2020年度から大学入試センター試験が廃止され「大学入学共通テスト」が始まる予定ですが、これは高大接続の取り組みを背景としています。そこで高大接続とは何なのか、何を目指しているのか、またこれにより高校や大学だけでなく、小中学校にどのような影響が出るのかについて解説します。
思考力、判断力、表現力のある人材育成を目指す高大接続
高大接続とは、高校教育と大学教育を一貫した考え方と方向性で行う教育システムのことです。高校生の進路へのモチベーションを高めるための大学教員の出張講義やオープンキャンパスといった高大連携の取り組みはすでに始まっていますが、さらに進んだ改革を目指しています。高大接続では、社会構造が国際化や情報化で変化するなか、知識や技能の習得だけでなくそれらを基盤にした思考力、判断力、表現力の育成に重点がおかれます。
具体的にはどのような取り組みとなるのでしょうか。2017年1月に文部科学省が発表した「高大接続改革の動向について」では、3つの改革が高大接続の取り組みとして挙げられています。
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高等学校教育改革
高校生が自分の夢や目標を持って主体的に学ぶことのできる環境を整備し、課題の発見と解決に向けた主体的・協働的な学習・指導方法であるアクティブ・ラーニングへの飛躍的充実を図ること。また、教育の質の確保・向上を図り、生徒の学習改善に役立てるための新テスト「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の導入。
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大学教育改革
大学生が、高等学校教育までに培った力をさらに発展・向上させるため、個々の授業科目をこえた大学教育全体としてのカリキュラム・マネジメントの確立とともに、主体性を持って多様な人々と協力して学ぶことのできるアクティブ・ラーニングへと質的に転換すること。
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大学入試選抜改革
現行の大学入試センター試験を廃止し、大学で学ぶための力のうち、特に「思考力・判断力・表現力」を中心に評価する新テストを導入し、各大学での活用の推進。各大学が個別に行う入学者選抜では、多様な背景を持った学生の受け入れが促進されるように具体的な選抜方法とすること。
高大接続を行う背景
知識だけでなく主体性のある思考力、判断力、表現力のある人材を社会に輩出するためには、大学教育までを質的に転換していく必要があります。しかし、現在の高校教育は、大学入試に受かるための知識の習得に重点がおかれた教育となっています。そこで、まず大学入試方法を知識だけでなく思考力や判断力、表現力を評価するものに改革し、高校から大学までを新しい時代にふさわしい人材として育成する教育を目指すのが高大接続です。
高大接続で変わる大学入試方法。知識だけの評価は終了
高等学校教育の改革につながる「大学入学者選抜改革」として、大学入試センター試験が廃止され、2021年から学力評価テストが導入されます。大学入試方法の改革に関してはまだ議論・策定段階ですが、以下を取り入れた方向で進められています。
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高等学校基礎学力テスト
義務教育の内容も含めて高校生に求められる基礎学力の習得度を多面的に評価するもので、2017年 5月に名称が「高校生のための学びの基礎診断」にかわっています。学校の実態に応じて民間事業者が提供する測定ツールを採用し、科目は国語・数学・英語とすることや、コンピューターによる試験の実施も検討されています。
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学力評価テスト
センター試験に代わるものとなり、知識や技能だけでなく、思考力・判断力・表現力を中心に評価します。このためセンター試験のような解答を選択する方式ではなく、アクティブ・ラーニングの成果が発揮できる記述式が導入されます。
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個別大学における入学者選抜改革
多面的な評価のため、AO入試や推薦入試においても小論文やプレゼンテーション形式の活用、合格の早期決定で高校生の学習意欲が低下しないように入試時期にルールを設けることなどが検討されています。
高大接続に備えて小中学校から進むアクティブ・ラーニング
文部科学省の高大接続改革実行プランでは、学力の3要素として、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体性・多様性・協働性」が挙げられています。このため高大接続では、単に知識を習得して偏差値を上げるだけの教育から、能動的に学ぶことを教えるアクティブ・ラーニングの導入が計画されています。アクティブ・ラーニングとは、これまでのような与えられる教育ではなく、自ら問題を発見して解決したり、議論やプレゼンテーションをしたりして能動的に授業に関わっていく学習方法です。
しかし、高校で始まるアクティブ・ラーニングについていくためには小中学生から、そうした学習方法に慣れておく必要があります。思考力や問題解決能力、仮説をたてて検証する能力、創造力向上のためには基礎学力と知識も必要ですが、これまでの暗記や詰め込み式ではない教育方法が今後重要になっていきます。
高大接続に備えて
少子化が進む日本がグローバル化した世界に対応していくためには従来の教育方法を変える必要があり、高大接続による教育改革が進められています。高大接続のポイントとなるのは、知識や技能だけでなく、思考力・判断力・表現力を多面的かつ総合的に評価する仕組みで、これらの能力を育成するための教育を高校から大学まで一貫して行っていくことです。そしてそうした新しい評価方法に対応するためには、小中学校からアクティブ・ラーニングにより、何を知っているかよりも知っていることを生かす能力を伸ばす教育が必要になっています。
参考: