コロナ禍を契機に、組織の競争力を高めるため、組織改革が加速していると言われています。組織改革の一つに女性活躍を推進する動きが考えられますが、実際は2021年3月に世界経済フォーラムが発表したレポート(※1)によると、男女格差を測る日本のジェンダーギャップ指数の順位2020年は156か国中121位、2021年は120位と下位25%で推移しており、先進国として女性活躍が進んでいるとは言い難い状況です。本記事では、企業が取り組む様々な組織改革に共通して求められる要素とは何か?なぜうまく進まないのか?その原因と組織改革が成功する企業と失敗する企業の決定的な違いを紹介します。
企業の組織改革に必要な要素とは?
2019年に経済産業省が発表した資料(※2)によると、組織の競争力を高める方策の1つとして、個人の成長や強みを活かした企業文化を構築することが挙げられています。あらゆる企業においても、DX、ダイバーシティ&インクルージョン、働き方改革、女性活躍と実に様々な取り組みが推進されてきました。近年では、これらを内包する形でSDGsへの関心が高まっています。2021年7月の帝国データバンクの調査(※3)によると、SDGsの意味および重要性を理解し、取り組んでいると回答した企業は14.3%でした。前年度の8%と比較すると増加傾向にありますが、まだ「言葉は知っていて意味もしくは重要性を理解できるが、取り組んでいない」(41.4%)」という企業が多いことがわかります。
経済産業省はSDGsをはじめとした組織競争力を高めるための具体的なアクションとして、「心理的安全性」を高め、挑戦を奨励し、失敗を許容する評価制度や人材登用の実践を掲げており、Googleは高いパフォーマンスを発揮するチームの重要な要素として心理的安全性を発表しました。(※4)
心理的安全性とは?
「心理的安全性」とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念であり、「不安や恐怖を感じることなく、自分の考えを伝え、行動できる状態」と定義されています。2012年から4年かけてGoogleが取り組んだ組織改革プロジェクトをきっかけに、日本のビジネスシーンにおいても注目されるようになりました。
なぜ日本は心理的安全性が醸成されにくいのか?
特に日本では心理的安全性を職場で醸成することが難しいと言われています。その理由は日本の「察する文化」とも言われています。察する文化とは、「言わなくてもわかること」や「その場の状況に応じて適切な対応や言動をとること」のような側面にあります。これができることは常識であるとして、日本では古くから自分だけでなく、周囲の人からも求められてきました。そのため日本人は幼い頃から察するスキルを鍛えられてきたのですが、ビジネスシーンにおいても自分の思考のクセや無意識の思い込みによって、言語化せずに物事を判断することが他国に比べて強く表れるようになりました。これは「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス、無意識の偏見、根拠のない思い込み)」と呼ばれています。アメリカの物理学者で作家のレナード・ムロディナウ博士も著書の中で、人間の言動の9割を占める無意識は、記憶、感情、知覚、コミュニケーション、社会活動といった広い範囲にわたって影響している(※5)と述べており、まさに日本企業で組織改革が思うように進まなくなる要因の1つと考えられています。
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組織改革が成功する企業と失敗する企業の決定的な違い
無意識の思い込みは人間が持つ脳の機能なので、どの企業でも起こりうることです。その中で、組織改革が成功する企業と失敗する企業の違いとは何でしょうか?それぞれの企業における違いを調べていくと無意識の思い込みの扱い方に2つの決定的な違いがあることが言われています。
- あらゆる側面から固定観念を打ち破る企業の柔軟性
経営者、管理職者、リーダーに登用される人の多くは、輝かしい実績や豊富な経験からご自身の考えに自信があり、強い信念を持ってリーダーシップを発揮していると傾向があります。しかし、 VUCA【Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)】時代は常に新しい戦略が求められているため、過去の実績や経験に加えて、さらに新しい経験が求められます。先が見えないからこそ過去の実績や経験に頼りたくなるものですが、あらゆる側面から固定観念を打ち破り、多様な意見を取り入れ、時にはビジネスシーンではタブーとされていたことも積極的にチャレンジした方が成功する可能性が高まると言われています。
わかりやすい例で考えてみますと、昔のオフィスと言えば、男性はスーツ、女性は制服を着用、デスクはグレーのビジネスデスクで島型固定席、1日中デスクに向かって静かに作業し毎朝女性がデスクを拭いたり、来客にお茶を入れたりする企業がありました。今でも「ビジネスシーンはこうであるべき」という考えの企業では、こうした風土が色濃く残っているのではないでしょうか。しかし近年では、男女ともに私服を着用したり、お洒落でカラフルなオフィス家具を設置したり、中にはフリーアドレス制を導入し、カフェコーナーで談笑しながら仕事をしたり、掃除、来客対応は男女関係なく全員でする企業も見られるようになりました。
時代の変化を敏感にキャッチし、従来の「〇〇であるべき」といった固定観念にとらわれることなく新しい取り組みを始めた企業は、一部の老舗企業経営者からは「とんでもない」と批判されることもあったといいます。しかし昨今のコロナ禍において、柔軟に変化していける企業は、テレワークや在宅勤務などの働き方にも迅速に対応しているため、結果的に社員の離職防止や新卒採用で成功を収めています。
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心理的安全性が高く、多様性を受け入れる土壌がある
もう1つの決定的な違いは、責められる恐怖や不安、無視、否定がない、心理的安全性が高い職場かどうかという点です。組織改革が成功する企業は社員一人ひとりを尊重し、個性を強みとしてうまく活用しています。「〇〇であるべき」といった固定観念にとらわれないように配慮した声かけをしており、部署や世代、性別などの垣根を超えて安心して発言し、お互いに違う意見から刺激を受け、イノベーションが生まれやすい環境を醸成しています。一方で失敗する企業は、新しい意見に対して「昔からそうだから」「会社のルールだから」と排他的な傾向があります。違うことを異質ととらえ、時代が変化しても同じことを繰り返す可能性もあります。時には発言しただけで、会社の行動規範に即していないと批判されることにもつながります。たとえ少数派の意見が今の時代に沿っている素晴らしいアイディアだったとしても、多数決が決定プロセスになっているケースもあるようです。
組織改革を成功させる方法
組織改革を成功させるためには無意識の思いこみの存在を理解し、職場の心理的安全性を醸成することが第一歩です。現在の職場に心理的安全性があるかどうかは、次に示す項目が当てはまるかどうかをメンバーに回答してもらうことででも判断できます。
【心理的安全性を測る7つの項目】(※6筆者訳)
1.チームの中でミスをすると、非難される。
2.チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
3.チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある。
4.チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
5.チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい。
6.チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない。
7.チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。
1・3・5に対してYesと回答するメンバーが少なく、2・4・6・7に対してYesと感じるメンバーが多いほど、心理的安全性の高いチームです。
まとめ
DX、ダイバーシティ&インクルージョン、働き方改革、女性活躍、そしてSDGsなど、組織改革には心理的安全性が重要だと言われます。ミスをすると非難され、他のメンバーに助けを求められないようなチームには心理的安全性は生まれにくいようです。まずは、職場で最も表れやすいと言われている無意識の思い込みの正体を知り、一人ひとりが無意識の思い込みをうまく扱えるようになることが大切です。
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参考リンク※1
世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)
「The Global Gender Gap Report 2021」
http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2021.pdf※2
経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言
~日本企業の経営競争力強化に向けて~https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/20190326_01.pdf※3
帝国データバンク SDGsに関する意識調査(2021年)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210706.html※4
Google re:work
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/※5
レナード・ムロディナウ(2013)『しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』(水谷淳訳)ダイアモンド社※6
Edmondson, A(1999), Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams, Administrative Science Quarterly, Vol.44, No.2, 250-383.