2020年のプログラミング教育必修化に向けて、プログラミング教育を担う教員の養成が緊急の課題として浮上しています。プログラミング演習のねらいは、プログラミングに関する知識の習得というよりは知識の活用にあります。そのため、教員も教えるための知識だけではなく、生徒の試行錯誤をサポートするという姿勢がより重要視されているのです。プログラミング教育で教員に求められる、生徒をサポートするノウハウ。実は、教員自身がプログラミング演習という実践を経験することで、もっとも「生きた知識」として習得できるのす。
本記事では、プログラミングを教えることに関する学びの事例として、山口県の教育学部生たちが体験したメンター養成課程について紹介します。
総務省が推進するプログラミング教育推進プロジェクト
総務省は、2020年のプログラミング教育必修化を見すえて、2016年よりプログラミング教員養成を推進する「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」プロジェクトに取り組んでいます。当プロジェクトのひとつとして、2016年には11の実証プロジェクトが各都道府県で実施されました。実証プロジェクトには、現役教員だけではなく、教育学部の学生をはじめとして各地域の大学生も参加しました。
山口県は実証プロジェクトとして、オープンなデジタル・ファブリケーションスペースであるFabLab山口を活用して、小学生を対象としたロボット・プログラミング演習を実施。実施に先駆けて、小学生をサポートするメンターとして山口県在住の大学生が募集され、応募者から選出された大学生をメンターとして養成しました。
多様な経歴の大学生メンターが学んだPBL手法
メンター募集の際、県側はプログラミングの知識を必須とせず、幅広い学部からの学生が応募できるようにしました。「プログラミングを教える」ためには、プログラミングの知識だけでなく児童とのコミュニケーション力、ロボットをデザインする発想力といった多様な能力が、教える側にもあることが望ましいという理由からです。こうして選ばれた学生は、その約3人に2人がプログラミングの知識がない状態で、メンター養成課程を受講しました(画像1参照)。
メンター養成課程では、プログラミング知識の習得に加えて、演習に使う教材づくりを学生自らが担当しました。教材づくりを担当したことで、学生たちは自発的にミーティングを行い、各自のアイデアを共有し教材の改善に努めました。このように、メンター養成課程自体が、メンターとなる学生たちの創造的な学びの機会となったのです。メンター養成課程の受講者が体験した創造的な学びは、「プログラミング演習の準備をする」という実践的な課題が「プログラミングを教える」ノウハウを学ぶ機会となって、まさにPBL教育の最適な事例となりました。
メンター養成課程でのPBL手法の学びの効果と課題
メンター養成課程を受講後、実際にロボット・プログラミング演習が行われました。演習終了後、メンターとなった学生たちにメンターを体験してよかったと思ったことを尋ねたところ、以下のような回答がありました。
- 教えるためには、一度自分でやってみて、どこでつまずくのかを体験することが大事
- さまざまな学部の学生と交流し、意見を出し合えたことがよかった
- プログラミングはいろいろな教科(図工、算数、国語、理科)とつながりがあることが実感できた
ほかにもさまざまな回答がありましたが、学生たちが協力して、メンターとして小学生にプログラミングを教えたという「体験」自体から、多くのことを学んだという意見が共通していたのです。その一方で、課題も出ています。メンターにプログラミング演習実施に関する問題点を挙げてもらったところ、以下のような意見が出ました。
- 大学でプログラミングを学べる講義があるともっと充実すると感じた
- 授業の準備に膨大な時間がかかってしまう
教育学部にはPBL手法の学びが必要
プログラミング教育必修化に向けて教員を養成するために効果的なのは、山口県のメンター育成事例からわかるように、教える立場が実際にプログラミング教育を体験し、その体験から改善点を見つけていくPBLの手法です。それゆえ、教員を養成する教育学部にこそ、PBLの手法を学ぶ機会が不可欠と考えられます。また、プログラミング演習は従来の授業に比べて指導側の負担が大きくなることから、地域ぐるみでサポートする体制づくりも不可欠といえます。
参考: