「里山は世界最先端の学びの場」、農林高校でAI授業を実現した理由とは

日頃、森林の保全や利用方法について学習している岐阜県立加茂農林高等学校森林科学科で、2020年2月、同校初のAI授業が実施されました。(参考記事:【授業実践】農林高校でAI授業「先端技術で拓く里山の未来」)目的は先端技術を活用し、柔軟な創造力で地域課題を解決できる人材の育成です。本記事では、この授業の構想人である田園イニシアティブ株式会社楢木隆彦さんにお話を伺いました。

美濃加茂市が取り組む、次代を担う人材の育成

加茂農林高等学校で実施されたAI授業の始まりは、美濃加茂市が打ち出す「里山千年構想」にあります。学校がある美濃加茂市は木曽川や飛騨川などの河川と広大な山々に囲まれた自然豊かな土地で、古くからひとと自然が共存する里山を形成してきました。しかし、近年は生活様式の変化や農林業の人材不足から里山の荒廃が進み、生態系への影響や農作物被害、さらには環境汚染などの問題が生じていました。こうした背景から、美濃加茂市は市内の里山を再生・維持し、先端技術を取り入れながら千年先まで残していこうとするプロジェクト「里山千年構想」を2016年に立ち上げました。このプロジェクトを具体的なアクションに落とし込んだのが「里山千年基本計画」で、重要施策の一つに地域住民の人材育成が挙げられています。里山を維持するためには行政や山林所有者のみならず、地域住民の力が必要になります。そこで、以前から全国で農をテーマにESD(=Education for Sustainable Development)に取り組んできた楢木さんに声がかかりました。

里山こそ「STEAM教育に最適の場」

美濃加茂市が考える人材育成では、次代を担う子どもたちへの教育も重要とされています。楢木さんは全国の地域課題と向き合ってきた経験から「課題について話し合う時、参加者が大人だけになりがちですが、10~20年後の主役は今の子どもたちです。将来を担う子どもたちこそ、現状の課題を知り、持続可能な社会を作る力を養う教育が必要です」と次世代への教育の大切さを強調しました。

担い手育成の舞台 に選ばれたのは岐阜県立加茂農林高等学校です。授業のテーマは「里山×STEAM」。AIの基礎知識(データの収集、学習、推論)を学び、生徒たちが洗い出した里山の課題に対してAIを活用するとどのような解決策が見いだせるかアイディアを出すという内容でした。楢木さんはSTEAM教育について、これからを生き抜く力を養うために重要な教育方法だと言います。そして里山こそ「身近にある学びの場として最適である」と考えているそうです。「里山は様々なものが共存するために、組織、人、環境、設備が持続可能な仕組みでバランスよく揃っています。世界を見渡してもこのようなフィールドはあまりありません。先端の学びの場と言っていいと思います。」と話されました。

AI授業「百の説明よりやってみる」が大事

楢木さんに授業の企画段階で大変だったことをお聞きすると、「100分(5限、6限で実施)という短時間の中でのマネジメントです」という回答がありました。同校が生徒向けにAI授業を行うのは初めてで、AIの難解な仕組みについて短時間でわかりやすく説明することは一つの課題だったと言います。どのような工夫をされたのか、ポイントを教えていただきました。

  • デモンストレーションの時間を多く取る

    楢木さんは座学の時間よりも、生徒が実際に体験できるデモンストレーションの時間を多く取るように決めていたそうです。その方が生徒たちの興味関心が強く、インプットが速いという理由からでした。実際、授業の半分以上はデモンストレーションに、残りの半分は生徒が発言したり、考えを紙に書き出したりするアウトプットの時間に充てられました。

  • 「シンプルで直感的に使える」ツールを利用する
    授業では里山の課題を可視化するためにマンダラシート®を、AIをわかりやすく学ぶための教材に教育版レゴ®マインドストーム®EV3 を使用されていました。教育版レゴ®マインドストーム®EV3を選んだ理由を伺うと次のように話してくれました。「レゴを使うというのが子どもたちにとってわかりやすくていいです。初学者が抵抗なく使える上、次のステップに進みプログラミング言語で学習したい人も使えます。レゴブロックは組み立てが容易で、プロトタイプ制作にも向いています。また、作ったプロトタイプを人に見せたり、プレゼンテーションにも使えるのもいいですね」。

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産学官連携の授業がもたらした効果とは

産学官を巻き込んだ授業は、二つのメリットが考えられると楢木さんは言います。

一つ目は地域が持っている課題が可視化されることです。例えば授業で取り上げた里山の課題は、意外と市民には認知されていないそうです。しかし、子どもたちや企業など様々な人が関わり、発信していくことで地域全体が課題を共有できます。新聞に取り上げてもらうことは学校の活動を知ってもらうきっかけにもなります。
二つ目は地元企業や森林業への就職を促進することです。授業後に生徒から集めたアンケートでは地域課題に対する考えやAIについて関心の高さが見られたそうです。楢木さんが授業で目指したのは、生徒たちが地域課題を当事者意識で捉え、課題解決のアイディアを生み出す創造力を育むこと。この授業で「どう解決できるか」と考えた経験が、卒業後に「実践してみたい」という人材を増やすきっかけになると言います。
また、授業を振り返って先生方に喜んでもらったことは大きかったそうです。生徒たちが日頃学んでいる知識を応用して取り組む姿を目にして、授業の内容が身に付いていると感じたと言います。

大人と子どもが一緒に作る「授業モデル」

日本は国土の約4割を里山が占める里山大国で、森林業の 担い手不足は美濃加茂市だけの課題ではありません。楢木さんは今回実施した授業モデルを他の地域でも広めていきたいと考えているそうです。「大事なのは大人と子どもが同じ課題について向き合い取り組んでいくことです。大人は経験から学んできた知識を提供し、子どもは経験の代わりに素直な疑問やアイディアを投げかけます。そういった環境をつくることが新しい気づきを生みだしていきます。企業、学校、地域など様々な立場の人を巻き込みながら持続的な地域支援に取り組んでいきます」。

参考リンク

関連リンク

アフレルでは、AIに関する授業導入を検討されている学校、教育委員会、教育機関の方を対象として、実践事例を交えながら授業内容や導入の流れに関する疑問にお答えし、不安を解消するための相談会を実施しています。

ロボットを活用したAI授業導入相談会~AI教育に関する不安や疑問を解消~

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