人材育成企業研修

NTTデータが新入社員研修に「教育版レゴ マインドストーム EV3」を導入した理由

本記事は、2016/8/30公開のマイナビニュースに掲載されたものを転載しています。


システムインテグレーター大手のNTTデータは、今年度の全新入社員(約380人)に対し、LEGO社の「教育版レゴ マインドストーム EV3」を利用して開発したアフレルの研修、「システム開発・実践シリーズ」をカスタマイズのうえ実施した。その背景にあるのは、NTTデータの社員教育を改革するという狙いだ。本稿では同社の人事部 人事担当 人財開発グループ 課長代理 清水直幸氏へのインタビューをお届けする。

レゴのロボットによる新入社員研修

「教育版レゴ マインドストーム EV3」(以下、マインドストーム)は、LEGO社が開発した教育用のロボット作成キットである。子ども時代におなじみだったブロックに加え、CPUやモーター、タイヤ、通信機能、そしてセンサー類がそろっている。プログラミング言語の知識がなくとも、GUIの開発環境で手軽にプログラムを組むことが可能だ。全世界60カ国で200万台以上を売り上げており、学校や企業などさまざまな教育場面で利用され、日本ではアフレルが正規代理店として販売している。

SE、営業、財務、法務といった配属先に分かれる前のNTTデータ新入社員全員が参加したのは、このマインドストームを利用した「アプリケーション実装体験」研修だった。

新入社員たちに課せられたのは、4人でチームをつくり、2台のロボットを連携させながら、荷物の収集配達システムを構築するというテーマだ。要件定義をまとめ、設計書をつくり、GUIでロボットを動作させるプログラムを実装し、実際にロボットを動かしてテストする。

新入社員研修において、NTTデータがこうした研修を実施するのは初めての試みである。なぜ、マインドストームを利用した研修を新たに導入したのだろうか。

つくる意義に気づくために

NTTデータは、社内の技術系教育の内容を改革している最中にある。その背景にあるのは、「ものづくりの勘所をなくしちゃいけない」という課題意識だ。このことについて清水氏は、次のように話す。

「昨今、IT技術はますます高度化・複雑化してきており、IT業界にとどまらず、その適用範囲が広がってきています。技術の進化に追随し、技術の中身を理解したうえで、新たなITサービスを提案できるようにならなければ、競争力は維持できません。こうした状況に対し、まずは若手社員にものづくりにおける『原理原則』を習得させるところから始めようと考えました。新入社員研修はその一歩目です」

同社では、情報技術系を履修した学生ばかりを採用しているわけではない。それぞれのプログラミングスキルにはばらつきがあり、さらに3~4割は未経験者だ。そうした中で、社内での教育を通じてプログラミングの意義やソフトウェアの可能性を、どうすれば伝えることができるのか。それを探し求めた先にあったのが、マインドストームだった。

「今回の研修はプログラマーを育成することが目的ではありません。お客様により良いシステムを提案するためには、ソフトウェアの中身をきちんとおさえておく必要があります。また、何よりもIT技術が社会にどのような効果をもたらすことができるのか、その可能性を事前に知っておいてほしいわけです。マインドストームは、つくったプログラムがロボットの動作として現れます。自分たちが手掛けたシステムが現実世界にどのような利便性をもたらしているかを、非常に理解しやすいと感じたので、研修ツールとして採用しました」(清水氏)

歓声が上がるシステム開発研修

前段に、「家電商社のWeb販売システムを構築する」という、実際の仕事に即した仮想プロジェクトを遂行する「開発プロセス実践編」という研修を実施した後、マインドストームを使って「Webで注文が入った場合に集荷と配送をロボットが行う」という「アプリケーション実装体験」研修が行われた。

研修のチームは、ITスキルのレベルごとに組まれ、未経験者のグループでも、順次実行・ループ・分岐・タイマー処理といった、基本的な「部品」をすべて使う標準機能は実装することができていた。また一部のチームでは、「絶対に無理だろう」と想定していた、ハイレベルなオプション課題までクリアするところも現れた。

こうした研修の手ごたえについて清水氏は、「みんな研修に夢中になってくれました。ロボットが動いた際は『わあっ』という歓声も上がったりしていたほどです。また、プログラミングに対するネガティブなイメージや、未知なるものへの不安感を取り除くことができたと思います。何より、良いシステムを設計するためには、実装技術を理解しておかなければいけないということを学んでくれたことが嬉しい」と語ってくれた。

こうした研修を受けた新入社員からは、次のような声が聞こえてきた。

「設計書では問題ないように見えても、実際に稼動してみるとまったく思った通りにいかなかった。設計書を書く段階から、プログラミング時に留意すべきことがあることに気づけた」

「自分の考えたロジックで実際にロボットが動いてくれて、ものづくりの楽しさを実感できた」

「プログラムの構造やアルゴリズムについて、ロボット開発を通じて理解を深めることができた」

いずれの声も、今回の研修が清水氏の意図する結果となったことを証明している。

より良いエンジニアを育成するために

今回の約380人参加という規模は、マインドストームを使った研修では日本最大である。3カ月かけてアフレルとカリキュラムを練り上げ、また、講師を担う先輩社員へのトレーニングを行うなど、準備には時間をかけたという。なぜ、配属先に関係なく、全新入社員を対象にしたのか。

「システム開発の原理原則は、当社の根幹です。営業だとしても、お客様から信頼されるためには、当然知っていないといけません。また、財務や法務といったバックオフィスで働くとしても、仕事の相手はNTTデータ社員です。常識として、全員にきちんと理解してもらいたいと思ったのです」(清水氏)

今回の新入社員研修は、社内教育改革の第一歩目だ。この成功を大切にしながら、今後は、2、3年目や中堅社員を対象に新たな研修を提供していく。

「自分自身がもともとプログラミング未経験で入社したのですが、上司・先輩に教えてもらいながら、あるいは本で学習しながら、Webアプリケーションのフレームワークをつくる仕事などをやらせてもらってきました。そうした中で私は、ソフトウェアアーキテクチャのスペシャリストとして社内認定されるまでに至りました。そんな自分のたどった成長の過程を若手社員教育に還元して、品質の良いシステムを作る”勘所”を持った、良いエンジニアを育てていきたいと思っています」と清水氏が語るように、NTTデータにはより良いエンジニアを育成するための仕組みや環境が整っている。

ビジネスのあらゆるフィールドで活躍するためには、常に先進的なアイデアを持ち続け、それを形にしていくことが重要だ。逆をいえば、NTTデータではそれを実現することができるため、”人を想う”魅力ある職場というわけだ。


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