【識者インタビュー】ICT教育の意義と国際ロボコン「WROの果たす役割」

識者インタビューの第三回は、国際ロボットコンテストWRO Japan名誉会長でいらっしゃる安西祐一郎氏です。(転載元:2014/7/10発行 アフレル通信 Vol.4)

独立行政法人日本学術振興会理事長/WRO Japan名誉会長、安西祐一郎氏は、日本の教育改革の旗手であり、子どもたちの未来づくりを牽引している存在である。そんな安西氏に、ICT(Information and Communication Technology)はどのように教育の可能性を広げることができるか、小学生から参加可能な国際ロボットコンテスト「WRO」はどんな役割を果たしているかについて、お話を伺った。

受け身の教育から能動的学習へ

情報科学・認知科学の専門家であり、独立行政法人日本学術振興会理事長を務める安西祐一郎氏は、日本の教育改革に日々取り組んでいる。その方針は「受け身の教育から能動的学習へ」だ。

「戦後からこれまでの学校の勉強は、言わば “他人事”でした。自分のため、あるいは人のためにしているのではなく、単位を取って卒業して、エントリーシートを書くための受け身の勉強でした。ですから、社会に貢献しよう、他人を幸せにしようと思った時に、自分はそれを実現するためのどのような力を持っているのか、見つけにくかったのです。受け身の教育では、自分の持っている “力” はなかなか見つかりません」

安西氏の示す「力」には、理数系の力といった教科だけでなく、交渉力や笑いを取る力、人を和ませる力など、多様なものが含まれる。
「人は多くの力を秘めて生まれてきます。ところが、自分の力が分からないまま、一生を過ごしてしまう人も多いでしょう。イノベーティブでなければ不幸になってしまいます。そんな状況を、なんとか変えていきたいと思っています。そうすれば、多くの子どもたちが、自分で自分の道を歩み、より人生を楽しめるようになるでしょう」

本当のチームワークを学ぶ機会を

安西氏によれば、政府の教育政策や中央教育審議会等において「受け身の教育から能動的学習へ」は大きな流れになっているが、「チームワーク」の学習は、議論の中であまり取り上げられていないそうだ。
「一緒にチームを組んで、ひとつの目標のために、みんなで努力をする。そのチームのメンバーの中には、あまり好かない子がいるかもしれない。そういう人たちの気持ちも感じて、自分の主張もして、チーム全体で一番良いパフォーマンスを出せるようにする。それがチーム力です。初めて出会った人ともチーム力を発揮できる、そういうトレーニングが、今の日本の教育ではできていません。グローバル化が進んだ今、チームワークについて学習する機会を増やすことは重要だと思います。」

ICTと教育の関係

ICTを活用した学校教育は、能動的な学習能力を育むにあたって、大いに役立つと安西氏は言う。
「ICT教育には二種類あります。ひとつはICTの技術を学ぶことです。エクセルやワードの操作を覚えたり、プログラムを書けるようにすることです。そしてもうひとつは、ICTを使って能動的学習をできるようにすることです。混同されやすいのですが、より大事なのは二番目なのです」
ICTを使った教育は、佐賀県が非常に熱心だそうだ。生徒は教室でタブレットPCを使い、電子黒板上にお互いが書いたものをアップして、それを見ながら議論していく。
「授業だけでなく、いつでもどこでも、友達と遊びながらでも学べるようになることが、『受け身の教育から能動的学習へ』という世界を開くと思います。そしてさらに、先輩たる大人たちが加わって、みんなで学んでいく。これこそが日本の教育の未来ではないでしょうか」

多くを学べるプログラミング

安西氏は、ICT教育のなかでもプログラミング教育を重要視する。
「まず、プログラミング教育というのは『手続き』を教えることです。手続きがきちんと完結していないとプログラムは動きません。曖昧さを許さないわけです。何か問題が起こった時に、それに対してどういう手続きを取れば良いのか、冷静に考えるトレーニングになります。
次に『構造抽出』を学ぶことができます。ロボットの見た目をいくらきれいにデッサンしても、プログラミングはできません。障害物の間を通りたいとき、本質的にどういう制御をすればいいのか。こうした思考から、ものごとの要素・構造を抽出する力が高まります。そして『価値付け』が養われます。ロボットに何をさせたいのか。それを決めるためには、現実の環境下で、何が大事なのかを選択する必要があります。これはとても大事な判断力です」
プログラミングができる人間は冷たい、機械みたいな人間と思われがちですが、と安西氏は苦笑しながら言う。
「無限に変わりうる現実に、有限なルールでどのように対応していくのか。プログラミングというのは、いろいろなことを学ぶことができるのです」

国際ロボコン「WRO」に期待すること

安西氏は、自律型ロボットによる国際的なロボットコンテスト「WRO(World Robot Olympiad)」の名誉実行委員長でもある。WROは、世界39カ国約20,000人の小学生から高校生までが自分でロボットを製作し、プログラムにより自動制御する技術を競うコンテストだ。
「WROは、子どもたちが主体的に関わり、しかもチームワークが求められるロボットコンテストです。これまでお話ししてきたこれからの日本の教育の方向をはっきり示している競技ですので、ぜひ続けていただきたいと思っています」
WROは2004年にシンガポールで始まったコンテストである。国内大会を勝ち抜いたチームによる国際大会は、インドネシアやマレーシア、アラブ首長国連邦など、さまざまな国で行われてきた。2014年大会はロシアでの開催となっている。
「WROが素晴らしいのは、世界に開いていることです。これからも、子どもたちを世界に連れていってほしいと思います。将来、その子どもたちが、ほかの世界を見たことがない子どもたちのお手本になってくれることを期待しています」

安西 祐一郎 氏 プロフィール

WRO Japan 名誉会長
独立行政法人日本学術振興会理事長
昭和49年慶應義塾大学大学院博士課程修了。カーネギーメロン大学客員助教授、北海道大学助教授、慶應義塾大学教授等を経て、平成5年慶應義塾大学理工学部長、13~21年慶應義塾長、23年~現職。中央教育審議会会長、日本ユネスコ国内委員会会長、全国大学体育連合会長などを務める。専門は認知科学・情報科学。長年にわたり学習、思考、コミュニケーションの情報学的研究に従事するとともに、人間の心と社会の問題に広く取り組んでいる。著書『心と脳』(岩波新書)、『教育が日本をひらく』(慶應義塾大学出版会)、『「デジタル脳」が日本を救う―21世紀の開国論』(講談社)、『認識と学習』(岩波書店)、『問題解決の心理学』(中公新書)、『知識と表象』(産業図書)ほか多数。

インタビュー後記

安西先生にはWRO Japanの名誉実行委員長を務めていただいており、私どもの人材育成活動に大きなご支援をいただいています。ご多忙な中、インタビューにご対応いただきましたこと、深く感謝いたします。誠にありがとうございました。
安西先生のお話にある"他人事""能動的学習"というキーワードで、こんな話を思い出しました。私のロボコン仲間、今年60才を迎えるAさんの同窓会での話です。定年を迎える方が多い中、Aさんの同級生であるBさんが「学校時代からこれまでに挫折や大きな失敗はなかった。ただ、自分の人生はこれでよかったのかと公開がある。ずっと"あるところ"を歩んできた気がする」とおっしゃっていたそうです。一方、Aさんは学校を出て自衛隊に入り、そこから転出してソフトウェア開発企業を起こしました。その後今もエンジニアとして、また大学で講師として活躍しています。そのAさんは「これまでの人生まったく後悔してない、戻りたい時期なんてない。ロボコンや大学で若い人達とふれあい、彼らの育成に参加できている。今もスゴクおもしろくて充実しているよ!」とおっしゃっています。若輩者がはなはだ僭越ではありますが、もしかしたら「挫折はなかったが後悔している」とおっしゃられた方は"他人事"な部分があったのかもしれない、一方でAさんは常に能動的に選択してきたのかな、という考えが巡りました。
WRO Japanを通じて若者の育成、明るい未来社会づくりに向けて、安西先生とご一緒に継続していけるよう、我々自身も"能動的"に活動していきたいと思っています。ぜひ、みなさまのご協力をよろしくお願い致します。
株式会社アフレル 代表取締役社長 小林 靖英

参考

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