2020年1月14日(火)、北海道立北見工業高等学校※1(北海道北見市)において、卒業を間近に控えた3年生7名が中心となって、近隣の小学生を対象としたプログラミングワークショップが開催されました。このワークショップは、電気科の生徒が課題演習を通して得た学びの成果を、より低年齢の子どもたちを対象とした講座を開催することで、自ら実践するという貴重な機会となりました。今回、課題演習を指導された電気科主任 石田雄悟 教諭にお話を伺いました。
電気科の課題演習、成果発表は地域連携を実現
2019年12月、北見工業高校電気科3年生の7名は課題演習の授業で初めてのロボットプログラミングに挑戦していました。この授業では、近隣の小学生を対象としたプログラミングワークショップの企画運営が成果発表となっていたこともあり、生徒たちはこれまで以上に熱心に学び、企業から外部講師を迎えての事前レクチャーにも真摯に取り組みました。ワークショップは、その内容や当日の流れ、運営のポイントなど、指導教員や外部講師のアドバイスも受けながら、生徒たち自身が企画し、実現したものです。本記事では、学びの成果を地域連携活動に結実させた北見工業高校の取り組みをお伝えします。
高校生による小学生のためのプログラミングワークショップ
ワークショップは午前と午後の2回、小学4年生から6年生まで15名ずつを募集したところ、申込み受付日で満席になり、期待の高さを感じられました。各回90分で、北見工業高校の生徒7名は当日の運営とサポートを担当しました。
- タイトル:レゴロボットを思い通り動かしてみよう!プログラミングワークショップ
- 日程:2020年1月14日(火) 午前コース 10:00-11:30 / 午後コース 13:30-15:00
(北海道では気候に合わせて、夏休みが短く、冬休みが長いそうです。) - 会場:北見工業高等学校(北海道北見市)
- 対象と定員:小学4年生~6年生、各コース15名
- ゲスト講師:株式会社アフレル 鈴木優介
- 当日運営/ワークショップサポート:電気科3年生 7名
当日のプログラム
- ご挨拶
- お話:保護者の方、引率の先生方に、小中学校のプログラミングについて
- 解説:センサーやモーターの仕組み
- みんなで一緒に、プログラミング基礎を体験(前進・後退、前進して曲がるなど)
- 課題:正方形の枠に沿って走行する
- 超音波センサ、タッチセンサを使って動かす
- ライントレース
- まとめ
当日はペアを組んだ小学生2名に対して、高校生1名がサポートに付きます。今回、ゲスト講師として登壇した鈴木は、子どもを対象としたプログラミングワークショップを多数経験していますが、教える・導くスタッフが充実した体制で実施できたと話していました。
受付、誘導、始まるまでが難しい?
ワークショップ当日、参加者の小学生は保護者の方に連れられて次々と高校へやってきます。実は生徒たちがプログラミングを教えることと同じくらい緊張したのは、受付や誘導など始まる前の時間だと言います。指導されている石田先生からは生徒たちに対して、高校に来られる参加者は小学生も保護者の方も「お客様」であり、お客様に対してどのような態度で振る舞うかを考えるようにとアドバイスがありました。アドバイスを聞いた彼らが意識したのは、高校に到着してから帰るまでを含めて、参加者に楽しんでもらうことでした。
生徒が中心となったふりかえり、お客様をもてなすということ
午前に90分のワークショップを終えると、生徒たちはふりかえりを行い、うまくできたこと、午後コースに向けて改善したいことを話し合いました。ワークショップで小学生がチャレンジするプログラミングに関する内容だけでなく、受付や学校内の誘導、教室の中での動き方、子どもたちへの接し方、一緒に来られる保護者の方への声かけや表情など、細かい点まで話し合ったそうです。ふりかえりの内容を午後コースに活かして、さらに学びを深められる実践となりました。卒業後、全員が就職することになっている生徒たちにとって、普段接する機会の少ない小学生や保護者の方など、お客様をお迎えし、もてなす良い経験となりました。
指導教員に聞く、工業高校生の学びと地域連携の展望
Q. 今回の課題演習でロボットプログラミングを取り上げたきっかけ
2019年夏期の研修会で、プログラミング学習教材として、教育版レゴ® マインドストーム® EV3を目にする機会がありました。実は15年ほど前にも北見工業高校におりまして、その頃は旧版のRCX(レゴ マインドストーム RCX)を実習で使っていました。久しぶりに目にしたレゴ® マインドストーム®は性能がぐっと高まり、面白い教材だと感じました。ただ、レゴブロックらしさは薄れていますね。
本校の電気科の学習には電子や情報の内容も含まれていますが、実習は計測がほとんどになってしまいます。しかし、計測だけではなく、生徒たちが手を動かし、楽しみながら取り組んでほしいと考えまして、冬に入る前に始めました。
Q. 生徒らに学んでほしかったこと
自分たちがインプットした知識をより低年齢の小学生に対してアウトプットすることで、伝える工夫、情報発信の難しさ、心配りやおもてなしなど、日常の学校生活では実践の機会が無いことを体験してほしいと考えていました。例えば、小学生にはどんな話し方をしたら伝わるか、受付での声かけやタイミング、道案内、アンケート作成まで、ロボットプログラミングの知識を超えた、楽しめる場を創り上げることへの努力がありました。教員の助言もありますが、アンケートは保護者向けと小学生向けの二種類で、言葉遣いを変えたものを作っています。
課題演習に取り組んだ7名はいわゆるやんちゃな面はありませんが、それぞれ背景が異なります。例えば、勉強の心配はなくてもコミュニケーションに課題がある子、部活動に所属していなかった子、部活動に一所懸命取り組んでいたが、卒業後に不安を抱いている子などでした。それが、休憩時間も惜しんでロボットの改善を繰り返したり、冬休み中に学校へ来てワークショップの準備をしていたりと、熱中する姿を見せてくれました。自分からやりたいというきっかけを作ることの大切さを改めて感じました。
マインドストームは一つのツールで、ワークショップの開催は、生徒たちがロボットを使って学びを実践する良い機会でした。
Q. ワークショップを通じて感じた生徒たちの成長
ある生徒が一人の小学生に話しかけた時のことです。その生徒は、自然に膝をついて小学生と目線を合わせ、笑顔で自分の名前を名乗ってから、相手の名前を聞いていました。もう一人、別の生徒は小学生と気軽に接することに苦労していましたが、懸命に工夫している姿がよく分かりました。二人ともそれぞれに考えて行動している様子に成長を感じました。
Q. 工業高校の現在を知ってもらう
工業高校はこの20年ほどで大きく変わっていまして、今回のワークショップでは小学生の子どもたちと保護者の方に実際に学校へ来ていただくことで、今の工業高校を見て、知っていただきたいという思いもありました。小学生の子どもたちにはプログラミングを楽しんでもらうこと、保護者の方にはお子さんの様子に加えて、高校生たちがワークショップを運営している様子を見ていただくこと、生徒たちには準備と実践を通じて、お客様である小学生にどう伝えられたかを体感してもらうこと、それぞれにねらいがありました。幸い、参加された子どもたちや保護者の方のアンケートでは良い評価をいただけましたし、北海道新聞にも取り上げられまして、生徒たち自身が成長を感じられたと思います。
地域人材を育てる場として、地元に応援される学校に
石田教諭に、工業高校が地域で果たす役割についてお聞きしました。
北見工業高校でも、毎年、卒業と同時に地元を離れて大企業に入社する生徒たちが居ます。もちろんそうした道もありますが、私自身は地方に工業高校がある理由として、必要とされるところに人材を送り出せる、地域人材を育てる場としての役割があると考えています。様々な企業へアポイントを取って訪問していますが、やはり一番は我が校で学んだ生徒たちを大事にしてくださるところへ送り出したいと考えています。
参考リンク
- ※1:北海道北見工業高等学校 WEBサイト
- 北見工業高等学校 電気科実習記 「新聞記事に掲載されました」
- 北見工業高生が小学生に 伝える難しさ、作る楽しさ互いに感じて(2020/1/18掲載、伝書鳩WEB)
ワークショップ当日の様子が北海道新聞や地元フリーペーパーに掲載されたそうです。