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【AI×DXハイスクール】「使う」から「理解する」へ
 AI学習を深める実践授業

文部科学省が推進する「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」を受け、情報、数学等を重視するカリキュラムを実施し、ICT活用による文理横断的な探究的な学びを強化する学校に経費支援が行われています。

今回は、DXハイスクールに採択された教育機関のひとつであり、身近なAIの仕組みを理解してもらうために、ロボットプログラミングによるAI×Pythonの課外授業を実施した、沖縄県立具志川商業高等学校の末吉昇一先生(以下、末吉先生)にお話を伺いました。

ツールを活用した「時間=新たな価値」の創出

新たな価値の創出を掲げ、タブレットなど機材、Teamsなどのシステムツールの導入を推進した沖縄県立具志川商業高等学校。末吉先生は「デジタル連絡ツールの活用により、保護者からの電話による欠席連絡が大幅に減り、事務職員の負担軽減につながっています。また、生徒への連絡事項はPDF化し、Teamsを通して学年ごとに共有を図ることで、欠席した生徒にも円滑に連絡をとれるようになりました。生徒が自分に必要な情報を主体的に収集できるようになってきたことから、今年度の11月からウェルビーイング日課(以下、WB日課)と銘打って試験的に週に1度、1月にはWBウィークとして1週間、朝のショートホームルームを削って、1日の日課を30分短縮する試みを始めました。その結果、教員は生徒一人ひとりにかける時間を増やすことで教育の質を高めることができ、生徒は部活動や検定の準備に時間が充てられるなど、放課後の過ごし方も変わってきました。今は、次年度からの本格的なWB日課の導入に向けて話し合いを進めています」と、その効果を話してくれました。

機材やツールの導入当初は苦労もあったそうですが、始めに職員向け、その次に生徒向けに展開し、2024年4月から学校全体で本格的に運用を開始するなど、段階的に進めたことで円滑な導入ができ、学校として先進的な状況を創り出しています。

「最初は、生徒もシステムに慣れていなかったことで、サインインのしかたがわからないというような初歩的な問い合わせが多く、また、設備も十分ではなかったために、同時アクセスよるフリーズなどもありました。しかし、繰り返し使っていくなかで慣れてきたことや、設備面では回線強化などが順次進んだことで、徐々に体制が整ってきました。また、学内インフラを担当している方がリーダーとして、講習会を実施したり、ICT関連のチャットグループを作って便利なツールや活用法などの情報を共有したりすることで、今の状態にすることができました」と末吉先生は振り返っておられました。

 

生まれた時間を活用して実施した新たな取り組み「AI x Python講座」

今、世の中では、いろいろなAI技術が活用されています。この状況を踏まえ、末吉先生は授業の中でAIを扱うことが必要だと考えています。例えば、プレゼンテーションを作る生徒に、AIの活用による効率的な資料制作を体験してもらうことで、自分たちが時間を掛けるべきところ、掛けなくてもよいところを考えられるように働きかけているそうです。「AIに触れた経験のある人とない人を比べると、仕事をする際の『効率的な時間の使い方』も変わると思います。そのツールとしてAIを知っているかで、生徒が社会に出た時に差がでる。そう考えて授業で扱っていきたいと思っていました。また、AIについて興味関心が高まることへの期待もありました」とAIをテーマにした理由をお話しくださいました。

また、AIとPythonの親和性が高いことを踏まえ、それを生徒にどう伝えていくのか、例えば、AIを使うことはできても、そのしくみをわかってもらうのが難しいと考えていたところで、レゴを使ったワークショップへ参加した際の生徒の反応が良かったことから課外授業の相談をしました。その打ち合わせのなかで機械学習に関する授業プログラムがあるということで、レゴエデュケーションSPIKEプライムを使ったロボットプログラミングによるAI講座を企画しました。

「プログラミングは『難しい』『とっつきにくい』などのイメージを持たれがちですが、レゴは子供のころに触れた経験がある人も多く、そのハードルを下げることができます。また、ロボットを作ることでプログラミングした結果を動きとして目で見えるところが非常に良いと思いました。例えば、車型のロボットに組み込んだプログラムによっては、車が変な動きをします。それが実際の車で同じ動きになるとどんな事故になるのか、その事故を回避するにはどのような動きをさせればいいのかをイメージしやすく、トライアンドエラーを楽しみながらできるところも良い点だと思います。またライントレースでは、機械学習によってカーブを曲がるロボットの動きがスムーズになっていくのが目に見えて分かることで、繰り返し行う動作は機械に学ばせるというAIのしくみを理解することができます。レゴを通した課題解決学習は、『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実させられるもので、とても素晴らしい教材だと感じています」とレゴを使った講座の特長をお話いただきました。

<使用したレゴエデュケーション SPIKE Prime>  <講座実施スケジュール>

課題研究やコンテストへ、AIを活用した学びを拡大したい

AI x Python講座を受けた生徒の反応は非常に良く、「AIを使えることが当たり前になっているので、それを学べて良かった」「AIやプログラミングを学んでいることの意味を知る、良い機会になった」という声がでており、非常に良い講座となったそうです。一方で、2時間という限られた時間の中では、講師の指示に従ってロボットを作り、プログラミングを行うという形になってしまい、「時間が足りなかった」と末吉先生は感じているそうです。AIをテーマにしたことについて、末吉先生は、「AIを使って何かを作ることに、まだまだ否定的な教員もいます。例えば、読書感想文をAIを使って提出した生徒がいました。出すべき課題や自分の考えをAIに作らせるのはもちろん不適切な使い方ですが、AIは今後、生徒が社会に出た時に必ず必要になる知識、経験だと思いますし、それを踏まえ、AIを活用すべきことと、自分でやらなければならないことの双方があり、その意味でもAIの使い方をしっかり教えていきたい」とお話いただきました。

また、今後は、AIの有効的な活用方法をより体感してもらうために、作品コンテストや課題研究につなげていきたいそうです。「課題研究では、地域の小学生向けのプログラミング教室を高校生が実施するような取り組みをしたいと考えています。より若い世代にもプログラミングに興味を持ってもらいつつ、同時に高校生の知識も深めることで、地域の課題解決や人材育成につながる取り組みができればと思っています」と今後の展望についても伺いました。

狙いや思いをもって設計された今回の「AI x Python講座」。DXが進む教育機関現場で、参考になる取り組みだったのではないでしょうか。

文部科学省 令和6年度 高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)

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