2020年から小学校でのプログラミング教育が必修化されることもあり、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)に重点をおく「STEM教育」が注目を集めています。STEM教育においては、分析能力や問題解決の能力向上が非常に重要ですが、こうした能力を楽しみながら習得するツールとして、レゴ社のマインドストームを利用する小中高校がますます増えてきています。特に海外の大学では、研究やクラブ活動での利用だけではなく、マインドストームを授業で使用するところが多くなっているのです。そこで、マインドストームを授業で活用するメリットや効果、日本の中学・高校、および日本と世界の大学での導入事例を紹介します。
マインドストームを授業で活用するメリット
マインドストームを授業で活用するメリットとして、次の4点が挙げられます。
- 高度なプログラミングの知識がなくてもロボットを動かせるので、授業時数が少なくても効果を得やすい。
- 自分でモノを動かすという遊びの要素が入るため、学生や生徒の興味を効果的に喚起でき、学習に対するモチベーションを高められる。
- 教員にとっては、プログラミング言語を最初に教えることにわずらわされることなく、科学や工学の内容に集中して教えられる。
- マインドストームのキットは長く継続して使用できるため中・長期的に見ると費用対効果が高くなる。
日本の中学・高校の授業での活用例
日本の中学校におけるマインドストームの導入事例を見てみましょう。
神奈川県相模原市立小山中学校では8年前から、学校の予算と保護者の援助で購入した20台のマインドストームを授業の教材として使っています。導入以降、生徒の授業への興味が目に見えて上がりました。マインドストームを使える技術科の授業数が足りないという課題はあるものの、生徒に主体的に考えさせる課題を与え、アクティブ・ラーニングと考える力の育成で効果を上げています。
芝浦工業大学中学高等学校では、2017年度から中学の技術科と高校の情報科でマインドストームの利用を開始し、ものづくりに必要不可欠なプログラミング教育に力を入れています。中学1年生の技術の授業では、なぜプログラミングが必要なのかを知ることからはじまって、ワードやエクセルなどの基本操作を学びます。中学2~3年生になるとCADも使った設計や製図の基本を学習し、Ruby言語によるプログラミングを学びます。高校ではC言語によるプログラミングを学習し、プログラミングを使ったものづくりの楽しさだけでなく、プログラミングがどう社会とつながっているか、なぜ必要なのかを重視した教育を実施しています。
世界の大学の授業での利用例
次に、海外の大学でのマインドストーム導入事例を見てみましょう。
米国マサチューセッツ州のタフツ大学工学部では、専門課程に上がる前の1年間で、マインドストームを使ってコンピューターエンジニアリングやプログラミングを学びます。2~4人の少人数のグループで、ロボットを動かす技術だけでなくグループ内での交渉力、プレゼンテーション力、成果物の分析と再構築スキルの向上を目指し効果をあげています。
同じく米国ネバダ州ネバダ大学リノ校の工学部では、1999年から機械工学科で、2001年から化学工学科と材料工学科で、2007年からコンピューターサイエンス科と工学科で、2008年からは全学部の新入生のクラスでマインドストームの使用がはじまりました。1999年には45名だった学生数も2013年には500名に増え、2008年の調査では、75%の学生がプログラミングの基本を習得したという結果がでています。
さらに、米国インディアナ州ノートルダム大学の工学部では、1995年からレゴを初年度の授業に使ったパイロットプログラムを実施していました。その後、1998年の大幅なカリキュラムの見直しで、教師による講義中心の授業から生徒によるアクティビティ中心の授業への移行が計画されたのです。そこで1999年度に、試験的にNQC言語によるマインドストームRCXを使ったコースをはじめたところ、バーコードリーダーや酸の中和装置設計、ナノエレクトロニクスへの応用などが大きな反響を呼び、生徒数の増加につながりました。2010年度には、テキストベースのプログラム言語であるNQCから、ビジュアルプログラミング言語であるLabVIEWを使ったマインドストームNXTに切り替え、このプログラムには500名の1年生が参加しています。
そのほか、イギリスのケンブリッジ大学工学部では、新入生に1週間のマインドストームNXTの講義と実習を行います。3人のチームでプロジェクト製作と発表をさせ、学生はその経験をいかして、自動制御などの専門分野に無理なく進めているようです。またドイツのアーヘン工科大学の電子工学科でも、100台のマインドストームを導入し、エンジニアリングの基本概念を実用的に学び、エンジニア体験をさせることで、学生の学習意欲向上につなげています。
実際に授業に活用して得られた効果
授業でマインドストームを活用することで、どのような効果が得られるでしょうか。
金沢大学のロボティクス学科では、1年生を対象にマインドストームによるロボット製作体験授業を2012年度から実施しています。2015年に受講した学生に行ったアンケート調査では、98%がよかった、66%が体験してよかった、63%が役に立った、33%がロボット工学に対してとても興味がわいたと回答し、結果は良好でした。
このような学生側の評価だけでなく教育という面からは、導入したいろいろな学校の事例で以下の効果が報告されています。
- 生徒や学生の想像力と創造性を引き出し、伸ばせる。
- プログラミングや工学のスキルだけでなく、グループ活動やコミュニケーション力、プレゼンテーション力の向上が期待できる。
- 国の発展に欠かせない、理工系人材の育成に貢献できる。
- ロボティクスの概念がすばやく習得でき、並列処理通信プロトコルや制御理論といった複雑な概念へも、スムーズに移行できる。
まとめ
楽しみながらプログラミングを学ぶツールとして注目されているレゴ社のマインドストーム。日本の中学・高校や世界の大学での導入事例や、導入による効果を紹介しました。日本では2020年から、小学校および高校でのプログラミング教育が必修化されることもあり、授業で利用するためのこうしたツールの導入は、今後ますます増えていくと思われます。
参考:
- 初年次教育における LEGO Mindstormsを用いたロボット製作体験の試み(PDF)
- 教育現場への教育版レゴ?マインドストーム導入でどんな効果があったのか – 相模原市立小山中学校