ロボット活用事例人材育成

プログラミングやAI技術を学ぶ、商工高校教員が民間企業で取り組む「教員短期派遣研修」

福井県教育庁では最先端の専門知識や技術を学び教科指導力の向上を目的に、教員を県内・県外の民間企業などに派遣しています。福井県立武生商工高等学校(武生工業高等学校工業化学科)の木村和裕先生(以下、木村先生)は、福井県に本社がある株式会社アフレルにて11月9日から三日間の研修を行いました。本記事では研修期間中の様子や、三日間の経験を通して得た学びや気づきについて木村先生にインタビューした内容をお届けします。

教育力向上を目指す教員短期派遣研修

福井県教育庁では、県立高等学校職業系学科における、農業や工業、商業といった専門教科学科の担当教員を対象に、「教員短期派遣研修」を実施しています。この事業は、県内・県外の民間企業や試験研究機関等に教員を派遣し、最先端の専門知識や技術、幅広い見識に立った教科指導力の向上を図るとともに、その教員を核として教員全体の資質向上と学校の活性化を図ることを目的としています。

今回は、木村先生が本研修への参加を希望され、プログラミングやAI(人工知能)に関する教材の開発・販売など次代を担うIT人材の育成を支援している株式会社アフレルにて三日間の研修が行われました。

木村先生が当社での研修を選んだ背景には、指導内容や環境の変化があります。勤務先の武生商工高等学校は2020年4月に武生工業高校と武生商業高校を統合し、福井県の丹南地区に新しい総合産業高校として開校しました。統合に伴い学科名も変わり、工業化学として指導する分野は機械や電気と統合されました。さらに、今年度から生徒一人に一台ずつタブレット端末が配備され、授業形態も変化を求められるようになったそうです。そのため、これからはプログラミングやAIなどの知識も必要になってくる場面があるのではないかと考えられたとのことです。
また、福井県内の工業高校では、ICT活用など各校の活動や授業の様子を共有し、各校の授業へ活かすことを目的に、「授業向上推進委員会」を設置しています。授業向上推進委員でもある木村先生は、工業分野や教育現場でのICT活用についても知識を深めたいと本研修への参加を決意されました。

AIを学び、授業展開案を作成。三日間の研修内容とは

三日間の研修は、ロボットプログラミングからAI入門講座や実践、そして授業展開案の発表までと、盛りだくさんの内容で行われました。

研修スケジュール

一日目:オリエンテーション、ロボットプログラミング実践
二日目:ロボットプログラミング実践、AI入門講座、AI入門実践(Scratch x AI)
三日目:AI入門実践(Scratch x AI×プログラミングロボット)、授業展開案作成、プロトタイプ開発、最終発表

初日は、「ロボットプログラミング実践」として、ものづくりのロジックやプログラミングロボットの説明を受け、実際にプログラミングしロボットを動かしました。過去に1年だけ情報科目でプログラミングを指導して以来、プログラミングに触れる機会がなかった木村先生は、自分でプログラムを組んで試行錯誤を続けながらロボットを動かす点や作成したプログラムがロボットを通して視覚的に表れる点に面白みを感じていました。
二日目は、AI(人工知能)技術を中心に、「AI入門講座」と「AI入門実践」に取り掛かりました。「AI入門講座」ではAIの歴史や身の回りにあるAI技術など、AIとはどういうものかについて講義形式で学びました。受講するまでは、AIはSFの世界のような、少しかけ離れた世界に感じていたそうですが、実は身近にあることを知り、講義後はより身近にAIはあるのだとモノの見方が変わったそうです。「AI入門実践」では、Scratchの拡張AIブロックを用いて画像認識させるプログラムを作成し、画像認識についての理解を深めました。当初、画像認識をもっと単純なものと想像していたそうですが、実際にプログラムを組んでいくとその複雑さや画像データを集める作業量に驚いたそうです。画像データを集める時は、面を変えたり、色々な位置に動かしたりと数多く撮影することで認識率が上がるため、一つのモノに対して大量の枚数を撮影しました。

最終日は、本研修の集大成として、研修での学びを活用した授業展開案を考察しプロトタイプを開発し、社員に向けて発表しました。木村先生は、生徒たちに興味を持ってもらい視覚的に理解してもらえるように、レゴブロックと画像認識、プログラミングロボットを用いて、有機化合物について学ぶ授業展開案を考えました。

20201111_173714_resize.jpg授業は三つのステップに分かれています。 まず、レゴブロックを使って有機化合物の構造式を組み立て、結合の構造をイメージしてもらいます。右の写真はアセチレン(C?H?)の構造式を表しています。両脇にある小さい歯車が水素(H)、大きな歯車が炭素(C)で、三重結合は三本の横長のブロックを用いることで結合している様子を表現しています。ここでは生徒に実際に手を動かしながら作ることで覚えやすくなるように工夫しています。
次に、Scratchで拡張機能を使い画像認識を利用したプログラムを作成し、組み立てた構造式のブロックをカメラに認識させます。正しい構造式の形になっていれば有機化合物の物質名が表示され、違うと表示されない仕組みになっています。カメラに認識させることで正しい構造式を理解しているか判断し、生徒が自主的に確認し改善する仕組みを作りました。
最後に、認識した画像が示す物質名の熱量分だけロボットを前進させます。有機化合物の燃焼熱を視覚的に理解しやすいよう、燃焼熱を距離に置き換え、熱量によって前進する距離を変えたプログラミングを作られました。

手を動かして学びを深める実体験から発想した授業展開案

この授業展開案を思いついた背景には、研修中の実体験がありました。木村先生は、研修の一日目で、レゴのロボットを組み立て、自分で手を動かしながらプログラミングを学んだ時に、生徒たちも手で触って覚えることでより学びが深まるのではないかとふと思ったそうです。さらに、二日目の画像認識を学んだときに、化学が苦手な生徒たちに画像認識を用いることで視覚的に何か伝えられるのでは、と考えられました。構造式をレゴブロックで表す手法については、レゴブロックを組み立てるときにレゴ同士がくっつく仕組みと化学の分子構造が紐づき、この方法が生まれました。実際に、アセチレンの構造式は三重結合があり、これを理解するのに苦戦する生徒が多いそうです。レゴブロックで構造式をつくりながら手で覚えることでより記憶に残ると思い、レゴブロックの大きさも有機化合物の大きさに合わせて表現しました。また、有機化合物を教える際に、構造式だけではなく燃焼熱も覚えますが数字の丸暗記になりがちなため、視覚的にも覚えてもらえたらと思いプログラミングロボットを使ってみようと考えられました。

初めてScratchの拡張AIブロックやプログラミングロボットに触れたため、処理をどうしたらいいか戸惑い、アイディアを視覚的に表すことが難しかったそうです。しかし、限られた時間の中で、どのような工夫をしたら生徒が興味を持って学び、理解を深めてもらえる授業になるかを熱心に考えた木村先生ならではの授業展開案が生まれました。当日発表を聞いた社員からは、「有機化合物の構造式の表現方法について、このような発想やブロックの使い方は化学を指導している先生でなければ考えつかない発想で感動しました」、「覚えることと論理、そして手を動かす動作が結びつくことで、生徒の理解がより深まる化学を題材にとした授業展開案に感銘を受けました」といったコメントがありました。
また、授業展開案についてインタビューしている中で、有機化合物の原子量について空気より軽いか重いかをスクラッチのキャラクターの上下の動きで表現したり、炭素は墨色など元素のイメージカラーに合わせたレゴブロックを使用したり、と沢山のアイディアを話してくださいました。日常で教えている内容を、どうやったらよりわかりやすくなるのか、化学が苦手な生徒にどうやったらもっと楽しく学んでもらえるか、常に考えている木村先生だからこその視点がいくつも垣間見えました。

民間企業での研修を通して気づいたこと

三日間の研修を終えた木村先生とお話をしている中で、働く環境の違いが挙がりました。学校ではチャイムがあり授業なら50分と時間に限りがあります。この三日間は一切チャイムが鳴らず、目の前の課題に没頭して研修内容に取り組めたのがとても新鮮だったそうです。また、プログラミングやAIに関する教材開発をする企業イメージとしてコンピュータなどの機材であふれている職場かと思っていたそうですが、実際はコミュニケーションが活発に行われるような座席のレイアウトになっていたり、植物やレゴロボットなどカラフルなものであふれていたり、想像とは違うオフィスの雰囲気を感じていました。

研修期間を通して気づいたことや想いを伺ったところ、次のようにお話くださいました。
「研修を通して学んでいる中で、学校で教えていることと現場で求められていることは少し異なるように感じました。学校ではできるだけ正しいパータンを教えていますが、今回の研修では例外処理が7割程度をしめていたように思います。実際にロボットを動かしてみたり画像処理のプログラムを作成したりするなかで、正しくない処理を行ったときにどうなるかといった学びもあるように感じました。三日間を経て、画像認識を用いてプログラミングロボットが目の前で動いた時は感動しましたし、今回の研修で普段学べない情報技術を体験し、工業化学の新しい授業アイディアも生まれました。こういった機会に参加できてとても有り難いです。」
今回の研修を通して、ご自身の授業へのご活用に加え情報科目での展開や、12月には工業高校の教員が参加する高等学校教育研究会にて本研修の取り組みついて発表されました。

木村先生を受け入れたアフレルにとって初めての試みでしたが、産学官の連携を通してプログラミング教育やAI(人工知能)技術といった先端教育をお伝えしようと企画が始まりました。来ていただくからには三日間の経験を授業で活用いただけるような内容にしようと、事前に先生に希望や経緯をヒアリングし、様々な要素を盛り込みました。限られた時間でしたが、最終発表では日頃の仕事では思いつかない先生ならではの授業展開案を発表いただき、とても刺激を受け貴重な機会となりました。

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福井県立武生工業高等学校
(福井県立武生商工高等学校)

教諭 木村 和裕 氏
教科:工業
専門:工業化学


参考リンク

・福井県立武生工業高校 <http://www.takefu-th.ed.jp/>
・福井県立武生商工高等学校 <http://www.takefu-sk.ed.jp/>

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