本記事は、2020/12/5(土)に開催された「第13回 ロボットを活用したプログラミング教育シンポジウムの講演」と、それを基に学校法人聖書学園千葉英和高等学校情報科の平田知里先生(以下、平田先生)と中川千恵子先生(以下、中川先生)にお話を伺ったレポートです。
「EV3 を使った高等学校「情報」授業実践報告 -授業の進め方と様々な課題-」
平田 知里 中川 千恵子 (千葉英和高等学校 情報科)
千葉英和高等学校普通科では、3年生の情報の授業で全10クラス430名を対象に教育版レゴ®マインドストーム®EV3(以下、EV3)を使用し、二限連続(一限あたり45分)の授業を計12回行っています。生徒が「ワクワクする」課題を設定し、生徒自ら考え試行錯誤しながら学べる授業を実践されています。
【課題内容】
1~3回目:入門(ロボットの組立、デモプログラムの実行等)
4~6回目:基礎(ジグザク、なめらか、ぎりぎり幅の道をライントレース)
7~12回目:応用(障害物レースや坂道チャレンジ等、ゲーム性のある課題
生徒が「ワクワクする」授業を追求して
今では、授業で使用するための6メートルもの急勾配のついたコース(上記写真参照)を手作りしてしまう平田先生と中川先生ですが、EV3でのプログラミング授業を始めた最初の2~3か月は簡単な課題を設定していたそうです。しかし、一部の生徒は課題が簡単すぎてつまらなくなってしまったり、飽きてしまったりといった問題があったと言います。
平田先生は、このままではいけないとの思いで、どうしたら生徒たちがワクワクするか、前向きに授業に取り組めるかと頭を悩ませ課題を考えていました。新たな課題を考えている中で、国際鉄道模型コンベンション※1の「登坂力コンテスト」※2の記事を見つけました。大人がワクワクしながら坂道を登ることに挑戦している記事を読んで、「坂道チャレンジ」というEV3が小さな坂道を登る課題を作成しました。
「坂道チャレンジ」の課題を作成してから、毎年の課題内容は発展し、タイムレースや競い合いなどゲーム性のある課題も取り入れています。生徒は難易度の高い課題に挑戦することでモチベーションを高められるため、現在は途中であきらめてしまう生徒も減り、年々課題をクリアする生徒が増えているそうです。また、平田先生自身、元々工作が好きということもあり、工夫しながら様々なコースを作成したり、生徒が課題をクリアしたらその場でコースを作り替えて課題の難易度を上げたりと、毎回の授業で生徒を楽しませています。
生徒のみなさんが主体的かつ積極的に授業を受けている様子は、授業を終えた感想からも伝わります。
・協力することの大切さを学ぶことができました。
・工夫し合いながらロボットをつくれました。
・こういう授業はとても好きだったので、どの授業よりも楽しみにしていました。
・情報の授業を通して、世界中にある機械の構造、システムがどんなもので、どんなふうに、役立っているのかを知ることができました。
テストや入試の知識だけではない、生徒の知識の「幅」を広げたい
ボリビアの山岳地帯にある「ユンガスの道」を知っていますか?通称「デス・ロード」と呼ばれており、舗装されず、泥状で滑りやすいこの道は、山から滴り落ちる滝に打たれ、落石も多く、毎年何百人も死者が出ているそうです。
平田先生はテレビで「ユンガスの道」を知り、「Narrow Road(狭い道)」という課題を閃きました。この課題に取り組む授業の冒頭では、課題の説明に加えて、ボリビアやユンガスの道にまつわる話も交えています。このように、生徒の知識の幅が広がるよう課題に関する事柄を話すことで、テストや入試に出るから必要な知識とするのではなく、色々なことに興味を持ってほしい、と平田先生は話します。
毎授業でのグループ活動やロボット組立によって得られる効果
毎回の授業は以下の流れで進められます。
- トランプくじを引いてグループ分け
- EV3の配布
- 今日の課題と関連した話題の説明
- ロボットの組立、プログラミング、試走、記録
- ロボットの分解、回収
生徒は授業の最初にトランプくじで二人グループを作り、グループで課題に挑戦します。毎回の授業でランダムにグループが決まるので、プログラミングが得意な生徒とそうでない生徒がグループになることもあります。この点に関して、中川先生は「プログラミングが不得意な生徒は得意な生徒を近くで見ることで次回に活かすことができ、得意な生徒は不得意な生徒がどこまでできるかが分かるため、次回どうサポートしたらよいか気づき、行動することができます。」とおっしゃいます。得意・不得意にこだわらないグループづくりはクラス全体の底上げにつながっているほか、毎回、別のクラスメイトと相談しながら課題に取り組むため、普段は交流のない生徒とのコミュニケーションにつながっています。
毎回の授業はロボットの組立から始め、ロボットを分解して終わります。生徒はロボット作成の仕組みを学ぶため、ロボット作成の応用ができたり、課題はクリアできなくてもロボットの組立まではできたりと、達成感が得られるという効果があるそうです。
授業を通して生徒が得られるものとは
平田先生は、誰かが作ったプログラムをコピーして課題ができたということではなく、うまくいかなくても一生懸命何回も工夫したという過程や自分で考えて作ったオリジナルを評価したいと言います。「自分で考える」、「工夫する」という学ぶ過程を大切に、授業を実践されており、ある生徒からは「一週間の中で、一番頭を使ったり工夫したりする授業は情報」と言われたそうです。
このような情報の授業を通して得られるものをお伺いしたところ、平田先生は以下のように話しました。「プログラミングスキルが身についているかはわからない、Excelの使い方やコンピュータの資格を取るという実務的な授業をした方が生徒のためになるのかもしれない。しかし、先生が話していることをただ聞いて書いて覚えるという授業だけではなく、自分で考えて工夫して相談するという教育も必要だと思います」