ロボット活用事例授業実践

【授業実践】学生の思考力とコミュニケーションを育む、兵庫県立大学のオンライン実験授業

新型コロナウイルスの影響により、今春よりオンライン授業を取り入れた大学や高等専門学校が多く見受けらます。文部科学省による7月1日時点の調査「新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた大学等の授業の実施状況」※1によると、遠隔授業の学校が23.8%、面接・遠隔授業を併用の学校が60.1%と、約80%が遠隔授業を取り入れています。今回は、兵庫県立大学大学院工学研究科の星野光 助教(以降、「星野先生」)に前期の授業を終えた時期に急遽インタビューを依頼し、取り組まれたオンライン実験授業についてお話を伺いました。

学生の思考力を育む実験授業

兵庫県立大学 工学部電気電子情報工学科 電気工学コース※2には、三年生の必修科目として「電気工学思考型実験」※3があります。この授業は、基礎実験技能をより専門的な分野において発展させるとともに、座学を通して理論的に認識していた知識を結集して実験実施に伴う問題点を解決し、観察力、洞察力を養うことを目的としています。
12週に渡って行われるこの授業では、前半で六つのテーマに沿った実験、後半でロボットを用いた思考型実験を行います。後半の思考型実験は6週(120分/週、令和2年度前期は新型コロナウイルスの影響により5週)に渡って2~3名で構成されたチーム単位で活動し、最終週のロボットコンテストに向けて取り組みます。

ロボットを用いた思考型実験の流れ

??? 1週:思考型実験の概要説明、シミュレータの使用方法の説明
??? 2週:コンテストの課題説明、各チームでミーティング
??? 3~4週:コンテスト課題に向けたチーム活動、担当教員に進捗報告
??? 5週:ロボットコンテストでのプレゼンテーション

今年はオンライン授業としてシミュレータを導入し、受講生34名が遠隔にてシミュレータを用いたロボット開発を行い課題に取り組みました。ロボットコンテストの課題は「Cleanup Challenge」で、ロボットの自律動作によりブロックをフィールド外に押し出すためのプログラムを考え、作り上げます。最終週のロボットコンテストもオンラインで行われ、学生はチームごとに、作成したプログラムの大まかな構造や工夫点、チーム内での情報共有の方法や議論の過程を口頭で説明し、実際にシミュレータ上でロボットを動かしました。
この授業では、チーム内の協力姿勢や作業報告書の提出などプログラム開発やその動作試験に取り組む様子と、最終週に行われるロボットコンテストでのプレゼンテーションとプログラムの質を評価します。学生それぞれの論理的思考力を高め、チーム内でのコミュニケーションや人に論理立てて伝える力を養うことを目指しています。

シミュレータで実現したチーム全員の学習環境

オンラインで課題に取り組む上で、ロボット動作のシミュレータ「Virtual Robotics Toolkit」※4を導入しました。このシミュレータでは、教育版レゴ® マンドストーム? EV3 サンプルロボットのデータと走行コースのデータをシミュレータにインポートし、シミュレータ上で実物同様にロボットをプログラムで動かすことができます。
シミュレータによる実験を導入したことによる学生たちの変化を星野先生にお聞きしたところ、次のような変化が見られたそうです。

「学生たちの課題への取り組み方が変わりました。シミュレータは場所や時間にとらわれずに使えるため、プログラミングが得意でない人でもじっくりと考えることができ、得意な人だけではなく、チーム全員で実験し考えながら課題に取り組めたのではないかと思います。また、上手くロボットを動かせないときに自分のプログラムではなくロボットの性能が悪い(センサが壊れていて反応しない、モータがうまく動いていない等)と考える学生が出てきますが、シミュレータではそのような声が聞こえてこなかったことも印象的でした。」
シミュレータを用いることで、授業に限らず、誰もがいつでも学べる環境ができ、学生たちは自主的に学習し、試行錯誤しながら何度もシミュレータ上で課題に取り組むようになっていったそうです。

また、チーム活動の方法にも変化がありました。学生たちはそれぞれの場所からオンライン会議ツールを使って連絡を取り合い、チームで活動しています。チームで話し合いを進める中で、画面上に映し出されたプログラムを見ながら各自が意見を出し合い、プログラムを修正していくのが難しい場面もあったそうです。そこで、言葉ではなく視覚的に情報を共有しあうために、各自で考えたプログラムを持ち寄りその内容や実行例を見せ合いました。チームでの話し合いを繰り返しながら改善点や解決策の方向性を決めていきました。このようにオンラインツールでのチーム活動を通して、個々のスキルを高めあう機会が自然と生まれ、これまで以上にチーム内のコミュニケーションが活発になりました。

切磋琢磨し、意欲的に学べる環境と機会づくり

星野先生は、「電気工学思考型実験」を通してパソコン上だけではなく物理的にモノを動かし、制御する楽しさや難しさを学んでほしいと言います。そのため、オンライン授業を実施する際も、ロボットをそのままシミュレーションできることに魅力を感じ「Virtual Robotics Toolkit」を導入し、今後はシミュレータと実機の両方を活用した授業も検討されています。

一方で、オンライン授業ならではの課題もありました。対面の場合は、物理的に同じ学びの場を設けることで課題に取り組む他チームの様子が目に見え、お互いに切磋琢磨することができました。しかし、オンラインの場合は各チームが遠隔で取り組むため、他チームの進捗状況が見えにくくお互いの様子を知ることが難しくなります。そこで、オンライン授業を実施するときに、教員同士で各チームの進捗状況を共有し、進捗が思わしくないチームには他チームの状況を伝え鼓舞するように工夫したそうです。今後は大学のポータルサイトを活用しながら、学生同士がディスカッションできるような機会も設けていきたいと考えています。

さらに、ロボットコンテスト実施後には、通学できるようになったタイミングを活用し、希望する学生を対象に実機を動かす機会を設けました。参加した学生は、シミュレータで課題をクリアしたプログラムで実機を動作させ、どのように動くかを試しました。中には、シミュレータでは問題なく動いたプログラムが、実機を置く角度によっては課題をクリアできなかったというケースもあり、パソコン上だけではなく物理的にモノを動かし、制御する難しさや楽しさを体感していました。

オンライン授業の可能性と今後の展望

最後に、星野先生にシミュレータを用いたオンライン授業について、今後の展望を伺いました。

「シミュレータでは、地面の傾きを変える、重力の大きさを変える、といった実機ではできない環境を作って取り組めるのではないかと考えています。そのような、シミュレータだからこそできる良さを取り入れ、今後はシミュレータと実機の双方を活用しながら、学生たちの思考力やコミュニケーション能力、人に伝える力を高められるような授業を展開していきたいです。」

参考リンク


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