人材育成企業研修

NTTデータ・マツダ・三菱電機はなぜ「レゴのロボット」を社員教育に用いるのか

本記事は、2016/11/24公開のマイナビニュースに掲載されたものを転載しています。

異なる業界が必要とする研修

10月20日、南青山にて「今、求められる人材育成 ~ロボットを活用したソフトウェア開発体験型研修の事例紹介~」と題したセミナーが開催された。NTTデータ・マツダ・三菱電機というSIer、自動車メーカー、総合電機メーカーという異なる業界の大手3社がそれぞれの事例を講演し、「レゴのロボット」を使った社員研修の可能性が広く共有されるイベントとなった。

セミナーを主催したアフレル社は、LEGO社の教育用ロボット作成キット「教育版レゴ マインドストーム EV3」(以下、マインドストーム)の正規販売代理店であり、ロボットを使った研修プログラムを2004年から提供し続けている。延べ409社がこの研修を採用しており、受講者は12,000人を超える。同社が扱うマインドストームは、ドラッグ&ドロップといった直感的なGUIで簡単にプログラミングも学ぶことができる製品だ。

新入社員から中堅技術者まで、NTTデータ・マツダ・三菱電機の3社がどのような意図をもってロボットを研修に導入し、どんな成果があったのか、順を追って紹介していこう。

NTTデータ社員としての”体幹”を鍛える

NTTデータが今年度採用した新入社員は380人に上る。ほぼ全員が営業・SEコースとして採用され、営業にもSEにもなる可能性がある。コンピューターに関する知識もプログラミングのスキルもばらばらな新人達だ。そんな彼らにどのような教育が必要なのか。同社 人事部 人事担当 人財開発グループ 課長代理の清水直幸氏は次のように語る。

「NTTデータの事業の根幹はシステム開発です。情報システムの開発が複雑化し、より高度な専門性が要求される中、まずは若手を対象にした専門性基礎力強化に手を打つべきと考えました。ITシステムを構成するものは何か。どういった動作原理で動いているのか。重視すべき設計原則は何か。こうした『原理原則』を、手を動かして、腹に落ちるところまできちんと習得させようと、今年度から新たな研修プログラムをはじめたのです」

32日間の新入社員研修では、座学や実践を繰り返して基本的なビジネススキル、ビジネスマナー、システム開発プロセスを学ぶ。一連の開発プロセスの中で、アプリケーション実装部分に重点を置いたのが、マインドストームによる研修だ。プログラミングスキルに差があっても、全員がGUIベースでプログラムを組むことができ、さらにロボットの動作でプログラムの正しさを確認できるという「わかりやすさ」が研修への導入の動機となった。

研修では、プログラミングのスキルレベル別に4人1組のチームを構成し、要件定義・設計・製造・テストという基本的なシステム開発の流れに沿って疑似プロジェクトを進めていく。このマインドストームの研修が加わったことで、ソフトウェアの内部構造や作り方の理解が進み、開発プロセス全体の理解が深まった。

「受講後は『ものづくりの楽しさを体感した』『アルゴリズムの構造を理解できた』と、おおむねポジティブな反応がありました。また、みんな主体的に研修に取り組んでいたのが印象的でした。開発中のシステムは意図通り動かないこともあるわけですから、グループ内で活発な議論をして改善していくことは、良い経験になったと思います。プログラミングスキルの高いチーム向けに、機能を追加していく発展課題をたくさん設けていたのですが、短い時間の中で全てこなしたチームもありました」(清水氏)

自動車開発用システム構築・ツール導入のための“目利き”する力をつける

マツダは3年前からマインドストームによる社員研修をはじめている。対象となったのは、自動車開発に必要なシステム・ツールを社内に提供するエンジニアリングシステム部の新入社員から入社5年目の社員だ。2人で1チームとなり、C言語でロボットを動かして課題に取り組む。

自動車の中でコンピューター制御の重要性が急激に高まっている。前方車両との車間が縮まると自動的にブレーキをかける衝突回避、対向車がまぶしくならないように照らす範囲をコントロールするヘッドライト、隣に車がいると知らせてくれるサイドミラーなど、安全を追求した電子制御機能はどんどん増えている。1980年に2000行程度のコードだったソフトウェアは、2015年には1000万行をはるかに超えた。

いまや制御の塊となった自動車の開発部門が何をやっていて、何に困っているのかを察知し、必要なツールを用意すること、つまり“目利き”する力がエンジニアリングシステム部に求められる力だ。

マツダ ITソリューション本部 エンジニアリングシステム部 CAD/CAMグループ マネージャー 中村貴樹氏
「ソフトウェアの開発経験が少なかったり、あるいは物を動かした経験が少なかった技術者に対し、マインドストームを用いた人財育成は従来の研修に欠けていたものを提供できる」と、同社 ITソリューション本部 エンジニアリングシステム部 CAD/CAMグループ マネージャーの中村貴樹氏は話す。

「画面の中だけで動くことと、実際に手元で動く実機検証・実車検証はぜんぜん違います。実車検証で手戻りが起きたら大変ですし、もし明日から量産という段階でバグが見つかったら物凄い損害が発生します。こうした手戻りの大変さは、痛い目にあって心から理解することが重要なのですが、従来の開発研修のように画面の中だけではなかなか実感してもらうことができません。物足りないなと思っていたところ、マインドストームによる物を動かすところまで体験できる研修を見つけたんです」(中村氏)

受講生からも「最終段階で仕様の変更を行うと、大きな手戻りが生じソフトウェア開発の大変さを実感できた」、「設計段階が大事なのだと、道具を提供する部門としての視点が変わった」という声が挙がっている。実際にものを動かし、上手くいかないことを体験できることこそ重要だと中村氏は考えている。

ソフトウェアによるものづくりの“本質”を実感

製品を開発する過程において、ソフトウェアの重要性が増していることは、三菱電機 人材開発センター 情報ソフトウェア教室 主席技師長の藤岡卓氏も重ねて強調する。

三菱電機 人材開発センター 情報ソフトウェア教室 主席技師長 藤岡卓氏
「現在では、ソフトウェアの品質がシステム全体を左右するまでになりました。しかし、システムの大規模化・複雑化にともなって分業化が進み、全工程をひとりでやりきるということは非常に少なくなっています。加えて、実業務では失敗が許されず、納期のプレッシャーの中で成果を出さなければなりません。『開発の全工程』を体験してもらい、ソフトウェア品質の重要性を学んでほしいという思いから、三菱電機ではキャリア別に育成モデルを定義し、ソフトウェア技術を体系的に学べるようにしています。その中の重要な講座の1つに位置付けられるのが、マインドストームを使った講座「組込みソフトウェア開発実習」で、2006年から継続的に開講しています」(藤岡氏)

同講座は、研究職などより広い範囲の新入社員を対象に、重すぎず、開発の全工程を一気通貫で学べる体験型講座として人気だ。5日間のプログラムで、分析・設計・実装・テストという開発の全工程を体験できる内容になっている。つまずきやすいポイントをフォローする補助教材の作成や、小さな失敗をたくさんしてもらうための工夫、開発におけるV字モデルとウォーターフォールモデルの違いを理解してもらうための方法、そして自分の取り組みがサブシステムであり、実は2人ペアの課題だったという大仕掛けなど、10年間研修の蓄積が随所に反映されている。また、三菱電機は社内講師の育成にも力を入れており、2010年から自社講師だけで研修をおこなっている。

「自分でつくったものが動く達成感と、そこに至る過程での難しさ、その両面を体感してもらい、ソフトウェア開発の本質に気づいてもらうことのできる研修になったと思います」(藤岡氏)

「知識・経験がバラバラの相手にシステム開発の根幹を伝えることができる」、「実際に動く物との対話を通じて設計の重要性を会得できる」、「開発プロセスの全体を見渡すことができる」と、さまざまな可能性を持つロボットは、こうして企業研修で活躍している。

このように、NTTデータ・マツダ・三菱電機の異なる業種の研修で利用されているマインドストーム。そこには、製品・サービスを開発する全工程を理解してもらうことで、「より良い製品・サービスを提供できるような人材(財)を育成する」といった、3社の共通点が見てとれた。

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