2030年までの具体的な国際目標として「SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))」が掲げられています。近年、積極的にSDGsに取り組む企業や自治体が増加し、よりSDGsが私たちの生活に身近になっています。
今回は、岡山県を中心に活動する「コノヒトカンプロジェクト」を紹介します。このプロジェクトは、新型コロナウイルスの影響で困っている飲食業界を助けたいという想いから始まったマルシェをきっかけに、食材廃棄の現状や子どもの貧困問題を知り、双方の問題を解決しようと始動しました。
コノヒトカンプロジェクトがフードロス問題や貧困問題に加えて、食の大切さや人との繋がりの重要性を知るきっかけになってほしいという想いから、教育現場でも活動するプロジェクト代表で一般社団法人コノヒトカンの代表理事、三好千尋さんにお話を伺いました。
フードロス問題・貧困問題に挑む「コノヒトカンプロジェクト」
2020年になり、新型コロナウイルスが国内で流行しはじめたころ、三好さんは周りにいる人々が漠然とした不安を抱えていると感じていました。次第に、地域全体で活気を取り戻すために、業種の隔たりなく、他業種の交流を増やす機会を設けたいと思いはじめ、自身が経営するネイルサロンの駐車場で飲食店がお弁当を販売するマルシェを開催しました。その時、マルシェで廃棄されてしまうお弁当や食材を目の当たりにし、フードロスを減らせないかと考えたのがきかっけで、コノヒトカンプロジェクトが始まりました。
プロジェクトを始めるにあたって飲食店の意見を聞いている中で、飲食店だけではなく生産者や食品加工業者、流通業者、ホテル業界と「食」に関わる多くの方々が困っていることを知りました。他業種の話を聞くうちに、三好さんは「岡山県全体を元気にしたい!」という思いが強くなっていったそうです。そこで、プロジェクト初期から、コノヒトカンを作る全工程を県内で行うと決意し、活動し始めました。結果、岡山県内の料理長20名の協力のもとコノヒトカンのレシピを考案したり、片道二時間半かけて缶詰製造工場を探したり、と県内を駆け巡り、大勢の協力のもと2021年にコノヒトカンが完成しました。
コノヒトカンは市場に出せない規格外の食材等、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食材を活用して作られています。「ニクカン」と「サカナカン」の二種類があり、ニクカンは41g、サカナカンは95gのフードロス食材を使用しています。缶詰なので長期保存でき、食べ方もごはん二合に一缶を混ぜるだけという手軽さです。作られた缶詰は、県内の子ども食堂や児童養護施設に年二回配布し、フードロス問題や貧困問題だけではなく、子どもたちにコノヒトカンを食べることで食の大切を体感してもらいます。
昨年は子ども食堂や児童養護施設に600缶を届け、二年目の今年は2,000缶の配布を目標に活動しています。「コノヒトカン」は当プロジェクトに賛同している企業支援によって成り立っています。今年は既に多くの企業から支援が集まり、目標の2,000缶を作れる目途が立ちました。そこで、今年はコノヒトカンを届けるうえで、「どのように」をこだわりたいと三好さんは話します。
これまでコノヒトカンは県内の子ども食堂や児童養護施設に無償配布され、各施設内で調理し子どもたちに提供していました。今年は、配布先にコノヒトカンを使ったお弁当作りを依頼しました。みんなで食卓に座り、缶詰がどのような過程や想い・周りの協力を通じて完成したのかを話しながらお弁当を食べることで、背景を知ってもらう機会を設けました。
コノヒトカンを題材にした授業づくりや食育活動
コノヒトカンの製造・配布に加えて、三好さんは県内の学校を訪れ、教育現場での啓発活動にも取り組んでいます。その一つに、学校法人関西学園 岡山高等学校での取り組みがあります。
2021年、岡山高等学校の二年生が取り組む「探究活動」で一年間一緒に活動しました。当時は缶詰の完成前から活動が始まったため、生徒たちと一緒に缶詰の企画をしたり、生徒たちがコノヒトカンに関する情報を発信したりと一年かけてコノヒトカンについて探究しました。活動を通してワクワクする生徒の様子を隣で見守ってきた三好さんは、生徒たちの活動意欲にとても刺激を受けたそうです。今年も岡山高等学校の二年生と探究活動で一緒に活動することが決まっており、今年は生徒たちにコノヒトカンを用いてやってみたいアイディアを募りながら様々な活動をしています。その一つとして小学校の道徳や総合学習の時間に用いられる教材づくりがあります。教材内容はコノヒトカンから始まる物語を題材に企画しています。その他、岡山県内の小学校や高校、大阪府の中学校で、コノヒトカンプロジェクトについて講義し、一緒にフードロス問題や貧困問題について考える授業を予定しています。
過去には、大阪府の小学生向けにリモート授業も行いました。授業では、コノヒトカンが完成するまでの背景や想いなどの物語を伝え、生徒たちにコノヒトカンを食べてもらいました。実際に起きているフードロス問題や貧困問題について生徒たちが自主的に調べたり、いつもは白米があまり進まない子どもたちがご飯を完食したりしました。最後は、子どもたちが学び、体感したことを一分半の動画で表現し、その動画を発表しあいました。
教育現場での授業だけではなく、コノヒトカンプロジェクトは食育活動にも力を入れています。これまでに、缶詰ができるまでの一工程を体験する機会として農業体験を企画したそうです。コノヒトカンに使用している蓮根や牛蒡を作っている農家の方々にご協力いただき、子どもたちが自ら農作物の収穫に挑戦します。参加した親子たちのほか、子どもたちのサポート役として岡山高等学校の生徒たちも参加し、世代を超えた交流の場にもなっています。
子どもたちが「学び、考え、行動する」きっかけ作りに貢献
学校をはじめ子ども向けの活動に力を入れている理由を三好さんに伺ったところ、フードロス問題と子どもたちの心の貧困問題に向き合っていく中で、直接的支援の難しさに直面したことがきっかけと話します。プロジェクトが進む中、子ども食堂や児童養護施設を通して子どもたちの手元に缶詰を届けられても、根本的な問題解決まで道のりは遠いと感じたそうです。そこで未来をつくる小中高生が、フードロス問題や貧困問題を学び考え行動するきっかけ作りが必要だと考え、教育現場での活動が始まりました。現在は、コノヒトカンを作り、届けると同時に、缶詰ができた背景や食の大切さなどを直接生徒たちに伝えています。
一般社団法人化を通して伝えたい物語
今年6月10日にコノヒトカンプロジェクトは一般社団法人化し、缶詰バーmr.kansoを全国・アジアに展開しているクリーン・ブラザーズ株式会社と提携することを発表しました。生産量の増加に向けた製造のバックアップや、コノヒトカンを購入したいという一般ユーザー向けの商品化を視野に入れています。今後は、コノヒトカンプロジェクトを、そして、コノヒトカンから始まる物語を岡山から全国へ届けていきます。
また一般社団法人化した理由に、子どもたちに「行動すれば理想や想いは形になる」ということを伝えたかったと三好さんは話します。ここに至るまで、三好さんの強い想いとアイディアから始まり、コノヒトカンの企画・製造をはじめ地域の方々との連携、学校での授業や食育活動、そして一般社団法人化、と着実に進んできました。
三好さんはプロジェクト開始時から「缶詰から始まる物語」を届けたいと語っていたそうです。缶詰ができあがるまでに、貧困問題やフードロス問題に向き合い、そしてその課題に一緒に真摯に向き合ってくれるパートナーの方々と出会い活動していく中で、これを一つの物語として伝えたいと、より強く感じるようになったそうです。そして三年目を迎えた今、未来をつくる生徒たちと教材制作を通してその夢を実現しようとしています。
人と人のつながりと恩返しが全ての原動力に
フードロス問題や貧困問題という言葉を生活の中で耳にすることはありますが、解決に向けて行動し、活動を続けていくことは決して簡単ではありません。コノヒトカンプロジェクトを立案してから二年が経ち、三好さんは缶詰の製作や配布、さらには学校での啓発活動と、活動の幅はどんどん広がっていきます。常に精力的に活動する三好さんにコノヒトカンプロジェクトを立ち上げ、継続する動機を伺いました。
「私自身は何かをもっているわけではなく、周りにいる方々の協力がなくては何もできませんでした。今でも全員で問題に取り組んでいこう、社会を良くしていこうと話しています。そのような皆さんとご一緒できるからこそ、何も持っていない自分は周りの人たちのために行動し続けたいし、恩返ししていきたいと常に思っています。」と三好さんは話します。
今後の展望について質問すると、やりたいことが山ほどあって決められないと笑顔で話す三好さん。ここに至るまで、やりたいことを声に出し伝え続けることで、三年目を迎えた今では、コノヒトカンプロジェクトを知った方々から直接お声がかかるようになり、今後も多様な活動を続けていきます。
最後に三好さんが目指す社会を伺いました。
「誰でも気にかけあえ、人々の心が豊かな社会を目指しています。自分が手一杯でも話を聞いたり行動に移せたりする心の豊かさ、例えば、周りにいる人の元気がなさそうで気になった時に「大丈夫?」と一言をかけられるような豊かな心を持った子どもたち増やしていきたいです。」
参考リンク