STEAM教育

教育現場と家庭で養う「子ども達のクリエイティビティ」

本記事は、2019/12/1(日)に開催された「わくわく?プログラミングDAY in 札幌」の特別講演レポートです。

「クリエイティブ、これからの時代に活躍する人材」
横尾圭二 (札幌龍谷学園高等学校 情報教育部長)

2019年12月、札幌にてアフレル主催の「わくわく?プログラミングDAY in札幌」が開催されました。プログラミング教育が急速に広まり、各地でプログラミングをテーマにしたワークショップが行われていますが、「なぜ今プログラミング教育なのか」という核心部分を保護者の方にお伝えしている機会は少ないように感じます。同イベントでは札幌でプログラミング教育に従事するお二方の講演と小学生向けのワークショップを実施しました。登壇者のお一人、札幌龍谷学園高等学校の横尾圭二先生には「クリエイティブ、これからの時代に活躍する人材」というタイトルでお話頂きました。

戦後から変わらない?今の学校教育

横尾先生は日頃、高校で教壇に立つかたわら、北海道ロボット教育推進会※1の運営委員として小中学生に教育版レゴ®マインドストーム®EV3を使ったロボット教室を実施されています。また、Appleのテクノロジーを活用して革新的かつ先端的な授業を行なっている教員が選出される、Apple Distinguished Educatorの認定者の一人です。講演の冒頭、横尾先生は戦後の授業風景と今の授業風景の写真をスライドに投影し、授業の手法に変化が見られないことを指摘しました。「先生が教科書の内容を黒板に書き写し、それを生徒がノートに書き写しているのは今も昔も変わりません。時代も環境も大きく変わっていっているのに、この教育で将来子ども達は活躍していると思いますか?」

「自分は創造的であると感じている生徒」がわずか8%という事実

「昔ながらの受動的な授業は、子ども達の意識にも影響を与えています」と横尾先生。あるデータによると、12歳から18歳の日本人500人で「自分が創造的であると感じている生徒」はわずか8%と少なく、このデータは諸外国に比べて著しく低い結果です。さらに、仕事に関する質問では日本人の約7割の生徒たちが「創造性を必要とするのは特別な人だけである」と考えていることがわかりました。

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さらに、横尾先生は現在の大学入学試験にも言及し、「多くは、教科書に書かれているものを暗記し、時間内に書き出せれば通過できます。しかし、大学卒業後、社会に出て求められるのは、創造性やクリエイティブな働き方です。今まで意識してこなかったものを急に求められて、多くの人は戸惑ってしまいます」と現状を説明しました。変化の激しいこれからの時代、「創造性は活躍する人材には欠かせない能力の一つであり、多くの人が育む必要がある」と横尾先生は指摘しました。

「これからの時代に活躍するには三つの能力が必要になります。一つ目はホスピタリティです。隣人に挨拶する、お礼を言うといった日本人が昔から大切にしてきたことで、家庭で育むことができます。二つ目はマネジメントです。組織の中でどのような役割を担うかということです。リーダーシップを発揮したり、組織の一員として役割に徹するなど学校やアフタ―スクールで育むことができます。三つ目が創造性です。ワクワクしたり、夢中になったり、ドキドキするような環境を大人は作り出してあげましょう。これは家庭や学校など様々な場面で育むことができます」。

?創造性を育む“生徒が主役”のCo-Creation授業とは

Apple Distinguished Educatorの認定者の一人である横尾先生は、ご自身の務める高校でテクノロジーを駆使し、今までの授業形式と異なる手法に取り組んでいます。ある授業では生徒が先生の代わりに教壇に立って生徒同士が教えあったり、ある授業では生徒が自分の興味ある問題を選び、生徒にプレゼンテーションをします。こういった授業の核となる部分が「“生徒が主役”であること」。生徒らが自分達で授業を創ったり(=Co-Creation)や生徒が創造性を発揮できるような授業展開を何より大事にしているそうです。「社会に出ると一人で仕事をすることはありません。チームで新しいものを創り出したり、チームで既存のものをより良くしていきます。それが、これからの社会では求められます。生徒が主体となって積極的に取り組みます。生徒が授業すると寝てる率が違いますね。」

(札幌龍谷学園高等学校での授業一例)
・生徒が事前に単元を学習。先生役として教壇に立ち、クラスメイトに向けて授業を実施する。

・生徒が体育館のスクリーンを使用し、「ダンスと黒人文化」というテーマで発表。生徒自身が興味のあるテーマで問いを設定し、自分なりの答えを導き出すので、問いを立てる力と創造力を育むことが出来る。

・札幌と福岡の高校生同士のオンライン英会話を実施。従来の授業では目の前にいる先生や生徒と英会話をしていたが、遠く離れた初めての相手と英会話するため、より緊張感を持ちながら「どうしたら伝わるか」工夫するようになる。

学校教育トレンドを読み解く「三つの変化」

2020年度はいよいよ教育改革が始まります。横尾先生はこれから学校現場で起こる変化について説明されました。

「主に三つの変化が起こると考えられます。一つ目は『思考力を問う入試』です。有名私立の中高一貫校の受験では取り入れられている学校もありますが、ディベートやディスカッション、プログラミングを使った入試を言います。ただ計算する問題は一つもなく、文章で問題が出され、受験生は考えと根拠を問われます。二つ目は『持ち込み可試験』です。一瞬ラッキーと思いがちですが、調べて答えがわかるような問題ではなく、本質を理解していないと解けない問題が出されるので、深堀りした勉強が必要です。例えば『AIとは何ですか?』という問題ではなく、『今までのAIの歴史を振り返って述べなさい、かつこれからの10年間AIがどう活躍するかあなたの意見を述べなさい』といったような問題です。三つ目は、『高校入試廃止』です。私立中高一貫校に限りますが、高校入試が廃止されていくと考えています。背景には、大学入学試験で思考力を問うような試験が主流となりつつあるという状況があります。しかし、思考力を養うには時間がかかります。教科書に書いてあるだけの勉強じゃなく、学校外の経験や体験が重要で、高校の3年間では短すぎるため、中高一貫校で時間をかけて思考力を身に着けさせようという考えです」。

クリエイティビティはしつけと同じくらい大事

一方、「思考力やクリエイティビティは家庭でも養うことができる」と横尾先生は話します。
その一例として、ロボットを使ったコンテストのWRO JAPAN決勝大会で入賞し、2019年11月にハンガリーで開催されたWRO国際大会※3に出場した生徒の話を挙げられました。彼らは外国人審査員の前で自分達の考えをスライドとロボットを駆使して表現し、さらに英語でプレゼンテーションをしました。一見、特別な才能を持った子ども達のように思えますが、元々はごく普通の子だったと言います。
「大会では彼らの高いクリエイティビティが評価されていましたが、特別なことをしていたわけではありません。自分の気になることを調べるために図書館に出かけたり、先生に尋ねるという行動を繰り返していました。心の中に生まれたひらめきやわくわくに従い、夢中になって物事に取り組むという行動がクリエイティビティを養ったのです。家庭ではそういったお子様の活動を応援する環境づくりが大切です」。
さらに、幼い頃にクリエイティビティを養うことで将来大人になり熱中するものに出会った時に威力を発揮するそうです。「保護者の皆さんもしつけが大切ということはご存知かと思います。そのしつけと同じくらいクリエイティビティを育むことも大切です。両方を意識した教育が出来ているか是非考えて頂きたいです」。

社会と大人がやるべきこと

最後に、横尾先生は「子ども達のクリエイティビティは育て伸ばすもの」と強調したうえで、「元々一人ひとり素質があり、その素質を環境の中でどのくらい培っていけるかが重要になります」と力強くお話されました。「学校や家庭で色とりどりのものを見て「わぁ、綺麗」や「いい匂い」や「綺麗な音色だなぁ」といった感性こそがクリエイティビティに繋がっていると思います。」と締めくくられました。


参考リンク 


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