これからの「技術」「情報」科目の役割を考える、ポイントは「教養」と「実践力」

2020年から始まる「プログラミング教育必修化」に見られるように、理工系科目の教育は現在、大きな転換期を迎えています。こうした転換期の背景には、いったい何があるのでしょうか。本記事では、現在進行中の教育改革の背景を探ることで、今後日本に必要とされる理工系人材像を確認します。そのうえで、中学校における「技術」、高校における「情報」の教育が進むべき方向を見ていきます。

そもそも、なぜプログラミング教育が必要なのか?

2017年5月30日、経済産業省は日本の将来像を描いた資料「新産業構造ビジョン」を発表しました。同資料では、未来の日本はIoT、ビッグデータ、人工知能、ロボットといった次世代中核技術を活用した第4次産業革命が進展することによって、情報化社会を土台とした人間が中心となる豊かな社会「Society 5.0」が実現すると述べられています。

第4次産業革命においては、次世代中核技術が異業種を横断的に統合することで、新たな価値が生まれます(例:人工知能と自動車が統合された自律自動車)。こうした統合が進むことによって、現在は最先端情報技術とは縁遠い業種であっても、今後、情報技術が応用される分野となる可能性があるのです。

そのため、情報技術の基礎であるプログラミングを、中学高校の教育課程で「教養」として身につけていることが望ましいとされています。そうした教養を土台として、大学ではより実践的な「問題解決能力」を習得し、社会人になったときに必要になる、業種を横断したイノベーションに対応できる人材を育てるというビジョンが掲げられているのです(画像1参照)。

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画像1

高等教育における技術・情報教育の重要性と有効性

「新産業構造ビジョン」に見られるように、これからの理工系大学教育は、高校までに培った「教養」としてのプログラミング能力を土台として、現実に企業が求めている問題解決能力を、PBL(Problem Based LearningまたはProject Based Learning)で磨きをかけて養成することが求められます。このような将来像に対応した大学教育制度を構築するためには、まずは企業が求める能力と現在の理工系大学が教える学習内容にギャップがないかを確認することが不可欠です。

2017年3月29日、経済産業省と文部科学省が設置した「人材需給ワーキンググループ」(理工系人材育成に関する政策を討論する組織)は、企業が求める知識・スキルと理工系大学が教育する知識・スキルとのギャップに関する調査結果「人材需給ワーキンググループ取りまとめ」を公表しました。報告によると、企業が求めるニーズと大学の教育内容に大きなギャップが認められる業種として、プログラミングが実務スキルとして求められるソフトウェア開発が挙げられています(画像2参照)。

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画像2

こうしたギャップが生じる背景には、企業が求めているのはプログラミングを活用した「問題解決能力」であるのに対して、大学が教えているのはプログラミング言語に関する文法的な「知識」であるというミスマッチがあります。こうした企業と大学教育のミスマッチを解消する教育法として期待されているのが、実践を通して問題解決能力を育成する、PBLなのです。

同調査には、千葉大学が理工系大学を対象としてPBLの現状を調べた調査結果も掲載されています。報告によると、PBL型科目を受講した学生は受講しなかった学生に比べて、GPA(Grade Point Average:各科目の成績から算出された学生の成績評価値)が高い傾向にあることがわかりました(画像3参照)。

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画像3

また、過半数の理工系大学がPBLの教育効果を評価していることも判明しました(画像4参照)。以上の調査結果から、理工系大学において今後PBL教育がさらに普及することが予想されます。

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画像4

九州工業大学にみる先駆的なPBL教育

PBLの必要性が高まるなか、2008年からPBLを導入している九州工業大学は注目に値します。同大学がPBLを導入した背景には、技術革新が早い現代においては、「習得した知識はすぐに時代遅れになることから、もっとも育成すべきなのは知識を活用する問題解決能力である」という理念がありました。

この理念はまさに企業が求めているニーズに合い、ひいてはたゆまぬイノベーションが求められる第4次産業革命が進展するなかで働く、これからの人材の育成にも通用するものがあります。

同大学のPBLは徹底しています。チームを組んだ学生たちは、解決方法がひとつには定まらない問題に取り組み、解決策を発見・提案。こうすることで発想力やプレゼンテーション力を養います。問題に取り組むスペースには、PBL用に最適化された研究室「プロジェクトラボラトリ」を使います。

同ラボは「自由な発想は五感への豊かな刺激から生まれる」という理念から設計され、机とイスが固定された従来の演習室とは大きく異なり、机もイスも配置は自由です。また、室内には理工系の書籍だけではなく、デザインに関する書籍もそろっており、自由に閲覧できます。固定の座席を排して異業種間の交流を促進することで、創造性を増進するスペースとして近年注目されているコワーキング・スペースに通じています。

参考

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