若手エンジニア育成に力を入れる富士ゼロックス、「ロボコン」に参加する理由とは

若手エンジニア育成に力を入れる富士ゼロックス、「ロボコン」に参加する理由とは

モノとネットワークが繋がるようになった今、ソフトウェアの適用範囲はあらゆる場所に広がっています。ソフトウェアの開発規模はますます拡大し、開発現場では担当範囲を決める「分業化」と既存のソースコードに最低限の修正を加える「派生開発」が主流となっています。そんな中、新しいシステムを一から開発し、市場に新しい価値を提供できる創造性高いエンジニアをどう育てていけばいいのでしょうか。

今回は複合機のソフトウェアを開発する富士ゼロックス株式会社(以下、富士ゼロックス)のソフトウェア&エレクトロニクス開発本部の人材育成の取り組みをご紹介します。同社は以前より若手エンジニアの育成に力を入れており、その活動の一つに2010年から参加を続ける教育目的のロボットコンテストがあります。会社公認の若手育成活動として取り組まれるこの活動は、会社にどのような効果をもたらしているのか、富士ゼロックスでETロボコン活動を推進するソフトウェア&エレクトロニクス開発本部コントローラ開発部の土樋祐希さん、南川恭洋さん、人事部の延谷直哉さんにお話を伺いました。

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富士ゼロックス 横浜みなとみらい事業所

富士ゼロックスの若手エンジニア育成

富士ゼロックスはオフィスで使われる複合機※1を通して、入出力業務に関するソリューションやサービスを提供しています。複合機には「コントローラ」と呼ばれるユニットのソフトウェアが組み込まれており、これが様々な画像データと、強固なセキュリティや外部ネットワークとの連携を可能にしています。

いわば製品の心臓部ともいえるコントローラを開発するのが、ソフトウェア&エレクトロニクス開発本部です。現場では、より良い開発を追求するために、経験や年齢に関わらず自主性や挑戦する姿勢を重視されています。また、若手の発言を積極的に取り入れるフラットな組織風土も醸成されています。大企業でありながら、「攻めの人材」を育成するのに貢献している一つの取り組みが、毎年参加を続けるロボットコンテスト「ETロボコン」とのことです。富士ゼロックスでは延べ70~80人がETロボコンに参加しており、全国の企業エンジニアや学生が参加する中で、過去に数々の優秀な成績を収めてきています。

分業化と派生開発がもたらす「実現力」の欠如

2010年、ETロボコンへの参加を初めて会社に提案したのは、現在ソフトウェア&エレクトロニクス開発本部に所属する土樋祐希さんです。
当時、組込みソフトウェア開発の現場は大きく変わりつつありました。技術の進歩によって、モノと情報が繋がりやすくなった結果、ソフトウェアの適用範囲や開発規模は急速に拡大していました。2000年頃に200万行程度だったソースコードは、2010年時点で5倍以上に膨れ上がっていたと言います。開発規模の拡大と市場の要求に備えるため、現場では分業化が進み、現行のソースコードに最低限の追加修正を行う派生開発が主流となりました。派生開発で多くの製品を提供できるようになった一方、「人の成長という観点では問題があると感じた」と土樋さんは言います。

ソフトウェアをできるだけ修正しないという方針は、ややもすれば設計の意欲を薄くさせてしまいます。また、局所的な変更にこだわると、その後の機能拡張やコードの見やすさといった保守性を犠牲にすることもあり、信頼性や開発効率にも影響を与えます。さらに、大規模なソフトウェアが既にある状態で入社する若手は、一からソフトウェアを作る機会を得られず、システム全体を俯瞰できる人材が育ちにくくなります。その結果、「既存のものを変更できても、新規で何かを作ることが困難になる」と危惧した土樋さんは、一からソフトウェアを作る「実現力」を持つ若手の育成を決めたと言います。

「若手エンジニア育成にロボコンがいい」3つの理由

富士ゼロックスの開発部には2008年から「Plism(プリズム)活動」と呼ばれる人材育成プログラムがあります。新たな発想を生み出せる人材の育成や組織間の連携を目的として、業務の10%の工数範囲内であれば、自由に設定したテーマをもとにチームで活動できるというものです。2010年、テーマの中にETロボコンが追加されたのは、以前から個人で参加し、その学びの大きさを実感していた土樋さんの発案によってでした。

ETロボコンは一般社団法人組込みシステム技術協会※2が主催する、組込みソフトウェア開発をテーマにしたロボットコンテストで、2020年で19回目を迎えました。参加者はソフトウェアが組み込まれたロボットの走行と課題をクリアすることで得られるボーナスを合算したリザルトタイムと、モデルと呼ばれる設計図の評価、2つの要素で総合順位を競います。土樋さんは2008年に個人で参加し、2015年以降はコンテストを運営する実行委員会でETロボコンを支えられています。なぜ若手育成にETロボコンが有効なのか、土樋さんに三つの観点を教えて頂きました。

一つ目は、分業化と派生開発が主流となった現在では難しい、一からソフトウェアを作る経験ができることです。顧客向けの製品では許されない失敗と挑戦が、ETロボコンでは何度も体験できるとのことです。

二つ目は、設計図と呼ばれるモデルが書けるようになるとのことです。複雑かつ開発規模が大きくなるほどモデルの重要性は増していきます。しかし、実際の開発現場ではモデルを書ける人材が不足しているという現状があるようです。現在、審査委員長を務め、多くのモデルを審査してきた土樋さんは次のように話しました。
「モデルを書く際に重要なのは異なる視点でシステムを捉え、理解しやすくすることです。ETロボコンでは機能、構造、振舞いの視点でシステムを捉え、モデルとして表現してもらいます。またその際にもう一つ重要なポイントがあります。それはモデル間の『繋がり』です。異なる視点で書いたとしても対象は1つです。モデル間の繋がりが見えなかったり、間違っていたりすると正しくシステムを構築することができません。実際の現場でも同様のことが言えます。より簡単にし、必要なものだけを見極め、繋がりを意識して設計していく力が必要になります。」

三つ目は、新技術の導入を試せることです。市場のニーズに応えるためには、最新の技術を吸収し、製品開発に取り入れる貪欲さが必要になると言います。ETロボコンは今までソフトウェアの変遷に合わせて、必要とされる技術を課題やテーマに取り入れてきました。2019年はAIや画像認識を活用した制御に挑戦できる競技も追加されました。今後は、「複数のシステムを一つに統合するSystem of systems(システムオブシステムズ)の要素を取り入れることも検討している」と土樋さんは言います。

とはいえ、課題を難しくしすぎて参加対象が限定されないための工夫もあります。2020年には土樋さんの発案で、ソフトウェア開発未経験者でも出場できるエントリークラスが新設され、新しい層の参加者も増えたと言います。また、ETロボコンは、企業エンジニアから学生まで気軽に交流できる時間も設けられているのも特徴です。「会社以外の人たちと付き合い、刺激を受けることもエンジニアとしての成長を促進させる一つのポイントと捉えています」と土樋さんは話されました。

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ソフトウェア&エレクトロニクス開発本部コントローラ開発部の土樋祐希さん

部署・年齢を超える、人脈形成を実現

「試行錯誤してソフトウェアを開発するのが好き」と話す南川さんは、入社2年目の年にETロボコンに参加したメンバーの一人です。2012年にはモデル部門の最優秀チームに与えられる「エクセレントモデル」を受賞、2014年にはアーキテクト部門で優勝を果たしています。「業務ではそれぞれが異なることを行なっていますが、ETロボコンは共通の課題に向かって切磋琢磨します。他者と比較できるので、自分のエンジニアとしてのレベルを客観的に把握することができました」そんな中での優勝はエンジニアとして大きな自信になったと言います。

南川さんにとってETロボコンでの経験は、その後の仕事、特に人脈形成の面でプラスの影響をもたらしたそうです。富士ゼロックスでは、事務局と呼ばれるETロボコン活動全般を推進する組織を設けています。本番を迎えるまでは事務局が主体となって、出場する社員に向けてモデル作成のための教育やサポートを行います。時には年齢も部署も違う上司を巻き込み、レビューを受けることもあり、「こうした経験を通して通常の業務では築けない関係性を構築することができました」と南川さんは言います。例えば、業務で壁にぶつかった時に他部署でも気軽に相談したり、上司に自分の意見を発言したりできるようになったそうです。「ETロボコン出場が共通点となり、今も人脈が広がっています。組込みソフトウェア開発に対して高いモチベーションを持つ仲間ができることも嬉しいです」と南川さんは話されました。

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ソフトウェア&エレクトロニクス開発本部コントローラ開発部の南川恭洋さん

入社1、2年目の若手エンジニアが早い段階ですべき経験とは

2020年、富士ゼロックスから初めて入社1年目のチームがETロボコンに参加し、見事決勝大会出場を果たされました。入社して1、2年目の若手社員がETロボコンに参加する場合、日々の業務に加え、競技に必要となる知識の獲得も行うため、時間に追われます。南川さんは自身の経験を振り返り、「入社後、早い段階で限界体験を経て、自分にどれくらい許容量があるか把握できました。この経験は仕事をコントロールする上で指標になりました」と話されました。

また、開発現場では、「理想」と「納期」のジレンマに悩まされることもしばしばあると言います。「理想と折り合いをつけ、納期に間に合わせるという経験が仕事では大切」と南川さん。日頃は部下として働く若手社員が、プロジェクトを管理するマネジメント能力や、リーダーシップを発揮してチームを導く力を養う貴重な機会となるそうです。

ETロボコンを通して繋ぐ、富士ゼロックスの想い

ETロボコン活動に参加経験のある社員は、富士ゼロックスの様々なフィールドで活躍されています。その一つに就職活動中の学生を対象にしたインターンシップがあります。富士ゼロックスでは、「商品開発プロセスの面白さ・やりがいを実感してもらう」目的でソフトウェア開発をテーマにした体験型インターンシップを毎年開催しています。ここで参加者をサポートするのが、ETロボコン活動に参加した若手社員です。

自身も過去にETロボコンに参加した経験のある人事部の延谷さんが、この取り組みの意図を教えてくれました。「学生にとってインターンシップで出会う社員はいわば会社の顔でもあります。その重要な役割を若手社員に任せています。実際にETロボコンを経験した社員は、自らの言葉で、会社代表として開発の面白さとやりがいを学生に伝えてくれています。参加者の方には、年齢が近い若手社員とのコミュニケーションを通して、若くても裁量権を持ってチャレンジできる会社だということが伝わればいいなと思います。」

実際にインターンを経験し、社風や業務に魅力を感じて採用面接に応募する学生は年々増加傾向にあるそうです。「ETロボコンに出場した人たちが仕事の中でも色々なフィールドで繋がり、各方面で活躍してくれています。これからも経験を活かして、社内の中心メンバーとして会社を盛り上げていってほしいです。」と延谷さんは話されました。

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人事部の延谷直哉さん

目的達成のためには早くから活躍できる若手人材の育成や推進力のある強い組織構築が必要になります。組み込みソフトウェア開発に必要とされるスキルを身に付けられるETロボコンは、富士ゼロックスの人材戦略において重要な位置づけになっています。

※1 コピー、プリント、スキャナー、FAXなど複数の機能を持った機器のこと
※2 https://www.jasa.or.jp/

参考リンク


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