昨今、ロボットを活用したビジネスモデル変革の実現までを目指す「RX(Robot Transformation)推進」という考え方が広がりを見せていますが、ロボット市場は2021年国内ロボット導入台数が前年比22%増(4.7万台)など右肩上がりで拡大しています。(データ引用元:「国際ロボット連盟(IFR)」https://ifr.org/)また、人材不足が顕著な業界をはじめ、様々な企業でロボット導入が始まっており、導入シーンに合わせてロボットの形状も多様化しています。
そのような中、株式会社NTTデータ(以下、NTTデータ)は2023年4月以降に全国15か所のデータセンタ拠点へのロボット導入を進めています。今回は、NTTデータの奥村友佳 氏にロボット導入に至るまでの活動や困難、その中で見えてきた実現に向けての重要ポイントについてインタビューしました。
奥村 友佳 氏
株式会社NTTデータ
法人コンサルティング&マーケティング事業部
NTTデータが目指すRX、設備点検作業をロボット導入で自動化/遠隔化
NTTデータは全国15か所にデータセンタを保有しています。24時間365日止められないセンタでは設備管理業務が極めて重要であり、安定稼働の維持に多くの人手がかかる一方、人手・熟練技術者不足が深刻な問題となっています。
一般的な設備管理業務では、事故や故障を防ぐための管理計画の策定・実施や、異常を早期発見するための点検、故障等から復旧するための修繕、さらにはこうした業務の記録・報告等が必要とされています。しかし、NTTデータは設備管理業務のうち点検業務が省人化による効果やデジタル技術活用による遠隔化/自動化の実現性が高いものと考え、同社NTT品川TWINS DATA棟にて実用化に向けた検証を進めてきました。
実用化に向けた検証では、事前に設定した点検ルートをロボットが自動巡回し、メーターやランプ、設備外観の撮影、センサによる臭気等環境データの取得を行うことで、人が行っていたメーター測定やランプ確認、外観異常・異臭チェックの業務を代替するかを検証しました。
▼ロボット導入機能とメリット
- 4Kカメラで、正確なメーターの読み取り
- 各種センサの搭載で、幅広い点検項目を網羅
- 走行ルートはノーコードで設定できる
PCのみで操作が可能で、走行ルートもノーコードで設定できるため、現場担当者も容易にロボットを利用することができます。
- 自動走行と遠隔操縦のハイブリッド
自動走行と遠隔操縦を切り替えることができ、自動で点検業務を行うだけでなく、遠隔からの作業支援など複数の用途で利用することができます。
奥村氏に、実用化に向けた検証を通して気づいたことを伺いました。
「今回、検証を重ねる中で、ロボットに任せるべき業務がより明確になりました。例えば、設備内部やケーブルの温度異常は、これまで点検作業員がサーモカメラを持って設備室内を巡回する、メーター点検作業中に焦げた匂いを五感で感知するといった方法で検知していました。この場合、多くの時間かかるうえに、実施タイミングや作業員の経験差などの理由で異常に気付くのが遅れる可能性もあります。代わりにサーモカメラやにおいセンサを装着したロボットが高頻度に館内を自動巡回することで、時間の大幅な削減や異常の早期発見に役立つと考えています。」
人材不足の課題、熟練技術者のリアルな意見で効果的な運用を実現
遠隔化及び自動化の実現には点検業務に長く従事してきた熟練技術者の知見やノウハウが不可欠だったそうです。ロボット導入実現に向けて重要だったポイントについて奥村氏に伺いました。
① 熟練技術者の暗黙知を形式知化し、ロボットで再現する
点検において、業務自体はマニュアル化されているものの、実際には経験の中で培われる暗黙知の知見やノウハウが重要になる場面が多いです。ロボットによる自動化のためには、熟練技術者へのヒアリングや熟練技術者からの主体的なアイディアが重要になります。
② 発生確率の低い異常も、ロボットで見逃さずに検知し業務全体の効率化へ
重大な異常が日常的に発生するわけではないですが、安定稼働を維持するためには全ての異常を想定し日々点検作業を行う必要があります。一方で、異常の有無に関わらず時間をかけて点検作業を行う事は非効率的という側面もあり、ロボットが点検することで安全稼働を維持しつつ効率化を図ることができます。
③ 導入現場での検証・試行錯誤でリアルな課題が見える
机上の検証だと簡単に実現できそうな気がしてきますが、実際の現場でロボットを動かしてみると、通信環境や人の導線、床の配線や段差の状態など、様々な課題が見えてきます。出来るだけ早いタイミングで導入現場での検証・試行錯誤することがとても重要です。
④ 現場技術者の不安の払しょくと主体的な活動
上記で挙げた①~③のポイントは、実際の点検業務経験を重ねないと気付くことが難しく、現場技術者の主体的な意見やアイディア出しが必要となります。しかし、「ロボットに仕事を取られるのでは」という世間のイメージが強く、現場技術者にもそういった先入観や不安があるのが実情です。そういった事を考慮し、現場技術者にとっての有用性を様々な角度から伝えたり、ロボットに実際に触れる機会を多く設けたりなど、丁寧なコミュニケーションを重ねることが重要です。
奥村氏に、現場技術者の参画に至った経緯を語っていただきました。
「私は当初、点検業務の知見がありませんでした。ロボットによる業務の遠隔化や自動化のためには現場技術者の方の意見がとても重要だと感じていたため、丸一か月毎日現場に通って現場の方にお話を伺ったり、一緒に点検業務を行ったりしました。また、現場の方の横でロボットを動かして検証を繰り返しました。そうしているうちに、徐々に現場技術者の皆さんがロボットに興味を持ち質問してくれるようになり、最終的には一緒にアイディア出しをすることができました。」
度重なる導入検証で培ったノウハウ、他業界・他社の支援へ
奥村氏は、今回の取り組みで獲得したノウハウをサービスとして他社や他業界に提供していきたいと語ります。
奥村氏「当社が保有するデータセンタのように、24時間安定稼働が求められる環境や止められない設備・建物は多くあります。今回の検証で獲得したノウハウをサービス化し、そういった業界や企業のお客様と伴走しながら業務の遠隔化/自動化による人手不足解消に向けて支援できればと考えています。また、そういった環境では、企業側は人手不足、従業員側は夜間勤務や時間外労働といった問題を抱えていることは少なくありません。働く人や働き方が限定されず、企業側も従業員側も多くの選択肢を持てる社会を実現するため、活動を続けていきたいです。」
<参考>
・ニュースリリース/NTTデータ
2023年4月より全国の当社データセンターに設備点検業務ロボットを本格展開
~人手不足が深刻化するビル管理業務において最大80%の点検業務時間削減へ~・NTTデータ「Our Way」
https://www.nttdata.com/jp/ja/about-us/mission/画像提供:株式会社NTTデータ