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【岩手県庁】IT人材育成や産学官連携で実現を目指す、いわてIT産業成長戦略とは

経済産業省が実施した調査「IT 人材需給に関する調査」※1によると、ITニーズの拡大により今後もIT関連市場規模は拡大し、2030年にはIT人材が最大で約79万人不足すると言われています。また、IT分野の技術発展や需要の変化により、IT人材に求められるスキルや能力も変化し続けています。このような状況下、全国でリカレント教育やリスキリングをはじめとしたIT人材の育成や確保に向けた動きが加速しています。

岩手県では、県内の産学官が一体となりIT産業振興の取り組みを進めていくための「いわてIT産業成長戦略」を策定しました。2021年3月に策定され、多様なIT企業が集積し、高度なIT人材が活躍し、県内産業の高度化・高付加価値化の推進を目指しています。今回は、「いわてIT産業成長戦略」の具体的な取り組み、特にIT人材育成に向けた活動について、岩手県商工労働観光部ものづくり自動車産業振興室ものづくり産業振興担当の小野和紀課長と福原拓充主事にお話を伺いました。

特色あふれる4つのエリアからなる岩手県

日本で二番目に広い面積を誇る岩手県は、豊かな自然と地域によって異なる気候が特徴です。県北・県央・沿岸・県南の4つのエリアに分類され、エリアの特徴や強みを活かした産業特性もあります。例えば、国立大学法人岩手大学や公立大学法人岩手県立大学などの高等教育機関がある県央エリアは医療やIT産業が多いです。また、沿岸エリアは三陸の豊かな海の恵みを活用した水産加工業など食を支える産業が根付き、県南エリアには自動車や半導体を中心としたものづくり産業が集積されています。岩手県全体の産業構造をみてみると、自動車関連産業と半導体関連産業が岩手県の出荷額の約40%を占め、近年は医療機器等関連産業も増加しています。そして、これらの産業振興の高度化・高付加価値化を推進していくために、県内におけるIT産業の重要性も高まっています。

岩手県庁では、自動車と半導体関連産業を中心に、県内各地域のものづくり企業の振興を推進する、商工労働観光部ものづくり自動車産業振興室があります。ものづくり自動車産業振興室は、主要産業の振興や企業立地の促進、産業集積の推進を目指し、四つの担当に細分化されています。小野氏と福原氏が所属する「ものづくり産業振興担当」は、主に機械器具などの加工、組立やIT産業といったものづくり産業の振興、産業集積の促進を目指し、各セクションのビジョン策定や取引拡大に向けた施策、人材育成など幅広く取り組まれています。さらに、産学官連携活動として、集積促進協議会などの民間企業と教育機関を結びつけるネットワークづくりにも邁進しています。

岩手県戦略産業.png※岩手県企業立地ガイド※2より抜粋

ITで岩手の未来を支える「いわてIT産業成長戦略」とは

岩手県では、IT産業の振興を目指して様々なビジョンや戦略が策定され、現在では、県央エリアを中心に多くのIT企業が集積され、県央エリアの主要産業に発展しています。さかのぼること2006年、IT産業はあらゆる産業の高度化を支える産業として「いわてIT産業振興ビジョン」が策定されました。組み込みシステムやIT産業を中心とした企業誘致や人材育成事業を実施しました。そして、急速な技術革新やあらゆる分野でのデジタル化の加速など、IT産業を取り巻く環境の変化を踏まえ、2021年に「いわてIT産業成長戦略」を策定しました。この戦略は、あらゆる産業に関わっているIT産業への活動を通して、高付加価値や生産性向上へとつなげることを目指しています。具体的には、産学官の連携強化による取引拡大や新製品開発の推進、県内へIT企業が集積するための取り組みを策定しています。また、様々な技術を支え活躍するIT人材の地域定着を目指すなど、高度IT人材の育成・確保・定着に向けた取り組みも掲げています。教育機関からみたIT産業に特化した取り組みの背景の一つに、県内大学生の就職状況があります。令和三年度末の県内大学における理工系・情報系学部卒業生の県内就職率が概ね20%から30%と県外に就職する学生が多く、学生の県内就職に向けてIT企業の誘致も求められています。

県内産業との連携やIT人材の育成を促進

「いわてIT産業成長戦略」の取り組みとして、県内産業とIT企業の取引マッチングの機会創出に関する取り組み強化があります。これまではソフトウェア産業は首都圏中心にあり、県内でどのように受注するかが課題とされていました。しかし、DXやSociety5.0といった急速な技術革新により、IT産業は自動車や半導体などの主力事業内や生活圏内にも欠かせない存在へなっています。そこで、いわて産業振興センターと共同で県内企業を訪問し、ITやデジタル化に関するニーズを聞き出し、他産業とIT産業の連携を促進しています。実際に企業を訪れた福原氏は、多くの企業から直接意見を聞いている中で、IT企業との取引機会創出に向けた取り組みへのニーズが高いことを実感したそうです。
また、戦略の一つに「高度IT人材の育成・確保・定着に向けた取組の強化」があり、IT人材育成に注力するなど活動は多岐にわたります。IT企業の受注元を県外から県内へ移行することを目指し、システム構築をするうえで重要となるプロジェクトマネージャーの育成など、デジタル化推進に欠かせないIT人材の育成に焦点をあてた事業も実施しています。さらに、U・Iターンの促進にも取り組まれています。卒業生向けに県内企業のガイダンスやインターンシップの実施を通して、県内企業を知ってもらい就職を促進しています。

産学官連携で実現した二つの取り組み

今日に至るまでの岩手県のIT産業への多様な取り組みを伺うなかで、起点に約20年前の組込みソフトウェア産業を中心とした取り組みがありました。
情報処理推進機構(IPA)が2005年に実施した調査「組込みソフトウェア産業実態調査報告」よると、不足する組込みソフトウェア技術者は約7万人といわれていました。このような組込み業界の人材不足を背景に、岩手県は2005年に組込み業界の人材育成に関する取り組みをはじめて実施しました。翌年には、県内企業と首都圏企業のマッチングや産学官のネットワークづくりも始まり、各分野から個人として人が集まり勉強会や交流会が開催されていたそうです。そして、2009年に産学官連携によるプロジェクト推進組織として「いわて組込みシステムコンソーシアム」が設立されるなど、全国に先駆けた取り組みを実施してきました。

当時「いわて組込みシステムコンソーシアム」に携わっていた小野氏に、いわて組込みシステムコンソーシアムの大きな二つの取り組みをお話いただきました。

一つ目は、組込みソフトウェア技術教育を目的としたロボットコンテスト「ETロボコン」の運営です。ETロボコンは全国を九地区に分け、地区ごとに地区大会が開催されます。岩手県が含まれる東北地区大会は、2008年に岩手県立大学にて初開催されました。次年度の活動が未定の中、コンソーシアム内でETロボコンの活動が話題にあがり、来年も実施しようと話が進み、コンソーシアムによる運営が始まったそうです。それから15年経った現在も、産学官で連携しながら岩手県でETロボコン東北地区大会が実施されています。産学官の”官”は、小野氏や福原氏が所属するものづくり産業振興担当を中心に岩手県庁の職員などが参画しています。昨年のETロボコン運営に携わった福原氏は、「この活動を通して産学との活動接点が増え、前述のIT人材の育成や確保、定着に向けた活動にもつながっています」と話します。
二つ目は、産学官連携による「いわてものづくり・ソフトウェア融合テクノロジーセンター(通称i-Mos)」の提案です。この施設は、ものづくりとソフトウェアの融合による新たなイノベーションの創出を図り、高度開発型ものづくり産業の集積を目指し設置されました。実現に向けて、いわて組込みシステムコンソーシアムは産業界を代表して、”学”の岩手県立大学、”官”の岩手県庁と産学官連携をしながら提案や申請を行いました。現在、i-Mosが設置されている岩手県立大学の周辺にはIT企業など約30社が立地し、産学共同研究や学生と企業の交流事業などが取り組まれています。

これまでの長い歴史の中で、産学官が一体となってプロジェクトを推し進めてきたように、これからも産学官連携のもと、IT産業自体やITによる岩手県内産業の高度化・高付加価値を図る取り組みは続きます。


※1平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 IT 人材需給に関する調査 調査報告書
※2岩手県企業立地ガイド

参考リンク

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