人材育成授業実践

探究活動を通し、社会貢献できる人材に。東海大浦安のサイエンスクラス

東海大学付属浦安高等学校・中等部には、理数系に強く興味を持つ生徒が通常の授業後や休日に受講できる「サイエンスクラス」という特別講座あります。この講座は、同校が実施する独自教育プログラム「浦安人生学」とも関連があり、2022年度から学習指導要領に科目として加わる「総合的な探究の時間」を先取りしています。サイエンスクラスについて、同校の副校長代行の福島章喜先生と理科主任の並木和先生にお話を伺いました。講座の取材レポートと一緒にお伝えします。

学んだその場でやってみる、好奇心を刺激する体験学習

取材に訪れた2020年10月中旬の夕方、授業を終えた中等部・高校の生徒らが続々と理科教室に集まってきました。この日のテーマは「ロボットの不思議」です。株式会社アフレル(以下、アフレル)の社員が講師となり、ロボットプログラミング教材の教育版レゴ®マインドストーム®EV3(以下、EV3)を使った講座が開かれました。当日は生徒二人につき一台ずつのEV3とタブレット端末が用意され、生徒たちは講座が始まる前からロボットに触れて興味津々の様子でした。最初にロボットの構造や付属のセンサーの説明があり、ロボットについて学んだ後は実際にプログラムを作っていきます。プログラムの作り方の基本を学んだら、次は自分たちで実践していきます。講師から「ものにぶつかりそうになったらロボットが停止するにはどのようなプログラムを作ればいいかな」と課題が出されると、教室中で話し合いが始まりました。いくつも用意された課題に生徒たちはプログラムを作ってロボットを動かしてみる、議論を重ねながら修正する、を繰り返してあっという間に時間が過ぎていきました。

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次いで、アフレル東京支社の社員とオンラインで繋ぎ、AI(Artificial Intelligence=人工知能)の概念やディープラーニングの仕組みに関する講座が行われました。冒頭では講師からの「AIに出来ることって何かな?」という問いに対し、複数の生徒から手が挙がり、「人の手伝いをする」「人とコミュニケーションが出来る」といった回答がありました。生徒の意見を受けて「では、今日はAIがどのような仕組みで成り立っているのか学んでいきましょう」と特化型・汎用型といったAIの分類に関する説明が続きました。AIの発達によって無くなった職業についての話題に移ると、プリントに意見を書きこむ生徒たちの様子も見られました。講座終了後は、ロボットに興味を持った生徒が先生に相談する姿もありました。

探究活動を通して社会貢献できる人材に

同校がサイエンスクラスを始めたのは2009年です。国際的に活躍できる科学技術人材の育成を目的として、日頃の授業では実施が難しいテーマやより専門的なテーマを中心に、授業後や休日に講座を毎週一回開いています。「サイエンスクラスは我が校の『浦安人生学』と結びついています」と、福島先生。「浦安人生学」とは同校が中高一貫の6年間を通して実施する教育プログラムで、「思いやり」「キャリア教育」「課題学習」の三つの柱を軸に作られています。サイエンスクラスでは三つの柱を反映させつつ、「自然や科学についての興味関心を深めながら課題に取り組む過程で、自分が社会にどのように貢献できるか気付くことをねらい」としています。

また、サイエンスクラスで扱うテーマはSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)とも深く関わっています。東京湾に住む生き物の年次経過を調べる回では、生徒たちの中に海の環境問題に対する当事者意識を醸成することを目的としたそうです。福島先生はSDGsの課題を用意して取り組んでもらうのではなく、「自分が学習していることが広い意味で社会に貢献しているという実感を持つことが大切」とお話してくださいました。

サイエンスクラスはもう一つの側面もあります。学習指導要領の改訂により、2022年度から全国の高等学校で「総合的な探究の時間」が新たに実施されることが決まっています。同校では探究活動の中で課題設定や研究発表の経験が培われる点に以前から着目し、高等学校全体での実施の前にサイエンスクラスで先取りして実践しています。「慣れないデータ分析や資料作成、ポスターセッションに戸惑ってしまう生徒も少なくないです」と、並木先生はおっしゃいます。しかし、回数を重ねていく中で力がつき、ディスカッションで筋道を立てて説明できるようになるそうです。サイエンスクラスでは中等部生と高校生が一緒に活動しているので、高校生は中等部生の存在を意識してリーダーシップを発揮し、中等部生は先輩の姿や振る舞いを見て成長する様子が見られるとにこやかにお話くださいました。

テーマ選定や指導方法では「先生も探究」

サイエンスクラスでは「生徒自ら気付き、考え、行動する」体験学習を重視しています。そのため、先生方はテーマ選びや指導方法にもいくつか気を付けているポイントがあるといいます。サイエンスクラスで扱うテーマは事前に生徒にアンケートをとった上で、担当の先生方が決めています。「生徒が興味を持ちそうなテーマはもちろん、SDGsや時代に即した内容を取り入れています」と並木先生が教えてくださいました。例えば、今回取材した「ロボットの不思議」はレゴブロックを用いたロボットの制作とプログラミング学習の融合を図った教材を活用したサイエンス教育を取り入れることで、東海大学の情報系学部学科への志望増を期待して作った講座です。

「私たちが行なうのはよく燃える火種を用意するところまで。あとは火種を使って生徒自ら燃えてくれれば」と福島先生は考えていらっしゃるそうです。火種を用意するために、先生自身今まで扱ったことのない分野にもアンテナを張り、先回りして学ぶ必要があります。さらに、用意したテーマの中で、生徒自らが考え、行動に移せるように導いていくのも先生の役割だといいます。「先生も探究です。教員一丸となって軌道にのせていかなきゃいけない」と、並木先生はおっしゃいました。

将来の夢はNASAとの外部連携も。生徒の進路選択の幅を広げる機会を提供。

サイエンスクラスはこれまでに大学、研究所、企業、地域団体との外部連携を多く行っています。その理由は「学校だけでは教えることができない最先端の技術や現場の生の声を知り、将来の幅を広げてもらうキャリア教育の一環」といいます。実際に日本航空株式会社の講座を受けた生徒がパイロットを目指して進路を決めた例もあるそうです。福島先生は現在の状況を「以前は難しかった大学・研究所・外部企業との連携も協力を得られやすくなってきた」と喜び、「今後は『学校』という枠が外れて学校外との垣根がより低くなっていく」と今後を見据えていらっしゃいました。
サイエンスクラスの展望を尋ねると、並木先生は「体験という部分を大切にし、探究活動を通じて生徒の進路選択の幅を広げてあげたいです。」、福島先生は「将来は国内外問わずに外部連携できたらいい」とお話され、「NASAとの連携という夢が叶えられたら」と期待感を滲ませた様子でした。

福島先生.jpg 福島 章喜先生 副校長代行
教科:理科
専門:化学・天然物有機化学・生化学、博士(工学)、
   サイエンスクラス担当
部活動:化学部顧問
並木先生.jpg 並木 和先生 教諭
教科:理科、理科主任
専門:生物・化学・生命化学、サイエンスクラス主担当
部活動:生物部顧問

参考リンク


【探究学習の実践例紹介・相談会 実施中】

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学習指導要領の改訂により、2022年度から高校で新たに「総合的な探究の時間」が実施されます。探究学習はSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)やSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)を始めとして、既に多くの学校で活発に行われています。アフレルでは、高校教員のみなさまを対象として、探究学習の企画や進め方をどうすればよいか、実践事例の紹介も含めた相談会を実施いたします。

探究学習の実践例紹介・相談会

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