学生の主体性と問題解決能力を育成する学習方法として注目される「PBL」。プログラミング教育においてもPBLは導入できますが、教養課程と専門課程、どちらのタイミングで取り入れるべきなのか、疑問に思う人もいるのではないでしょうか。
本記事では教養課程と専門課程でのPBL導入事例をそれぞれ取り上げて、期待される教育効果について比較してみます。
プログラミング教育を通じてPBLを導入する意義とは?
まず、プログラミング教育にPBLを導入すると、どのようなメリットをもたらすのかを解説します。
従来の教育方法の弱い点
いわゆる「知識つめこみ型学習」と呼ばれる従来の学習方法は、生徒に豊富な知識を与えることはできても、知識を応用して問題解決を図る能力を伸ばせないという問題点がありました。つまり、これからの時代にますます求められる、課題解決力や創造力といったスキルを十分に磨けないのです。
また「知識つめこみ型学習」は、生徒の学習進度が個人ベースで進行するため、学習を通じて他者との協働力を十分に身につけられないという弱点もありました。
PBLにより実践力と主体性を育成
こうした問題は、「問題解決型学習」または「課題解決型学習」と呼ばれるPBL(Problem Based LearningまたはProject Based Learning)を導入することで、解決できるのではないかと期待されています。
PBLは、生徒による自発的な問題設定と、解決方法の発見を促すことを特徴とする教育方法です。生徒は現実の問題を取り上げて、授業で学んだ知識を活用し、個人またはグループ単位でディスカッションを行い、意見を深化させつつ具体的な解決策を提案することを目指します。
こうした取り組みを通じて、生徒が主体的に課題を設定、発見し、解決に向けて適切な手段を考える能力を育てることが可能です。さらに、ディスカッションを通じて他者に意見を伝えるプレゼンテーション能力を養うこともできます。
PBLをプログラミング教育に取り入れるメリットは?
PBLを取り入れたプログラミング教育では、生徒それぞれが個人の胸の内にしまっていたアイデアを、具体的な作品として発表する機会が与えられます。これにより創造力を育てることが可能です。また、グループワークを通じてプログラミングを学ばせることで、コミュニケーション力を伸ばせます。さらに、共通の課題を解決するためにチームメイトと意見を出し合い、協力することの重要さを学ぶ機会にもなるでしょう。これらの点からプログラミング教育は、PBLの教育効果を高めると考えられているのです。
教養課程でのPBL導入事例:湘北短期大学
次に、教養課程と専門課程で、プログラミング教育にPBLを実際に導入した事例を見てみましょう。まずは、湘北短期大学における教養課程でのPBL導入事例です。
「DITO演習」でのPBL実践
湘北短期大学では、教養課程の学生用のカリキュラムに「DITO演習」を取り入れています。DITOとは「Do IT Ourselves」の略語で、情報系学生と非情報系学生とが協力して「自分たちでコンテンツをつくりあげる」という演習のことです。
演習では、プログラミングによる画像処理システムの開発や、インターフェースを制作して、「子どもが楽しく先端情報技術を体験できるコンテンツ」を教養課程の学生が協同でつくります。
DITO演習は、情報系の学生だけではなく、非情報系の学生もグループに交えて、ディスカッションや作業を行う点が特徴です。教養課程であれば専門分野をこえたPBLも行いやすいというメリットがあります。
専門分野の枠をこえた協同作業が可能に
DITO演習では、目標を具体化したうえでプロジェクトを進めていく力を育成できます。どのような仕組みをつくれば子どもたちが喜ぶかを考え、試行錯誤しつつコンテンツを制作することで、社会で必要とされる課題解決力を養成できるでしょう。また、自分の専門分野の知識をグループメンバーと共有し連携していくチームワークも身につきます。
社会に出たら、自分の知識を他人にわかりやすく説明するスキルが求められます。しかし専門課程進学後にこうした力を訓練しようとしても、専門知識の習得に多くの時間を費やされ、機会をつくることが困難です。一方で、教養課程の間ならば十分な時間を充てられるでしょう。
専門教育課程での導入事例:芝浦工業大学工学部
続いて紹介するのは、芝浦工業大学が専門課程の学生を対象に行ったPBLです。
ロボット・プログラミングによるPBL
同大学の工学部情報工学科は、専門課程に在籍する学生を対象に、ロボットのプログラミングをテーマにPBL授業を実施した実績があります。「ロボット」がテーマとして設定されたのは、学生にソフトウェア開発以外にもハードウェアの管理手法を総合的に学ばせられるからです。
学生は10人単位のグループに分けられ、授業で学んだC言語、UNIXの知識をもとにプログラミングを行いました。この授業の特徴は、レースや演技などでロボットのパフォーマンスを競い合うコンテスト形式を導入した点です。学生はコンテストでよい評価点を取れるロボットを製作するために、グループメンバーと協力して作業を進めました。
ロボットプログラミングにおけるPBLは、学生たちが授業で培った知識を駆使し、実践の場で活用できる絶好の機会です。学生は、ソフトウェア開発のコツを学ぶとともに、ハードウェア管理の重要性についても深く理解したことでしょう。また通常、プログラミングは個人で作業をしますが、ロボット・プログラミングにおけるPBLではグループで作業するので、チームメイトと円滑な関係を築くためのコミュニケーション力も育成できます。
まとめ
PBLは教養課程、専門課程のどちらのタイミングで取り入れても、それぞれメリットがあります。教養課程でPBLを導入すれば、専門の枠組みにとらわれず、さまざまなバックグラウンドをもつ人々と協同で課題解決に取り組む力を養えます。一方で専門課程では、専門知識を有したメンバー間での協調性を会得させられるほか、現場での実習を通して学んだ知識を、より深いレベルで理解できるでしょう。そのため、「どちらが導入のタイミングとしてより適しているか」は一概にはいえませんが、それぞれのメリットをいかす方法でPBLを効果的に取り入れるとよいでしょう。
参考:
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