コンテストプログラミング教育

“菌”が停電を救う?国際ロボコン初参加の二人が描くスマートシティ

本記事は、2019/12/1(日)に開催された「わくわく?プログラミングDAY in 札幌」の招待講演レポートです。

「ロボットプログラミングを学ぶ理由」
株式会社コズミックワンダー取締役 伊藤広志 氏

2019年11月8日~10日の3日間、ハンガリーのジェールにて、子どもたちが自分でロボットを製作し、プログラムを制御する技術を競うロボットコンテスト、WROの国際大会が開催されました。2004年に13の国と地域が参加した1回目の大会から数えて今回で16回目を迎え、今では70を超える国と地域が参加する世界最大級のロボットコンテストです。日本からは代表として選抜された17チームが参加しました。本記事では2019年12月、札幌からWRO国際大会オープンカテゴリーに出場を果たした小学生チーム「チェリーブロッサム」のコーチを務めた伊藤さんによる講演の内容をレポートします。

テーマは『Smart Cities』社会課題解決を掲げるロボットコンテスト

WRO(World Robot Olympiad)は選手が競技ルールに則り、ロボットを製作し、プログラムを制御する技術を競う大会です。大会では社会課題に関するテーマが与えられ、過去には『Sustainabots: Robots for sustainability(持続可能なロボット)』や『FOOD MATTERS(食糧問題)』などがありました。子どもたちが競技を通して、創造性や問題解決力を養うことが目的とされています。2019年のテーマは社会的に注目を集める『Smart Cities』で、会場ではテーマに沿った競技内容が繰り広げられました。

初参加のオープンカテゴリー「プログラムを作る意味を理解してほしい」

WROの競技にはレギュラーカテゴリー、オープンカテゴリー、アドバンスド・ロボティクス・チャレンジ、フットボールの4つのカテゴリーが用意されています。その中の一つのオープンカテゴリーは、2~3名でチームを組み、与えられたテーマを研究し、自由にロボットを製作します。さらに、自分たちのアイディアを審査員に伝えるプレゼンテーションや質疑応答の時間もあり、表現力や判断力が求められます。

チェリーブロッサムのメンバー、成田清悟さん(小学6年生)と山本樹さん(小学5年生)は、札幌にあるプログラミング教室コズミックワンダーに通っています。2019年オープンカテゴリーに出場し、決勝大会では小学生で唯一の優秀賞を受賞、見事国際大会への切符を手にしました。同教室からオープンカテゴリーに出場するのは初めてのこと。コーチを務めた伊藤さんはオープンカテゴリーの参加を決めた理由を「自由度が高い分難しいが、子どもたちの成長が見込める競技だと思いました。この競技を通して、プログラムを作る意味を理解してほしいという願いがありました」と話しました。

暗闇を菌が照らす、停電時の発電ユニット

今回二人がロボットで表現したのは発電菌と呼ばれるシュワネラ菌を使って、災害時に起こる停電を解決する下水道管発電システム「SAKURA」です。菌の特性を活かし、停電時でも必要な量を適切な場所に送電する仕組みを作りました。アイディアのきっかけは、地元札幌の地下街で行われた水道局のキャンペーンだったそうです。ロボット製作のヒントを得るために、山本さんが自分でお母様にお願いして連れて行ってもらったといいます。しかし、いざテーマは決めたものの、周囲にシュワネラ菌について詳しく話を聞ける人は誰もいませんでした。二人は研究開発に関わる専門家の文献で知識をつけ、図書館で納得できるまで調べたりしてロボットを作り上げていったそうです。

「人間力、総合力が試される大会だった」

ビデオ審査を通過、決勝大会で堂々としたプレゼンテーションを披露し、晴れて国際大会出場が決まった成田さんと山本さんでしたが、二人には高い壁がありました。国際大会では、英文のレポート提出に加え、外国人審査員に向けて英語で行うプレゼンテーションと質疑応答が求められます。「一人は英語検定5級を取得していましたが、このようなシチュエーションは二人とも初めてでした」と伊藤さん。大会前の一か月間、伊藤さんは英語が堪能な教室スタッフに協力をあおぎ、二人に英語学習したと言います。その甲斐あって、本番では世界各国のバラエティ豊かな発表に刺激を受けながらも、自分たちの成果を披露できたそうです。伊藤さんは今回の大会を振り返って、「子どもたちの著しい成長を感じました」といいます。「オープンカテゴリーは人間力や総合力が試されました。今回の大会で、二人は大学生並みのレポートを書いたり、英語で発表したり、様々な経験をしました。無理だと思っていたことでも努力でしっかり乗り越えてくれました。二人ともその努力を楽しんでいたことがよかったですね」。

ロボットプログラミングを学ぶ五つの理由

伊藤さんはロボットプログラミングを学ぶ五つの理由を挙げました。

①アルゴリズムを学ぶことで、論理的思考が身につく

②数学力が必須になることを感じ、自主的に数学を学ぶようになる

③②が活きた数学として活用できるようになる

④社会貢献について考えるきっかけとなる

⑤協調性が増し、コミュニケーション能力が向上する

伊藤さんは⑤のコミュニケーションについて、「プログラムを作る仕事は一見、一人仕事のようですが、そうではありません。今回のWROでもチームでコミュニケーションをとりながらいいものを作り上げました。社会ではロボットを作る人、プログラムを作る人、それをサポートする人、様々な人が関わって仕事が成り立ちます」と話されました。

保護者の方へのメッセージ

「WROはお子様の成長や努力の証が目に見える貴重な機会です。もし大会で悔しい結果に終わっても、また来年、また来年と何度もチャレンジすることができます。その姿をぜひ応援してあげてください。」

株式会社コズミックワンダー取締役コズミックITスクール 伊藤広志 氏

≪最新トリミング済≫伊藤広志コーチ顔写真_-_コピー.jpg

伊藤さんは教室で「ロボットは何のためにあるのか」と生徒たちに問いかけるそうです。プログラミングだけを理解するのではなく、将来、自分が作ったロボットが社会にどのような貢献ができるかを考えられる大人になってほしいという伊藤さん。今回のWROオープンカテゴリーでは、国際的な社会課題をロボットで解決する二人の頼もしい姿を見ることができました。

参考リンク

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