、2m×2m×2m(幅×奥行×高さ)のブースに設置するロボットやポスターなどの展示物、審査員に向けてのデモンストレーションやプレゼンテーション(国際大会では英語による)等によって審査されます。

手話通訳ロボット

Otemon Questのメンバーが制作した手話通訳ロボットと音声出力ロボットは、音声と手話を双方向に変換することで耳の聞こえる人とそうでない人の間でスムーズなやり取りを助けることができます。音声から手話への変換はタブレットに話しかけた内容をEV3の認識しやすい色に変換することで手話の指示を行います。手話から音声への変換には文字入力と音声再生を行う専用デバイスをEV3のみで作り上げました。P1010610_s.jpg(OtemonQuestのブース、右下部分に見えるのが手話通訳ロボット)

横田コーチに聞く「Otemon Quest」メンバーの成長

「Otemon Quest」のメンバーが所属する追手門学院大手前中学校は、2017年まで4年連続でWRO国際大会に出場しています。横田コーチのお話から、チームメンバーとの密で風通しの良いコミュニケーションと、メンバーの中学生たちが自らを見つめ、学び続ける真摯な姿勢が強みにつながっていることが見えてきました。

3年連続で国際大会に出場したリーダーの辰巳さん、自分を超える

先輩に押され気味だった一年目、二年目を経て、三年目でリーダーになった辰巳さんは、勝つためのロボットではなく、人のためになる、人を助けるロボットを作りたいとはっきり意思表示をし、悩み続けたこれまでが手話通訳ロボットとして実現しました。

高い表現力でチームを支える倉富さん

ブースやポスターの見せ方に抜群の力を発揮する倉富さんは、中学1年生のころから分かりやすい制作物を仕上げていたそうです。ロボット本体の制作を担当するメンバーに遠慮が出る中、横田コーチからは「できないことを数えずにできることを数える」ようにとの助言を受け、プレゼンテーションを支える大黒柱としてチームへ貢献しました。

ロボットづくりの力はピカイチ、自ら伝える役割も果たすように変わった櫻井さん

初の国際大会参加となった櫻井さんは、ロボットづくりの力は世界レベルで鋭い観察眼の持ち主だそうです。一方、やりたいこと・できることを最優先にする傾向がありました。櫻井さんは国際大会のメンバーに入り様々な叱咤激励を受け、自ら伝える練習を始め、現地ではブースに来た子どもたちに伝える役目もしっかり果たしていたという大きな変化がありました。

コーチとしての歩みと自らの成長

WRO参加チームのコーチになったきっかけ

追手門学院大手前中高等学校ロボットサイエンス部「OTEMON QUEST」の顧問である福田先生は、横田コーチの中学時代の恩師であり、横田コーチは高専3年生の時にコーチとして加わらないかと声をかけてもらったそうです。横田コーチから「ロボットは青春をかけたもの」という発言があり、ロボットへの思いの強さが感じられました。
元々一年限りと始めたコーチ参加でしたが、大会を通して選手の見せる様々な表情から伝わる真剣な思いに、彼らの成長を継続的に見たい、共に寄り添ってがんばりたいという気持ちがこみ上げ、今に至るそうです。

コーチとして、自分の成長を感じるとき

中学生の子どもたちと一つのチームを作り大会に取り組むまでは、子どもたちと接することが苦手だったそうですが、複数年に渡ってコーチと選手として信頼関係を築いていく中で、相手の立場になって考えること、自分の気持ちを伝えるにはどうしたら良いかをより深く考え、実践するようになったと言われていました。

コーチ論:教えない、共に考え、共に学ぶ

横田コーチのコーチ論においてキーワードは「本気」。選手とコーチの本気が釣り合ってようやくいいチームになるため、進んで「教える」という指導は少なかったそうです。一方で、指導の立場においては次の三つの観点を大切にされました。

  1. 勝つこと以上の目的を明確にする
    オープンカテゴリーでは、社会問題を解決する、人の役に立つロボットを本気で考えることが必要になります。そのため「勝つロボットをつくる」ることを目的とするのではなく「役に立つロボットをつくる」ことを目的とし共有しました。
  2. とにかく時間をつくる
    常に寄り添う環境づくりがチーム作りのカギとなります。そこで、練習に参加できない平日はチームリーダーからメールで進捗報告を受け今後の方針を話し合いました。また土日は一緒に活動し、いつでも報告、連絡、相談を行える環境づくりを目指しました。
  3. ミーティングを大切にする
    活発なチームに欠かせないことは常に考え合うことです。その日の始まりにはコーチ視点で目標や理想を伝えるミーティングを行い、チーム作業中はやろうとしていることを聞いて共に考え話し合う時間を取りました。また、活動の終わりにはふりかえりとして、大会まで○日といった日程を共有したりその日に気になったことを分かち合う場にし、ミーティングではつねに生徒が考えるようにしてきました。

おわりに

横田さんは、WRO国際大会のオープンカテゴリーは、「発表の場」ではなく「発信する場」であると話していました。プレゼンテーションやデモンストレーションに備えた原稿を覚えて発表するだけでは足りず、覚えた上で、ロボット制作に込めた強い気持ちを言葉にのせ思いを「発信する」場だそうです。2017年のコスタリカ国際大会では、選手3人が互いに強みを伸ばし、補い合ったからこそ銅メダルを獲得できた、これこそがチームワークだとの結びの言葉がありました。

参考:

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