経済産業省によれば2030年には59万人程度のITエンジニア人材が不足すると推計され、技術者の人材不足が問題となっています。このため2012年からは中学校でプログラミング授業が必修化され、2020年からは小学校でも必修とするなどの取り組みが教育機関で進められています。また、教育機関だけでなく民間企業においても効果的な教育が求められています。そこでエンジニアへの社内教育としてのOJTのメリット・デメリットやPBLも活用した社内研修について紹介します。
エンジニア不足に対応した社内研修は知識を実践に生かす教育が必要
少子化により企業にとって優秀なエンジニアを採用することは困難な状況となっており、採用した人材を社内で使える有能なエンジニアとして育成することがますます重要になってきています。
エンジニアを採用できても学生が大学で学んだことを会社で実務に生かせるには、理論・知識だけではなくチームワークによる仕事の進め方、リーダーシップ、プロジェクトマネジメント、交渉力、およびビジネスの基本などを学ぶ必要があります。さらに、業務の課題を解決する能力を培うことも必要です。エンジニア不足に対応するための社内研修ではこうした面を効果的に行える教育方法を考えなければなりません。社内研修方法の1つOJTのメリット、デメリットについて紹介します。
OJTのメリット・デメリット
OJTとはOn The Job Trainingの略で、日常の業務を行いながら社員を教育することです。これに対して、新卒や中途も含めて新入社員が仕事を離れて行う教育や研修をOFF-JT(Off the Job Training)と呼びます。どちらもエンジニアだけでなくさまざまな職種の研修に利用されますが、OJTについてそのメリットとデメリットを説明します。
OJTのメリット
- 実際の現場の仕事で生じている問題に対応することで、机上での知識だけでは解決ができない問題に対する解決能力が身につきます。
- 実務に対する指示や指導を上司から受け、上司に進捗状況や結果を報告し、同僚ともコミュニケーションをとりながら業務を進める必要があり、コミュニケーションスキルが身につきます。
- 実務では目的や目標が設定され、また作業の結果と実績が目に見えることから、机上での講習よりもモチベーションが高くなるために大きな教育効果が得られます。
- OJTでは一般的な理論だけでなく、その会社に蓄積されている上司や先輩の知識や経験(暗黙知:言葉で説明されていない、または説明しにくいこと)を伝えられます。
OJTのデメリット
- 目の前の業務の遂行が優先されがちなため、あらかじめしっかりした仕組みができていないと体系的な教育ができません。
- 指導する上司の教育の仕方で効果が左右されるため、上司の指導力の差による教育のバラツキが生じます。
- 指導する上司の負担が増え、日常業務に支障が出てしまう可能性があります。
より効果的なエンジニア教育のためには、OJT+PBLで
特に日々速いスピードで進歩する情報処理技術にかかわる職種では、OJTだけでなく、主に教育現場で取り入れられているPBLも取り入れると効果的です。PBLとはProject Based Learning(問題解決型授業)の略で、出された課題に対して学生が自主的に学習して、主に学生同士で質疑応答を重ねて課題を解決していく授業のことです。実務では今までの知識で簡単に解決できない課題や答えが1つではない課題がたくさん発生します。PBLを用いた研修を行うことで実務での課題に対する問題解決能力を高められます。
PBL研修の例としては、組み込みソフトウェア製作会社の「EVカート」製作研修があります。これは、電動レーシングカートのシステムの開発プロジェクトを、3カ月で新入社員が主体となってチームを組んで遂行する研修です。先輩社員が指導するOJT型ではなく、基本的に新入社員だけのチームで、わからないときだけチューター(講師)に相談する方法で実施されました。
結果としてミスや問題を乗り越えながら最終的に試走会でカートを走行できて、参加者は実務には欠かせない期日までに仕上げるというプロジェクトマネジメントのスキルや問題解決能力、コミュニケーションスキルを伸ばせます。一方PBLの一般的な弱点としては、チューターに負荷がかかること、チューターの質によって教育効果にバラツキがでること、自主性に任せるので均質な教育効果が期待できないことなどが考えられます。
OJTとPBLによる実地訓練でエンジニアを育成
少子化に伴い、日本におけるIT技術者不足が問題となっています。このため小中学校からのプログラミング必修化だけでなく企業でのエンジニア教育も必要ですが、企業では教育に長い時間はかけられません。そこで実際の業務をこなしながら教育と訓練を行うOJTが、効率よい研修として取り入れられています。また、特にエンジニア育成の場合は、OJTだけでなくPBLを組み合わせることで、より効果的な社内教育が実現できるでしょう。