2020年度には小学校で新学習指導要領の全面実施が始まります。間もなく始まる2019年度は、プログラミング教育必修化に向けた移行期間の後半に当たり、全国各地で小学校の教員向け研修が多数展開されることが予想されます。また、2018年度末である今、2019年度の研修計画やプログラミング教育の導入スケジュールを組んでいる先生方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、プログラミング教育の必修化が発表されてから現在までに、関係する省庁で公開された各種資料をまとめてご紹介します。実際に学校現場で実施された様々な事例も公開されていますので、研修を検討される際、あるいは授業を組み立てる際、参考資料としてお役立てください。
文部科学省、経済産業省、総務省の三省の連携により実現されるプログラミング教育必修化
小学校プログラミング教育必修化は、日本の教育行政を担う文部科学省に加えて、未来の日本を描き産業振興に取り組む経済産業省、さらに情報通信の分野を担当する総務省の三省の連携によって進められています。2016年度末(平成29年度3月)に「未来の学びコンソーシアム」という名称で起ち上げられたプログラミング教育の普及と推進を目的としてコンソーシアムは、現在「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」というWEBサイトで多数の実施事例や教材情報などを公開しています。
小学校を中心としたプログラミング教育ポータル?Powered by 未来の学びコンソーシアム 2020年からの必修化に向けて
こちらのWEBサイトでは、プログラミングに関する学習活動として文部科学省から示された6つの分類に該当する実施事例を閲覧、検索できる他、有料・無料の教材情報の紹介、実際にプログラミング教育に取り組んでいる小学校教員や社会でプログラミングを活かしてビジネスをしている一般企業の方のインタビューなどもあります。また、プログラミング教育に関する三省の取組やイベント情報も掲載されるため、こちらをチェックすることで各省の一次資料に簡単にアクセスできます。
「小学校プログラミング教育必修化に向けて」パンフレット(工程表入り)
2018年7月(平成30年7月)、未来の学びコンソーシアムにおいて、教育委員会や学校向けに2020年の必修化までに取組を進めていけるよう工程表が明記されたパンフレットが公開されました。プログラミング教育必修化の背景、ねらい、学習活動の分類といった基本的な内容と共に、2018年度から2019年度の二年間にどのような工程が想定され、どういった取組を経る必要があるか、分かり易く示されています。この資料には、ポイントとして「2019年度は全学校で特定の教師が模擬授業を実施し、すべての教師が模擬授業に参加してプログラミング教育を体験。」と明記されています。工程表を見ると、2019年度の夏には研修が本格化され、2020年度からプログラミング教育を実施する全ての先生が何らかの形でご自身もプログラミングを体験することになります。このパンフレットからも、小学校教員を対象とする研修が集中的に実施される夏休み期間には、全国でプログラミング教育の研修が用意されることが予想できます。
文部科学省から示された手引き
全国の小学校で円滑にプログラミング教育を実施できるよう、文部科学省からは学習指導要領の中で挙げられている単元で実際にどのような授業を行うか、詳しく説明された手引きが公開されています。
小学校プログラミング教育の手引き(第二版)
2017年度末(平成30年3月)に公開された第一版が改訂されたものです。特に、C分類(教育課程内で教科等とは別に実施するもの)については、A分類、B分類との違いを説明し、第一版よりも具体的な取組例が示されています。
提示されている取組例を簡略化して記載します。(全てプログラミングを通して学習する内容です。)
- A分類(学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの)
- 算数 第5学年 正多角形をかく
- 理科 第6学年 電気の性質や働きを学習する
- 総合的な学習の時間 「情報化の進展と生活や社会の変化」を学習する
- 総合的な学習の時間 「まちの魅力と情報技術」を学習する
- 総合的な学習の時間 「情報技術を活かした生産や人の手によるものづくり」を学習する
- B分類(学習指導要領に例示されてはいないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの)
- 音楽 第3~6学年 様々なリズム・パターンを組み合わせて音楽をつくる
- 社会 第4学年 47都道府県を見付けるプログラムを活用し、名称と位置を学習する
- 家庭 第6学年 自動炊飯器のプログラムを考えることで、炊飯について学習する
- 総合的な学習の時間 課題を探求して分かったことをプレゼンテーションする
- C分類(教育課程内で各教科等とは別に実施するもの)
- ビジュアル型プログラミング言語でプログラミングを体験し、楽しさや面白さ、達成感を味わう
- 各教科での学習に先立って、プログラミング言語やプログラミングソフトウェアの操作を体験する
- 各教科での学習を基に課題を設定し、プログラミングを通して課題解決に取り組む
ここでは第5学年の社会科、日本の工業生産と自動車モデルの製作が挙がっています。 - 各教科での学習を基に、表現したいものをアニメーションで作成する
ここでは国語科で物語を学習した後、ある場面のアニメーションを作成する例が示されています。
- D分類(クラブ活動など、特定の児童を対象として、教育課程内で実施するもの)
- オリジナルアニメーション(動的コンテンツ)をつくろう
- 家で使える便利な機械を考えよう(センサー、アクチュエータを活用した機械と制御プログラム)
総務省による教育ICTの推進、若年層プログラミング教育の普及推進事業
総務省というとマイナンバーや選挙を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、情報通信の分野も担当していて、スマートスクールと呼ばれる「次世代学校ICT環境」の整備や教育情報化の推進にも取り組んでいます。
教育ICTガイドブック
2017年3月(平成28年度末)に公開された資料で、教育にICTを導入・活用している事例が多数掲載されていて、プログラミング教育の事例もあります。
- CASE2 渋谷区教育委員会
日本マイクロソフトと連携し、Minecraftでのプログラミング教育と3Dプリンタによるデジタルものづくりを実践 - CASE10 柏市教育委員会
学校、家庭、地域が連携し、小・中学校で体系化されたICT教育の中で、ICT支援員と教員がチームでプログラミング教育の実証授業を実施。内容は、第4学年の総合的な学習の時間、2時限で、Scratchを使用したアニメーションやゲームづくり。 - CASE33 前原小学校(東京都小金井市)
Viscuitを全学年で、3-4年生はScratchやOzobotを使用。5-6年生ではArtecRoboやレゴ マインドストーム EV3を使ってロボットプログラミングに挑戦。
若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業、40プロジェクトの成果
平成28年度から30年度の三年間に渡って、全国で実施された40のプロジェクト(採択案件)の詳細な実施報告を閲覧できます。北海道から沖縄まで地域間の連携による案件も多く、使用教材や実施体制も様々、どの報告もスケジュールや指導者育成、実施内容やその進め方までが網羅されたボリュームのあるものです。40のプロジェクトのうち、平成28年度採択の30件については全て小学校が対象となっています。
- 平成28年度採択案件一覧(11件)
- 平成28年度第2次補正採択案件一覧(19件)
「プログラミング教育・地域ICTクラブ推進フォーラム」
今年度、総務省が進めている「地域におけるIoTの学び推進事業」の成果発表会として、2019年3月6日(平成31年3月)「プログラミング教育・地域ICTクラブ推進フォーラム」が行われます。23の実証事業に採択された事業者(企業、学校、社団法人など複数の団体が連携したコンソーシアムや協議会)による発表が予定されており、中にはプログラミングの取組も含まれます。
- 福井県こどもプログラミング協議会
越前がにロボコンを中心とする福井県全域プログラミングクラブ創設プロジェクト(実施地域:福井県全域) - モックアップ内子協議会
「木育×プログラミング教育」で中山間地域のIoT教育モデルを構築(実施地域:内子町)
まとめ
2020年の小学校におけるプログラミング教育必修化に向けて、推進する省庁からも既に多数の授業事例が公開されています。アンプラグドと呼ばれるパソコンやタブレットを使わない方法、コンピュータの画面上でのプログラミング、あるいは実物を動かすプログラミングなど、方法は様々です。学校ごとに異なる教育目標や地域の実情を反映したカリキュラム・マネジメントの中で、プログラミング教育をどう位置付け、どのように実践していくか、今回紹介した資料もご活用いただければと思います。