文部科学省は2020年度以降に実施される小中学校での教育方針をまとめた次期学習指導要領改定案を2017年2月に発表しました。改定案には小学校におけるプログラミング教育の必修化が盛り込まれており、子どもたちの「プログラミング的思考」を育成することが目標として掲げられています。
このプログラミング的思考とはどのようなもので、なぜ必要とされているのでしょうか? 本記事では、主に小学校でのケースを取り上げつつ、「第4次産業革命」というキーワードと関連させながら紹介していきます。
次期学習指導要領に記載されたプログラミング的思考とは?
プログラミング的思考の具体的な内容は、2016年6月に文部科学省が公表した「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」において次のように定義されています。
「プログラミング的思考とは、自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組み合わせをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」
これをわかりやすく言い換えると、プログラミング的思考とは、「子どもが自分の目的や興味関心に応じ、順序立てて物事の適切な組み合わせを考え、改善していく能力」となるでしょう。
ここで、文部科学省がプログラミング的思考を、特定のプログラミング言語をコーディングする能力として位置付けてはいないという点に注意すべきです。プログラミング的思考とはプログラマーにのみ必要なスキルではなく、将来子どもがどのような職業に就いたとしても役立つと考えられる「普遍性のある能力、自身の目的・関心に応じた活動を実現するため、順序立てて適切な組み合わせを考え、改善していく力」を意味しています。
第4次産業革命が進む社会で活躍するための思考力
文部科学省がプログラミング的思考の育成を教育機関に求める背景には、現在進行中の第4次産業革命の存在があります。第4次産業革命とは、IoTやAI、ビッグデータ解析などをコア技術とする技術革新のことです。これらの技術を活用したシステムを工場や企業に導入することによって、業務効率性や生産性が飛躍的に向上するとされており先進国で取り組みが進められています。
また、第4次産業革命の進行過程ではIoTによって周囲のモノが互いにネットワークで結び付けられると同時に、ICTデバイスも一層普及することが予想されるため、一般の人々の日常生活にも大きな影響が及びます。こうした社会においては、身の回りにあふれている情報やICTに対して受け身の姿勢でいるのではなく、自身の目的のために適切に活用しようとする発想力や論理的思考力、すなわち、プログラミング的思考を備えた人材が求められます。そのため文部科学省はプログラミング的思考を小学生の時期から養うことで、第4次産業革命が進む社会で活躍できる子どもたちを育成しようとしているのです。
「理科」や「音楽」など、既存の教科内でプログラミング的思考を育成!
文部科学省は先述の「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」のなかで、プログラミング的思考を小学生に教育するためのカリキュラム案を公表しています。
まず、小学校ではプログラミング教育が独立して教科化されるわけではありません。「理科」や「算数」、「音楽」など他教科のなかに埋め込むかたちで実施されます。例えば理科では、電気の性質や働きに関する学習を授業で行う際にプログラミング教育を行うという授業例が提案されています。
身近な電気製品を取り上げて、その内部に電気エネルギーを効率的に利用するためのプログラムが組み込まれていることを実際にプログラミングを学ばせつつ生徒に把握させるという具合です。
また、音楽の授業では、生徒に専用のICTツールを使わせることで、音の長さや音の高さを組み合わせてまとまりを持った音楽を制作させる、というアイデアが紹介されています。ばらばらの音をひとつの音楽へと構成するという経験を通じて、プログラミング的思考を自然に習得させることを狙っています。
文部科学省は、こうした取り組みを通じて将来社会で求められるプログラミング的思考を効果的に養えると考えています。
社会全体で高まるICT人材へのニーズ
第4次産業革命を迎える将来の社会では、身の回りのテクノロジーの仕組みをよく理解して扱う能力に優れたICT人材の重要性が増していきます。こうした時代に求められる思考力こそが、プログラミング的思考です。これは、決してプログラマーだけに求められる能力ではなく、社会の一人一人が備えていることが望ましいスキルといえるでしょう。
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